ちゃぷたーすりー
「ちょっと入口狭くない……?」
「いや、四人ならいいスペースだと思うが」
「今『入口』って言ったよねわたし……?おじゃましまーす────おお、意外と広い。」
全員各々の気持ちを整えて、「球龍(の殻)」の中に集まった。
わたしはあまりしたくなかったが、アレを隠しているように思われても困るし、ついていくことにした。
リクとトホはうちのクローゼット奥に仕舞われていた木箱から(よくそんなの見つけたなぁ)お揃いの黒Tシャツをとっては、「真似はよくないぞ」「オレが先だ」と言い合っている。
コマチはさっき着替えたコーデのまま───上ニットとダークカラーのデニムジャケットに下桜ピンクのワイドパンツ。……それどこで漁って来たの?うちにあったっけ……?
わたしはというと、なかなかこういう機会は無いだろうと確信し、少しオシャレをする───
……つもりだったが、コーデを変える度、憎らしいほど(うちの服で)可愛く仕上げられているコマチと目があってしまって、くさってしまった挙句、
「緊急会議と言う割には、ティータイムのような服装が揃ってるねぇ。」
トホがそういいながら、機械の殻の内側をいじる。
「……あやちゃんのその武装は、狩にでも行くのか」
ぎくっ。季白リクめっ……
「う、迷彩服じゃダメ?」
「うたあやちゃん何のお洋服でもかわいいよっ!!安心して、あたしがついてるから!!」
「コマチちゃん……」
「はいはいそこまでー、とっとと本題終わらして飯食いてぇ」
Ψ◎Ψ・Ψ◎Ψ・Ψ◎Ψ・Ψ●Ψ・Ψ◎Ψ・Ψ◎Ψ・Ψ◎Ψ
「じゃあ改めて、自己紹介をはじめまーす!まずはあたし!あたしは緒野こまち、いつもはヨコサキってところに住んでいて……」
どこまでいえばいいかわからず、困った顔をしてわたしにアドバイスを求めるコマチ。
「ん、もしよかったら何をして来たかとか、趣味とか、できるだけのことを教えて欲しい。無理にとは言わないけど、把握程度に」
「オレらいろんな所からいきなり集まってきた連中だからな。ひょっとしたら地雷踏みかねない」
「うん、確かにリクは特に踏みかねない」
トホが、なるなると頷く。
「一言余計だ」
「……えっとじゃあ。ホントは秘密にするってルールだけど、言っちゃうね。あたし、小さい頃からずっと戦ってきたの。」
そう切り出したコマチは、まるっきり人が変わったかのような真剣さと口調で自分の経歴を述べた。
怪物オドロについて。
破壊される街から、守る使命について。
ある日突然、技が急停止されて、小さな本冊を踏んだら移転していたことについて。
「……これでおしまい。なにか質問ある?」
「質問じゃないんだけどさ、お前『オドロ』って言うバケモンと戦ってきたんだろ、ならその技って今も使えるのか?」
「確かに、それは気になる」
少しの間何かをやろうかやるまいか迷っている様子だったが、
「わかったわ、やってみるね。……あ、でも男子はちょっと見ないで……」
「えー」
「変身、見たかった」
「あぁっもー、わかった!全員見てて。───よいしょっと。ギリギリジャンプしても頭ぶつけないね……じゃあ行っくよぉー!?」
「……」
シーンと静まり返る。
「やっぱ発動しないのか?」
「ちーがーう!!応援が足りないのっ!」
「あーはいはい」
そういう系ね。
リク、トホ、わたしの三人で、タイミングを揃えてカウントダウンをし始めた。
「「三」」
微笑んで、左側のツインテールに大きなリボンをつける。
「「二」」
次は右側。くるんと一回りし、お尻をちょこっと突き出して投げキッス。
おお、なかなかサマになってるなぁ。
「「一」」
「ではいっくよー!!───ホワイトフローラル、ミラクルアクセーチェ〜ンジ!!」
ピンク色の光が、コマチの洋服を覆う。ツインテールがハート型の炎で燃えたかと思うと、いきなりスルスルと長く伸びて、膝くらいまでのカールヘアになった。
「うわまっぶし…そりゃ敵も変身中に攻撃できねぇよな」
「というかそういうのって近づいたら『変態ー!』って飛ばされてお空にきらーん、じゃないの?」
「トホお前……オレ試さないからな!?」
「試せっていつ言った」
「二人ともうるさい」
「「すみません」」
「ラストスパート!!オールファッション……!!」
「「……」」
再び、静かになる。
「あれ!?……やっぱり。オールファッション!!オール…」
みるみる蛍光が薄くなる。
「やっぱダメかぁ。……ってことはあたし今裸!?───あれ?普段着に戻ってる?」
「……なんだ、失敗かイテッ」
つまんな、という顔をするリクの頭をコマチの代わりにげんこつで殴った。
「なんだってなによ、じゃあリクもやってみたら」
「オレそんな趣味じゃねぇし」
「…うたあやちゃん、あたしより本気……」
「コマチ、なにかイジメられたら私に言って!安心して、わたしがついてるから」
「……うたあやちゃん……♡」
ぎゅっと抱き合うわたしとコマチを見て、リクが「なんかデジャブだなおい」とトホの耳元に囁く。
「ん、そういうもんでしょ」
「ああまじで女子がわからねぇ」
「分かったらそれは男子とは言わない」
・・・
「んじゃとりまオレの説明に移るか。正確に言うと、オレとコイツの、だがな。」
「そうだねぇ。そっちの方が簡潔でわかりやすいからね。まぁ、先に言っておくが、ボク達がこれから話す内容はほぼ『昔のすぎたこと』と言っていい。魔術等の能力は二人ともぽっかり無くなった。」
「コマとは違ってね」とリクが加える。
一言余計なんだっての。
涙を浮かべるコマチ。ぎゅっとわたしにしがみついた。
「この説明いるのかわかんねぇが、まあ、もれなく話っつーなら。オレたちは荒廃した街から転移して来た。コイツと戦ってたらね」
「そのフレーズだけはもう三回くらい聞いてる」
「…こまちゃんの場合はリボンによる変身をトリガーにしているみたいだけど、ボク達は直接だよ。魔術を体力消費とかで使用する。ボクは防御特化だけど、リクは機械製造して操るんだまあ、過去形だけど」
ますます、どんな戦いをしたのか気になってきた。
「あ、頭の情報がリンクした。つまり、あのボールは機械でトホ君を包囲した残骸なのかな」
「正確に言うと、包囲『させてもらった』って言った方が正しい」
「トホお前、誰がそのボールを、体内に蓄積した魔力の残りカスを全部費やしてぶっ壊してやったと思ってる」
「…うん、わかった。あとで奢ってやる。……わさびクッキー、一袋」
「コイツ……魔力が戻ってきたら、もっかい閉じ込めてやる……五百倍の厚さで」
…お願いだから、絶対にお二人とも魔力が戻りませんように。せめてここにいる間は。
・・・
最後に、わたしの番となった。
「知っているとは思うけど、わたしの名は詩葉あや。この地ではポエレアフという別名を持つけど、気にしなくていいよ……あ、そうだ、わたしのお話は───わたしの部屋でしたいんだけど、いい?」
「お前の家だし、好きな方で」
「ボクも問題ないよ」
「異議なぁし!!」
「「おじゃましまーす」」
「入って入ってーここがわたしの部屋。わたし好みで木造だしあまりくつろげる場所ではないけど、まぁ好きに腰掛けていいよ。一回クッションとおやつの用意をしてくるから。」
「はぁい」「すまん」「ありがとう」と嬉しそうな顔をした三人を部屋に残し、わたしはキッチンに向かった。
最初はどうしようか迷ったが、みんなが話してくれたのにわたしだけ黙っているのも変だから、結局全て────というと語弊があるが、言えるところまで頑張って打ち明けることにした。
さて────始めるか。
空の小皿三つだけが作業用テーブルを独占する。
その前に立って、目を瞑る。自分の心にしか聞こえない音量で、唱える。
「『モシ変ワレルナラ、モシ楽シメルノナラ』」
幸セデ身ヲ絡メタイ──スプリン
出会イヲ信ジタイ──サマー
笑顔ガ見タイ──フォール
心ヲ暖メタイ──ウィンター
…………………………………………………………。
「……All season with you……」
その後、わたしは五分間くらいキッチンのテーブルに寄りかかって、意識を失っていた。
起きた時には左右の頬に一筋ずつ涙を抱えていたが、その時はあまり気にならなかった。