プロローグーPart2
プロローグーPart2ー学園恋愛系
ひだまり。
またいつも通り、変わらない一日が始まろうとしていた。
耳をすませば聞こえる、和音。
教室の香りに乗って旅をする、ハーモニックなメロディの絡み合い。
ここは「音楽強豪校」━━━━━━「想飛特殊専門学園」、1ー9の、教室内。
薄く透けるオレンジ色のカーテン越しに、陽が暖かく照らす窓際の、一番後ろの席。
そこから味わうようにして全体を眺めると、どうもこう、不思議な気分になる。
朝がまだ早いのか、まだそんなに人は集まっていないが、趣味や話題が合うのであろう生徒たちが何人か少人数グループを作って、クラスの中にぽつん、ぽつん、と点在していた。
ちなみに私は振琴あすく、通称「鬼音繚乱姫(いい加減変えて欲しいけど、ま、いっか)」
どうしてこんな名をつけられたのかは…フフっ、後で教える。
こんな日に限って、なのか、それともこんな日だからこそなのか。
私の頭の中に、ある人の名前がふと浮かんだ。
「流奏そると」
二つ隣のクラスの、幼なじみの男子だ。
イケメンかというと微妙な感じだが、彼のなにかに、私は長い間惹かれてきた。
そっとその名前を口にした私は、微笑んで自分の鞄についている、ストラップをちらっと見た。
不器用だけど、真心込めて作られた、ヴァイオリン型ストラップ。十年前にそるとがくれた、最初のプレゼント。
ずっとカバンにつけている……あれ?
「鞄が…ない!?」
私の悲鳴に、一部の女子が反応して寄ってきた。「大丈夫?」「盗まれてないよね」「さすがに盗むやつ変態だよ」と口々に言う。
「ちょっと探してくる」
少しの沈黙の後、私はそれだけ言って教室の外に出ていった。
「ちょ、ちょっと待ってよ」という声が、ギリギリ閉まらなかった教室の後ろのドアの、さびた隙間からすり抜けて、ぼんやり聞こえた。
「……」
廊下の柱に寄りかかって、深呼吸する。
やっと、一人の空間に。
……ならないんだよねー。
「ばぁか。見えてるよばぁか」
そっと呟く私。
「……まじか、これでもバレるもんなんだな」
と、掃除ロッカーから、ヴァイオリンと私の鞄を持って出てくる男子。もちろん、あの人しかいない。
「ソルトー、ヴァイオリンの弦の音、鳴ってたよ」
目を見開くそると。
「お前…日に日に化け物の領域に近くなってるな…」
そのリアクションがいいんだよなぁ。
「褒め言葉褒め言葉~♡……じゃあなくて。なんか理由があるんでしょ?私のバックを盗む」
ソルトの黒髪が、ぴくりと跳ねる。
「ぬ、ぬすむわけねぇだろ。まぁ、理由を言うなら」
一息置く。
「実は、大事な報告があるんだ。」
「大事な……報告?」
一瞬、キョトンとしてしまった。
まさか、ついに…!?
心臓をバクバクさせながら、そっとソルトの続きの言葉を待った。
「オレ────痛っ゛!!!」
──────!?!?
彼の頭上に、何かが落下したのだ。でも待って、ここって廊下だから、天井そんな高くないはずだし……何が落ちてきたんだろ。
「ノート?」
そっと拾う。
「あすくっ、それに触れるなっ!」
えっ。
目を覚ます。
脳が、ここはどこなんだろう、と疑問に思うよりも早く、目が辺りを見渡して、現実を思い知っていた。
草むらの、中。ソルトは、そばにいない。
ひだまり。
それがまた、いつも通り、変わらない一日が始まろうとしていたなんて。
私はそのとき、気づくはずもなかった。