ちゃぷたーしっくす
「家って…ここ?」
「そうだよ、どうぞ入って。」
見上げてギリギリ屋上が見えようかという高さの家。キノコを上下反対にして、少しかたむけたような不思議なデザインだ。
「誰が建てたの……?こんなの」
「ん、ボク一人でやったよ。五日かかったけどね。」
い、五日!?
「まぁまぁ二人ともそこに立ってないで、入っておいでよ」
「「はぁーい」」
「いらっしゃいませ。」
「ボクの話を、しよう。いきなり重い話になっちゃうから、もし聞きたくなくなったら、いつでも…」
「その話を聞くために来たんだから。さ、早く話して」
すこし驚いた顔をしたトホだが、笑顔を浮かべて、
「なら、わかった。ずっと話を聞いてるだけじゃつまんないと思うから、ボクん家を回りながら、するよ。…あそうだ、そこのテーブルにあるお菓子は自由にとっていいよ。あやちゃんのように作れないから、買ったものしかないけど」
「でも、お話を聞かせてくれるだけで十分嬉しいから…」
─────コンコンコン。
わたしたち三人は顔を見合わせた。
「誰だろ。…僕、ほぼ知り合い居ないはずなんだけど」
「配達とか…?」
コマチはそういいながら、Tシャツの裾をヒラヒラさせた。…って、いつ着替えたの!?
トホ君は首を「それはないと思うけど…」と横に振って、
「とりあえず、見に行きましょ」
「はーい─────お、あすくちゃんだ」
「あすくちゃん?」
わたし、トホ、コマチの前に立っている女の子。顔色はわるいが、いかにもファッションが好きそうな感じだ。前髪をピアノの鍵盤柄髪飾りで留めていて、長い後ろ髪はバサッと下ろしている。服装はその割ラフな格好で、穂の村の裁縫屋で売っていた服を一枚着ていた。
それにしても体つきがウラヤマシイ…ぬぐぐ…
頭が痛いのか、「うぅ」と頭を抱えては落ち着いて手を下ろしていた。
「どうしたの?頭痛が痛いの?」
コマチが心配そうにきく。
頭痛が痛い…?
「あっ、いえ、大丈夫ですよ…お気になさらず。発作のようなものですから」
大丈夫ではなさそうだ。
「私はアスク。十五歳だよ。好きに呼んでくださいな。トホ、この子達は…」
あ、わたしとコマチの大先輩だ。道理でそんなカラダなわけだ。ふむふむ。
「ああ、ボクが紹介するよ。こっちがコマチで、こっちがアヤ。ボクたちのお隣さんだ」
「「よろしくお願いします」」
頭を下げるわたしとコマチを見て、アスクは「そんなかしこまんなくて大丈夫ですよ」と苦笑いした。「それより…」と話を切り替える。
「トホ、今時間ある?ちょっとまたお相談があるんだけど」
「あ、えっと────」
わたしたちを申し訳なさそうに見る。
「コマチ大丈夫よね」
「うたあやちゃんがいいなら、あたしは問題ないよ。せっかくだけど、しょうがないわ」
「───そうか…二人ともありがとう。じゃあ、とりあえず入ってくれ。初春とは名ばかりで、まだまだ肌寒いこの頃だからね。」
「なにその手紙の前書きみたいなセリフ」
コマチのツッコミに、みんなが笑い出す。さっきまで少し曇った顔を浮かべていたアスクも、気持ちがようやく落ち着いたのか、ふふっ、と眼を細めた。顔色も良くなったような気がした。
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「本当にわたしたちも聞いちゃって大丈夫なんですか?」
「お相談だよね……?」
二階、トホ君の部屋の中。飾りはあまりなく、まわりはエアープランツと壁固定のオシャレ本棚があるだけで、家具配置も長いモフモフソファーとカーペット、木目のテーブル、畳のようなスペースというシンプル設計だ。
「まぁそうだけど、大丈夫だよ、コマチちゃんと、あやちゃんだっけ」
「はい!」
「よろしくです」
「よろしくね!……それで早速相談なんだけど────えっとぉ…わ、私の……」
言いかけて、恥ずかしくなったのか、「緊張するぅ……はじゅ、ずかしいよ〜」と(ところどころかみながら)顔を赤らめた。
「「私の…?」」
「私のっ……」
「「?」」
「か、彼女を探してるのぉぉおおおっっっ!」
……!?!?がーるふれんず!?
あー、そういう系ね。否定はしないでおこう。否定は…
眼を点にしてアスクをまじまじと見る三人。幾秒か経ってからようやく自分の言い間違いに気づいたのか、彼女は「…あ、あ、えっと……」と一層赤面して、
「なんでもないっっ…!わ、忘れて!!────いでっっ」
自分を隠そうとしたのか、顔を机に近づけるつもりが、勢い余って額を縁にぶつけて、アスクはソファーから力なくずりずり滑り落ちて床に───正確に言うと机の下に蹲った。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
言葉にならない、叫びのような、泣き声のような。
たしかに、痛そう……。
「大丈夫……ではないよな。怪我してない?」
「ケガはしてないよ、ありがとう…いてて……」
「アスクちゃん」とコマチが声をかける。
「……?」
「あたし、よく分からないけど───でも、アスクちゃんがお嫁さんが欲しいなら───あたしはいいと思うよ!好きな『子』を一緒に頑張って探そ!!」
一ヶ月前に、わたしも同じようにやられたことを、彼女───出会って十分もない相手にもする。勇気があるというか、なんというか。
「コマチちゃん……ありがとう!私、やる気出たかも!!───じゃなくて!」
アスクは自分が上手くまとめられていることに気がついて反論しようとするが、家のお花畑嬢様は完全に人助けのつもりになっているらしく、気合いを入れて眼を輝かせた。
「なんならほら、いまちょうど結婚式の気分になっている子がいるみたいだし───お試しで結婚しちゃう?」
じぃっと、視線がミニクロワッサンをかじるわたしに集まった。
誰が着させた…!
とにかく。
「「結婚だけはやだ!」」
ピッタリハモるわたしとアスクの勢いに、苦笑いするトホ。
「結婚はまだ早いかな…それより、お話は?」
「まだ」じゃない!そういう問題じゃないから!
「えっと、ごめんね。私のせいでお話がややこしくなっちゃったけど…私ね」
コマチ、アスクに謝れ……。
そっと立ち上がり、窓際までゆっくりと歩く。それからちょっぴり困った顔をして、蜂蜜のような透明な恋を感じる小声で。
「─────好きな男の子がいるの」
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