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111.侯爵令嬢と四大精霊

更新が遅くなり申し訳ございません。

よろしくお願いします。

窓から飛び出したプルシアンの少女を追いかけようとして、三階という高さに足を止めた私を有無を言わさず背に乗せたのはタケだった。裸足で夜着のまま大きな白銀の躯体にまたがった私は映画で見た獣の姫を思い出したが、すぐさまそれは落下の浮遊感にかき消された。ジェットコースターともバンジージャンプとも違う独特な浮遊感と恐怖にギュっと瞼を閉じて悲鳴を抑え込み、何とか耐え切った私はすでに疲労困憊だ。それでも、タケは私を気にする様子などなく力強く地面を蹴り、少女を追って駆け出した。その横を並走するウメに視線を向ければ、彼女は少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。

…まさか、帰りは自分に乗れなんて言わないよね…?

まだ目的地に到着していないのに、帰りの事を想像して私は力なくうなだれた。


不思議なほどに静まり返った屋敷の裏庭をタケの背に乗って進んでいく。

月明かりに照らされた薬草畑もその奥に広がる森も夜なのに、なぜだか白く澄んでいる様に見えて、その幻想的な景色に背筋が震えた。

見慣れている光景のはずなのに、まるで別世界に来たみたい…。

不思議な高揚感と期待、そして少しの不安を感じながらも正面を見据えれば、目の前には「あの」大きな樹が鎮座していた。


『やっと来たのね?もう、遅すぎて待ちくたびれたわ。』


プルシアンの姿のまま木の枝にとまった少女は綺麗な羽をバサバサと揺らして不機嫌をアピールしてくる。それに、ため息をはいて私はタケの背から降りた。

生い茂った草は、裸足の脚に少しチクチクしたが、それれは決して不快でなく夜露に濡れたしっとりとした感触は少し気持ちいい気がする。


お待たせしました。それで、どうすればいいの?


これ以上怒らせるのは面倒だから早く先を進めようとプルシアンを見上げれば、得意げに胸を張って嘴を鳴らした。


『幹に手を当てて、精霊を呼ぶのよ。あなたに答えてくれる気があるなら姿を見せてくれるわ。』


そんなことでいいの?もっと大層な呪文とか、決まり文句みたいなのないの?


『あなたねぇー、精霊召喚に夢を持ちすぎよ?彼らは畏まった言葉も高度な呪文も必要としていないわ。彼らが重視するのは「好きか嫌いか」だけよ。』


そう言った少女に何か言い返そうと思ったが、ここで言い返せば面倒なことになるのであえて何も言わずにそっと目の前の大きな幹に手を当てた。

どんなふうに呼べばいいのかしら?そう思いしばらく考えていた頭にゆっくりと英文が思い浮かんでくる。この世界に転生してから一度も見える事がなかったその文章は、英語圏から離れてだいぶたった、今でもハッキリと読み上げる事が出来た。


「My old friend, answer my call and show yourself(古い友人よ、私の声に応えて姿を見せて).」


次の瞬間、目の前の大木が淡い光を放ち、幾つものシャボン玉のような物が無数の枝から舞い降りてきた。


「!!」


突然の事に驚き幹から手を離して後ずさると今まで手を置いていた所から大きな白いかたまりが四つ湧き出て、フワフワと空を漂いながら私を取り囲んだ。やがてそれはゆっくりと人型を作っていき、瞬く間に半透明の美しい人間らしい物へと変わった。


『やっと…会えたな。』


緑色の光を纏った中性的な顔立ちの男性がゆっくりと私を見て目を細めた。


『ずいぶんと懐かしい言葉で呼ばれたものだな。』


次は青色の光を纏ったガタイのいい男性がニカッと歯を見せて笑う。


『…とても、珍しい魂ね…。現世と常世?いえ、別の世界の光を持っているわ…。』


黄色の光を纏った小柄でふくよかな体型の女性が私をまじまじと見つめてくる。まるでクリソベルリ・キャッツアイのような輝きを放つ瞳に仰け反れば背後からボワッと赤い光が立ち込めた。


『なんにせよ、我らを同時に呼び出すとは大したものだ!こんな人間初めてじゃないか?』


凛とした高い声に振り返れば、赤い光を纏った気の強そうな女性が立っていた。


「あ、あなた達が…?」


四人の登場に驚きながらも口を開けば、バサッと羽音を響かせて枝から降りたプルシアンの少女は私の横に立った。


『凄いわね…。まさか本当に一回で四大精霊を呼び出しちゃうなんて。』


感心したように四人を見まわした少女は最後に私と視線を合わせると、ニッと口角を上げた。


『彼らが数多の精霊たちの属性の長で精霊王様の四天王と呼ばれる四大精霊よ。』


マジか…。私本当に精霊を呼び出しちゃったんだ。

昔アニメで見た、カードから精霊を呼び出す少女にあこがれていた私の心が少し疼く。長い杖とか独特な呼び出し文句とかつくっちゃおうかな?サーチェス様がいればそれなりの物は作れそうだけど…。


『ちょっと、馬鹿なこと考えてないで、さっさと彼らと契約をしなさいよ!』


憧れに走っていた私の意思考を甲高い声が現実へ呼び戻した。

いけないいけない。今はそれどころじゃなかったわね。

…というか、精霊と契約って、この人たちがまだ契約してくれるって決まったわけじゃないでしょ?まずは本人の意思を確認しないと。悪者の様に、隷属とか無理やりとかは絶対にしたくないし。


『契約か…私はかまわない。元から、君に呼ばれるの事を望んでいた。』

『俺もいいぜ!あんなに泣き虫だった頃から見てきたんだ。願ったり叶ったりだな。』

『私も…かまいません。あなたは魔力が極端に少ないせいか、私達にはとても愛おしく感じられます。』

『我もかまわん!お前からは数多の動物たちの…獣人の匂いがする。アイツらに相当好かれているのだろう?そういう奴は我も好きだ。』


「えぇ…ッ!?」


余りにもすんなりとした了承に私の方が戸惑ってしまえば、コンッとプルシアンの少女が肘で私の腰を小突いた。


『だから言ったでしょ?あなたには四大精霊の加護がついているって。彼らはあなたが生まれた時からずっとこの樹を通してあなたを見守って来たのよ。』


…確かに。嫌なことや落ち込無ことがあった時はいつもこの木のところに来ていた。理由は分からないけど、なぜだか、この樹のそばにいると落ち着いて、安らぐ様な気がしていたからだ。でも、もしかしてそれも、彼らのお陰だったの?


『契約を結んでいないから、少ししか私達の力を分け与えることができませんでした。』


まるで私の心の声に答え科の様に黄色の女性が口を開いた。


『あなたが、傷つき打ちひしがれている事をわかっていながら、何もできない日々はとても悲しかった。』


そう言った彼女の大きな瞳に涙が溜まる。


『何度も呼び掛けてはみたんだが、契約を結ぶ前はそちらから呼びかけてもらう以外、我らの声を届ける方法が無くてな…。ただ、この樹の枝葉を揺らしてやることしかできなかった。』


赤い女性は少し悔しそうに苦い笑みを浮かべていた。


『本来ならば、私達は君の誕生と共に加護を与え、契約を結ぶはずだった。…あの娘…リエースがあのようなことにならなければな…。』


緑の男性がそう言った瞬間、突然サーッと雨が降り出した。

今まで月明かりが眩しいくらいに照らしていたそこは瞬く間に雨のカーテンに包まれる。

え?雨!?突然の雨に驚くが、突然出てきたひいお婆様の名前に私は二人から目を離せなかった。


『…あの娘の話はやめろ。あの件は仕方のないこと。この娘と今まで契約を結べなかった事は悔やまれるが、それをあの娘のせいにすることは…俺が…ゆるさない。』


次の瞬間、ザーッ!と柔らかな雨が打ち付けるような激しい物に変わった。まるで怒りをぶつけるかのように猛烈な勢いで大きな雨粒が地面を叩き付ける。

…これが、精霊の力…。

魔法があるこの世界に来て多少なりとも超常現象にはなれたつもりだったけど、天候も自在に操るなんて…まるで神の御業だわ。そして、恐らくこの雨はエール川を氾濫させたものと同じ…。そこまで考えて、視線を青い男性へ向けた。視線の先には、悲しいとも怒っているとも取れるような複雑な表情をして、視線だけは鋭く緑の男性をにらみつけていた。


『怒りを沈めろ。誰もそのようなことは言っていない。あの娘の件はもう終わった事だ。いつまでも感傷に浸るのはやめたらどうだ水の者よ。』

『…ッ!…ならば、もうあの娘の話は口にするな風の者よ…。』


風の者と水の者。

ということはあの緑の男性が風の精霊で、青い男性が水の精霊かしら?

だとしたら…ひいお婆様の最後を看取ったのは…。


『すまない…。無神経なことを言ったようだ。』


静かに聞こえた緑の人の声にハッと思考を戻す。


『その謝罪受け入れよう。…私も感情的になり過ぎた。』


緑の人からの謝罪を受けいれたという青の人が右手を軽く振れば、雨は一瞬で止み、さっきまでの豪雨が嘘のように月明かりが辺り一面を照らしていた。

すご…い…。

突然の光景に驚いた所でふいに先ほどまで雨に打たれていたのに服や体や足元の芝生が濡れていないことに気が付いた。同じ場所で雨に打たれていたはずのタケとウメもまったく濡れていない。

どういう事?まさか私達だけ濡れないようにコントロールしたの?


『四大精霊何だからそれくらい出来て当たり前よ。』


頭の中の問いに背後から急に掛かった声にびくりと肩を揺らせば、それを見てプルシアンが笑った。


『こんなことで驚いていたら、これから先やっていけないわよ?なんたってあなたはこれから、火・水・風・土の四属性全ての力を使える様になるのだから。』


プルシアンの少女の言葉に一瞬で思考回路が停止する。

火・水・風・土の四属性全ての力を使える様になる…?四属性…全部…?

は?…え?ちょ、ちょっ…まって…そんな事…無理でしょ?


この国に生まれた人間は生まれた時に魔力を宿し、自分の属性が決まる。火・水・風・土の四属性から基本的には1人1属性しか得られず、複数の属性の魔法を持つなんて聞いたことがない。まれに、治癒魔法の様に四属性の魔法から派生して使用される魔法もあるけれどそれは例外中の例外だ。それに派生魔法はそれほど多くなく、新たな魔法は魔法省への報告が義務付けられている。もちろん治癒魔法は既に登録済みで、サーチェス様も仕事柄、火魔法から派生させた魔法を幾つか使用していたはずだけど。やっぱり、思い返してみても一人で複数の属性を持ったという話しは聞いたことがない。

私が悶々と考えていると頭に高い声が響いた。


『無理じゃないわよ!』


聞き覚えのある声に視線を落とせば、タケの背に止まった青い美しい鳥。プルシアンが黄色の尾を揺らしていた。


その根拠は?


無理じゃないと小さな胸を張るプルシアンに説明を求めれば青い小さな躯体が揺れる。


『精霊の力は魔法とは異なるものであり、流れゆく時間と自然の中で生まれた世界の摂理。精霊の加護と力の付与。精霊との契約と使役。それらは遥か昔から続いてきた現世の理。魔法の様に使役者に制約されたものではなく、自由なもの。あなたが持っている魔法の知識では測り切れないしいくら考えても答えは出ないわよ。だから、とっとと諦めて精霊たちと契約しなさい!』


ビシッと片翼を突きつけられて、思わず仰け反る。

タケの背に乗った小さな青い鳥が、悪で私を脅すかのように鋭く睨み付けて指をさしている光景が余りにもシュールでじわじわと笑いが込み上げた。そして


「プっ…!」


こらえきれなかった笑いが盛れるとその対象と意味を正しく理解したプルシアンが一瞬で少女の姿に変わった。


『あなたッ!今物凄く失礼な笑い方をしたわよ!!えぇッ?私が気が付かないとでも思ったの?!人がせっかく真面目に話して、あなたの不安を取り除こうとしていたのに…、まったく、本当にッ!』


タケの上に乗っまま、今度は顔を真っ赤にして、くしゃくしゃの表情でプンスカと起こる少女に今度こそ私は声を上げて笑った。


『アンタねぇ~~~!!!!!』


しばらく笑って、ようやく笑いがまってくると、気分は不思議と晴れやかで、先ほどまで考えていた事や不安がきれいさっぱり吹き飛んでいた。

よし、まずはやってみるかな…。


「ごめんね。もう笑わないわ。」

『急に言葉に出すなんて…。そんな態度で謝っても私は許さないから!!』


どうやら相当機嫌を損ねてしまったらしい。フイッと逸らされた顔はこちらを一切見ることはしない。まぁ、あれだけ笑えばしょうがないか…。

ご機嫌斜めのプルシアンを放っていて、私は四大精霊と言われる彼らのほうに体を向けた。

先ほどと変わらない姿のまま彼らはジッと私の言葉を待っている。ううん、正確には待っていないのかもしれなけれど私はこの時はっきりとそう感じていた。


「改めて言わせてください。私はアールツト侯爵が娘、アヤメ・アールツトと申します。この度は私の呼びかけに応えてくれてありがとうございました。すでにご存知かもしれませんが、私には魔力がありません。さらに…前世の記憶があります。それでも、医者として今できることを精一杯やり続けているつもりです。」


四対の宝石のような瞳が私に向けられて背筋が伸びる。人ならざるもの。悪い物ではないはずなのに、人間離れしたその美しさが無表情と重なってゾクリと背筋を震えさせた。


それでも…。


スッと視線を対峙する精霊たちから外して、横を見る。そこには今も変わらず拗ねた様子の少女がタケの上に座っていた。その姿にグッと胸が熱く、強い思いが湧いてくる。


その小さな体で、こんなに遠くまで一人で飛んできた彼女はどれほど大変だっただろう。

その小さな体に大きな使命を抱いて、責任を背負って飛び続けるのはどんなに辛かっただろう。

今この時間にも自分の生と大切な人たちが苦しみ消えていくというのはどれほど不安だっただろう。


「今、アルシナシオン島で多くのエルフたちが病に苦しみ、それを助けるために精霊たちが消えています。」


この少女の小さな手が私に差し出せられている。

「助けてほしい。」

そう私に頼んでいる。


突然向けられた私の視線に少女が不思議そうに首をかしげたが、それに強く笑って返した。そして精霊たちに再び視線を映し胸を張る。


「私はエルフたちを助けたい。精霊たちも救いたい。」


医者は確定的なことを言ってはいけない。なぜならどんなになれた手術でもどんなにリスクがない治療でも「絶対大丈夫」なんてことは存在しないからだ。過去に何度も経験して、そのたびに深く傷つき涙を流してきた…。


それでも、一度救うと決めたのだから!

助けてほしいと手を差し出されたのなら

目の前に救える命があるのなら

その手を取り、命を救い上げるのが医者だから!!

私は…


「持てる知識と技術のすべてをかけてアルシナシオン島を救います!」


視界の隅で少女が小さく揺れたのがわかった。


「ですから、どうか私にお力をお貸しください!」


言い切るのと同時に頭を下げる。誰か起きてくるのではないかと思うほど私の声は月明かりに照らされた一面に広がった。

先ほど彼らは私と契約をしてもいいと言ってくれた。でも、だからこそ、なおさらきちんとした言葉で、私の気持ちを彼れらに伝えたい、伝えなければいけないと思った。


どれほどの時間がたったのか。1分にも数秒にも感じる時間が流れた後、フワッと温かな風が頬を撫であげた。まるで、頭を上げろと言うような風の動きに促されるままゆっくりと姿勢を戻せば、彼らは一様に穏やかな笑み浮かべていた。


『素敵な言葉をありがとう。』

『我はお前が気に入ったぞ!今までこんなふうに言ってくれた人間はいない!お前は最高だ!』


黄色い女の人に続いて赤い女の人が親指を立ててニカッと笑う。それを見て緊張がゆっくりとほどけていくのがわかった。


『私も、君と契約することに異論はない。』

『俺もだ!リエースとよく似ているが、リエースとは違う清く優しい娘よ。』


豪快に青の人が笑えば一気に雰囲気が明るくなった。四人とも全然違うのに、四人とも揃って私を見てくれる。なんだか、恥ずかしくて、くすぐったくて暖かい…。


『では、契約を始めよう。君の名前と私たちの名を交わせば契約される。』

『あ、なあ、どうせならそれっぽい感じにしようぜ?』

『それっぽい感じ?名を交わせば契約完了なのに、わざわざそんなことしなくてもいいじゃない。』

『我はやりたい。この娘もそう言うのが好きなんだ。さっき聖獣と話しているの聞いたぞ!』 


緑、青、黄、赤の順番で会話が一度途切れると、青の人が両手を地面に向けた。すると青色の魔法陣が現れる。さらに赤の人も同じように手を向けると、青の人の魔法陣の上に曼荼羅のような模様の魔法陣が現れ、青かった魔法陣が紫色に変わった。


『ほら、これでお前の瞳と同じ色だな。』


赤の人は私を魔法陣の中心に立たせると四人が私を囲むように魔法陣の中に立った。


『そういう事でしたら、わたくしも協力します。』


何がどういう事なのか_?

目の前に繰り出される幻想的な光景に言葉を失っていると、黄色の人が何かをつぶやき夜空に向かって吹きかける。すると拭きあげられたそれはキラキラと輝く光となってゆっくりと私達の上に降り始めた。


「うわぁ___!」


幻想的だった空間が一気に神秘的に変わり思わず声が漏れる。


『まったく、無駄に力を使って。…では、いいか?始めるぞ』


緑の人が呆れたように小さくため息を吐いて私に視線を向けた。小さな星を散りばめたような輝くエメラルドに覗き込まれて壊れた機械の様に首を縦に振るとフッと彼の表情が和らいだ。

そしてゆっくりと言葉が紡ぎ出される。


『私の名は風のアンタヴィンセンス』


緑の人が名乗ると地面から緑色の風が吹き上げる。


『俺は水のヴァサンディ』


今度は緑の風に巻き上げられるように水が舞い上がった。


『わたくしは土のイヨランディ』


足元に一瞬で無数の華が咲いた。


『我は火のアンディエルツ!』


ゴウッ!!という音と共に私たちの魔法陣が炎の竜巻で包まれる。


『やりすぎだぞ、火の。』

『すまない。嬉しすぎてついな。許せ水の。』

『おい、まだ契約は終わってないぞ。さあ、君の名を。』


アンディエルツを咎めたヴァサンディを注意したアンタヴィンセンスが私に促す。緊張と高揚感。そして少しの不安を感じながらゆっくりと口を開いた。


「私はアヤメ・アールツト。私はあなた達との契約を望みます。」

『名の交換は達成したり。今我々とアヤメの契約は結ばれた。』

『『『結ばれた。』』』


アンタヴィンセンスに続いた三人の声が放たれた次の瞬間。

私達を取り感こんでいた魔法や光の雨、魔法陣はシュッバッという音とともに私たちの頭上に集まり一つの塊となって、私の胸元に落ちてきた。


目の前の出来事を処理できずに混乱しているとフッとアンタヴィンセンスが笑う。

…ゔッ…!儚い美青年の笑顔…!これは…いかんいかん。


『私たちの力を集めた物だ。』

『いつも身に着けていれば俺たちを呼ばなくてもある程度の力は使えるぞ』

『もちろん、使わないでわたくしたちを呼んでくれるのも歓迎よ。』

『大きな力が必要な時は必ず我らを呼べ。もし、命にかかわる様な事態が起きれば呼ばれずとも駆けつけよう。』


四人の説明を聞いているうちに胸元にあったそれは100円玉ほどの大きさのしずく型の透明な球体となり、ネックレスの様に金の細い鎖で私に首にかかっていた。


『私達の眷属が常に君の周囲にいるので、声をかければ応え助けてくれるだろう。』 

『水の精霊は人間が好きな奴が多いんだ。だから水があるときに声をかけてやってくれ。』

『わたくしたちと契約を交わしたことで、眷属の精霊たちも見ることが出来るようになっているはずよ。ぜひ、お友達になってね。』

『たまには眷属たちや我らにもかまってくれよな?』


四人とも全然違うのに、四人とも揃って私を見てくれる。なんだか、恥ずかしくて、くすぐったくて暖かい…。


こうして、私は四大精霊達と契約を結んだのだった。


アンタヴィンセンス(風の精霊)アンディエルツ(火の精霊)ヴァサンディ(水の精霊)イヨランディ(土の精霊)

誤字脱字報告ありがとうございます。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます!! 凄くワクワクする展開ですね!凄く好きです!! これからどうなるのかめちゃくちゃ楽しみです!
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