墓参り
雨が降っていた。12月18日、男はどこか諦めと後悔の混じったような顔をしながら、妹である田辺サヤの墓の前に立った。
「もう五年か、そろそろ吹っ切れたと思ってたんだけどな…。」
そう呟くと、つい泣きそうになってしまい
「傘、差さないと風邪ひきますよ。」
後ろから声がした。突然の声に男は驚いたが、咄嗟に顔をつくり
「あぁ…すいません、ありがとうございます。…!?」
男は更に驚いた。深めに帽子を被っていたが、妹だった。
「サヤ!お前、どうして!…生きて」
「え…なんで名前知ってるんですか?しかもニックネームの方を。」
「え?」
遮って言われたセリフに、男はしばらく固まってしまった。
「ちょっと、聞いてます?なんで名前を知ってるんですか?答えてください。じゃないと傘、貸してあげませんからね。」
男は妹に似た女性をよく見た。
「いや、すまない。妹と勘違いしてしまったみたいだ。」
と、申し訳なさそうに言った。
「なるほど…そうだったんですね。」
妹に似た女性は察したのか納得した様子になり
「じゃあ、はい」
傘を渡してきた。
「はい?…何ですか?これは。」
男は不思議そうに受け取った。
「何って、傘ですよ、傘。さっき貸してあげるって言ったじゃないですか。」
「……なるほど。では、ありがたく。」
「来年、返してくださいね。」
一瞬、理解出来なかった。
「…え?ちょっと!……行っちゃった。」
名前も知らない女性は(正確に言うと、ニックネームは知っているが)足早に去って行った。