ちゃぷたーふぉー
「おぉー!!可愛い〜♡」
「確かに、オレのやつ凝ってるな…」
「ボクの分はボクの分でシンプルだ」
ドアの隙間から喜ぶ三人を確認すると、「クッション…数分なかった。ごめん」とだけ呟いてドアを閉めようとした。
「なんでそんな頑張って隠れようとしてるんだ?なにかあったのか?」
「な、なんでもない」
「あたし、相談に乗るよー」
「大丈夫だからっ」
「こまちゃん、今外にいる人、裸…」
「裸なわけないでしょっ!!……あ」
カッとなった勢いでドアを蹴ってしまった。普通ならドカンと閉まるはずのドアだが、ついに命尽きたのか、わたしが蹴った所を中心に衝撃波のような亀裂ができ、パズルのように崩れ落ちた。
だがそれよりも、さらなる重大事件がある。
「あ、あ……────ま、待ってお願い見ないで……!!」
わたしは地面に蹲って、できる限り自分の全身を中に包んだ。薄いピンクカーテンを一枚だけ体にまとったような、明らかに悪趣味(と言ったら祟りが来そうだが)の格好。実際には「BLOSSOM FALL」という、天女の羽衣(極薄バージョン)っぽい制服らしい。
「あやちゃん、オレが戦場で戦った時はそれくらいだぞ」
いやでもそんな服じゃないでしょ。
「あたし、変身したら素っ裸の時があったから、まだまだいいだと思うよ?でもあやちゃん似合ってるし、すごい乙女っぽくて可愛いよ♡」
ありがとう!でも褒められてる気がしない!
「ボクはまぁ、うん、ノーコメントで」
トホ君まで!!
「……みんな……慈悲なさすぎる───あぁ人生終わった……」
「まぁまぁそう言うなって。……そういえばさ、なんでオレがアップルパイが好きだって知ってるんだ?」
「確かに。そういえばリクのワサビ嫌いもよくわかったね」
「あー、わさびは割と適当だけど、実は三人に作ってあげたスイーツ、これがわたしの自己紹介だよ。」
いつのことかは、もう忘れてしまった。でもあの日から、わたしの人生がガラッと変わったことだけは覚えている。
それは灰色へと色褪せたのか、それともバラ色へと鮮やかになったのか、今になってもなんとも言えない。
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ドアの破片を片付け(あとで直そう……)、みんなの皿も洗い終わったわたしは、ブロッサムフォールを脱いだ。もちろん、機械殻内の自己紹介のときに着ていた迷彩服というスタイルに戻る。
「わたしの身体の中には────」
特にあの制服を来ている時こそ鮮明に感じられる。
じっとこっちを見つめるリク、トホ君とコマチ。
「───小さなおっちょこちょいの、神様がいます」
「「神様…?」」
「うん。言葉の通り、神様。なにかの訳があって、わたしの心臓ら辺に住んでいるよ」
「そんなことあるのか」
「───確かに信じ難いけど、おそらくリクたちの『魔術』とかコマチの『変身』みたいなもの。ただ、戦いのためではないから戦闘値はゼロ───ちなみにひとつ言うけど、『この世界』にはリクたちの腕が鳴りそうな『神獣』とか『珍龍』とかはいないから安心して。」
「んじゃ、なんつったっけ、オーブドラ?はいないんだな」
「うん、あくまでもアホ伝説だよ……(あ、これはフラグ立ててしまった…?)……わたしがお決まりの言葉を唱えると、神様は一時期目を覚ましてわたしが着ていた服をなんかしらの力で変える。その服を来ている間はパティシエの精神が解放される。意識を半分くらい取られて」
「でもそれじゃあ、うたあやちゃんが本当にやりたいものは……」
「うん、残念ながら──できない。」
そう供述していると、あまりよく聞こえないけど。
「でも、実際それでみんなが楽しめているわけだし、いいかなって」
「「……」」
「な、なにこの微妙な空気」
「あ、いや…オレの想像の遥か上を行ったな、って」
「「同感」」
「だから言いたくなかったのに!!……もうわかった。今日のお昼ご飯、リクの分絶ッ対にワサビ詰め込んでやるっ」
わたしがそう言い放つと、
「またオレ!?……ってあれ?オレたちの飯用意してくれるのか」
と目を輝かせるリク。
「そこに注目する!?……ま、まあね。きょうだけね!」
「辛辣の裏に女神心だなぁ」とトホが感心する。
「楽しみだなぁ♡」とコマチが続ける。
思わず、笑ってしまった。
何か暖かなものが、全身を絶え間なく流れた。久しぶりだなぁ、この感覚。何百年ぶりかな。五百、六百、いやもっと。……でも、その幸せを噛み締めてしまった以上、あのことをみんなに打ち明けるのが難しい。
深夜、一時。
なるべく音を立てないように、ドアを閉めた。家の外にいるとフクロウの鳴き声が、どこからか聞こえる。わたしからは見えない家の中で、ぐっすり三人のお客さんが寝ている。
ごめんなさい、正直に言えなくて。
本当のことを言うとね。
わたしが皆をここに連れてきたんだ。
────綻─戯と、おっちょこちょいな神様を使って。
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それから一ヶ月後、ようやく三人ともここの環境に慣れたようで、それぞれの生活をし始めた。
コマチは未だにわたしに甘えているが、わたしも一人では寂しいからせっかくだし一緒に住むことにした。
リクとトホは、というと、それぞれの家を見つけるため、丘の下の穂の村に向かっていた。
─────あの二人…今頃は、何をしているのだろうか。