ちゃぷたーつー
森林小路入口。
木漏れ日で、多種多様な草花の生い茂る地面が、わりと暖かく、明るく見えた。
実は、村長が言っていたオーブドラは、家からすこしでたところからすぐ見えたのだ。確かに、まるい、大きな、なにかだった。だが見ても見ても動いていないはずで、もう死んでしまっているんじゃないか、なんて歩きながら二人で考えていた。
「あれ……みたいだね」
「……」
立ち尽くす、二人。
小道の、少し高く盛り上がったところに。
伝説と言うにはすこし程遠いような気がするが、不思議な物体が置かれていた。
古びた機械類を緻密に組み合わせたような、巨大な美しい球体。その一部分がかけていて、光がその中に差し込んで、中が中空だと知らせる。
「これがウィートラ村長さん?が言っていた、オーブドラ?ではなさそうよね……?さすがにイメージと違いすぎて」
こまちがボソッと、わたしの耳元で呟いた。
いやわたしに聞くなよ……。
確かに、イメージと違う。死骸でも、せめてこう、威厳っぽいものは残りそうなのだが。
「ごめんね、わたしが変なことを信じてしまって、コマチまで巻き込んじゃった。さ、家に帰ろ」
「勘違いではないぜ、お嬢ちゃん達」
突然の声に、二人が振り返る。機械球の後ろからした。十五、六歳くらいの男子の声だ。
「よっと。危ねぇあぶねぇ。危うくオレまで死ぬとこだったわ……おい、とほ、お前も上がってこいよ、いい眺めだぜ案外」
「あなたたちは……」
「ん、自己紹介ん前に、まぁ、前置きってことで言っとくが、こんな形したやつをオーブドラっつうの?は、オレはゲーム内でしか知らねぇけどさ、オーブドラみたいなボスキャラなら……」
自分と、もう一人の少年を指して、
「────ここにいるぜ?」
と大胆にボス宣言をかました。
この人達…いったいなんなの……?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆✖◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ごめんなさい、変な勘違いをしちゃって。」
「ん、大丈夫大丈夫。オレの技が伝説に見えてくれたのならそれだけで大感謝だぜ……ま、オレも、コイツも『使い切った』んだがな」
「使い切った、とは…?ところで、お二人は…」
わたしが話に割り込んで訊くと、左側の前髪を一束だけ長く伸ばした少年(声をかけてきた方)が、
「オレは季白りくだ。廃れた街での戦闘を凌ぐ日々を過ごすはずだったんだが……ある日コイツ、杜浦とほと死闘を繰り返していたら、なんかねぇ───」
そういいながら、やれやれ、という顔をして、もう一人の同い年くらいの子に目をやった。
リクは、どこかの怪しい道場にでも入っていそうな道着を着ていて、言っていた通り死線を超えて来たばかりのような(実際そうなのだろう)汚れとちぎれ具合だ。
体のあちこちに見えるアザや切り傷が痛々しい。
もう一人の方はクセのないさらっとした金髪で、頭のてっぺんに尖ったクリスタル(飾り?)が「生えていた」。
怪我の具合はリクと似ているが、死闘の割には案外汚れていない白Tシャツと短パンという服装だ。ところどころにちぎれた布がこびりついているが……
どんな戦いだったんだろ。
「ボクを見ないでよ。さきに鎖城を使って閉じ込めて来たのは、おまいだろう……」
「……!?なんでその技を知って…ってかお前中にそれ着てたんだ!」
「魔力源だからね。あ、先程はすみません、『うちの子』がお騒がせしました。ボクはトホ。リクくんも説明してくれてたけど、ずっと魔術で戦闘してました。ですが、ある日彼と戦ってたら、なんか───」
いや何故そこで説明を止める。
それからわたしを見つめるな。
二人とも精神やられてるんじゃないのかな……。戦闘しすぎて。
「結局何があったのよっ」
我慢できなくなったこまちが突っ込む。
「……それで、なんかいきなりここに飛ばされたってわけね。」
わたしは二人の話をまとめた。
「ん、そうだなあ、簡単にいえばそんなもんかな。あやちゃんの言う通りだ」
「いきなりって……それ、あたしも!!やっぱり何かあったのかな…?」
わたしは一瞬、足を止めてしまった。
どうしよう。このままみんながあれこれ考えてしまうと、すぐにバレてしまう。…「あれ」がバレちゃったら、きっと嫌われてしまう。
「どうしたの?」
ドキドキする胸を抑えながら、何も無かったように、
「ん、なんでもない…とりあえず帰ろ。リク、トホ君、二人もついてきて」