第九・王子様の成夜くん
ボディーガード達のことを少しだけ知れたけどまだ後、一人いるよね。
一番近くにいて一番長く一緒にいる彼。
「成夜くん」
「ん?」
私は隣の席の成夜くんに話しかけると成夜くんは私のほうを向かないで漫画本を見ながら返事をした。
「成夜くんとは五人の中で一番一緒にいるけどみんなより距離が遠い感じがするのは私だけ?」
「そうか?」
成夜くんはまた私を見ないまま返事をする。
「ねえ、成夜くん? こっちを向いてよ」
「俺がさゆらに距離をとるのには訳がある」
「やっぱり。気のせいじゃなかったんだ」
「俺がこの距離を縮めたらだめなんだ」
「どうして?」
「俺だけが知っていればいい。さゆらは知らなくていい。ただ、あいつらの中から一人を選ぶんだ」
「何それ?」
「えっ」
「成夜くんだけだよ、選らばないでほしいって言ったのは。それって成夜くんの本当の気持ちなの?」
「俺はそれでいいんだ」
「それ“で”いいって何? それ“が”いいじゃないの?」
「えっ」
「成夜くんの言葉はちゃんと私に教えてるよ。本当は違うって、本当は選んでほしいって」
成夜くんは黙って立ち上がり私の手を引いて教室を出る。
「成夜くん? どこに行くの?」
「黙って歩いて」
「うん」
私はただ黙って成夜くんの後ろを歩く。
そして保健室へ入る。
保健室には誰もいなかった。
「少し、話そうか」
「うん」
「さゆらと俺には他の四人とは違う話があるんだ」
「違う話?」
「俺はさゆらに選ばれたら死ぬかもしれないんだ」
「何それ?」
「俺は他の四人とは違って力がないだろ? 俺は生身の人間なんだ。さゆらと同じ」
「そうだったの?」
「だから五人全員の力が俺に入ってくれば俺の体は耐えられないかもしれないんだ」
「嘘!」
「この話はちゃんと証明されてるんだ。死んだ人もいればギリギリ生き延びた人もいる」
「その話をみんなは知ってるの?」
「知らない」
「どうして言わないの?」
「あいつらには関係ないからだよ」
「関係ない? そんなことないよ。関係あるよ」
「俺が選ばれたとしてもあいつらは力を失うだけ」
「成夜くん何を言ってるの? あなたは死ぬかもしれないんだよ? みんなが悲しむんだよ」
「だから俺は選ばれないようにしてるんだよ」
「でも、それは違うんでしょ? 本当は力がほしいんだよね?」
「俺の運命は決まってるんだよ。さゆらに選ばれないって。それ“で”いいんだ」
成夜くんの顔は苦しそうに見えるよ。
私には分かるよ。
でも、私も成夜くんには生きていてほしいよ。
彼はいつからこの悩みを抱えてたんだろう。
生まれたときから?
小さいときから?
私と会ったときから?
私、何も知らないで隣で笑ってたの?
成夜くんはどんな気持ちで私を見てたの?
「成夜くん」
「ん?」
「一つだけ聞いてもいい?」
「うん」
「もし、力を手に入れたらあなたは何の為に戦うの?」
「俺は、さゆらの為って言いたいけどやっぱり俺の大切なやつら全員を守る為に戦いたい」
「そっか。そうだよね。やっぱり、力がほしいんだよね?」
「えっ」
「成夜くんの顔が今までと違うもん。キラキラしてる。それがあなたの望みなら私はちゃんと五人の中から一人を選ぶよ」
「さゆら、ありがとう」
成夜くんの満面の笑みはすごくキラキラしていて眩しかった。
「そこにいるのは姫だな」
ダークフォグが保健室の窓から入ってきた。
成夜くんがいるから大丈夫。
「さゆら、後ろに下がってて」
「うん」
私は成夜くんから少し離れる。
「俺はヒロを呼ぶ。さあ、俺の盾になれ」
成夜くんはいつものように空中に星マークを書き、光った星マークから尋夜くんが現れる。
「ダークフォグが現れたか?」
「あぁ。解析を頼む」
「うん。天でいける」
「分かった。俺はルイを呼ぶ。さあ、俺の盾になれ」
さっきのように次は累夜くんを呼んだ。
「俺の綺麗な攻撃を見たいのか?」
「そうだな。早く、ダークフォグをやれ」
「姫は見たいよね?」
「はい」
「だよね? じゃあこれは姫の為に見せてあげる。天よ俺の声を聞け。雨の涙」
すると大粒の雨の雫が私達の周りを浮遊している。
「姫、その雫に触れてみて」
累夜くんに言われて人差し指で触れてみた。
すると雫は他の雫に当たってどんどん大きくなる。
「何?」
「雨の涙が集まってるんだ」
「雨の涙?」
「さぁもうすぐ終わるよ」
そう累夜くんが言うと大きくなった雨の涙はダークフォグの上へ落ち、ダークフォグを包んだ。
「これが最後」
『パチン』
累夜くんが指を鳴らして大きな雨の涙は勢いよく弾け、ダークフォグも一緒に消えた。
その後その場所には小さな虹ができた。
「綺麗」
私の口から言葉が漏れ出た。
それほど虹は綺麗で美しかった。
「姫」
いつの間にか私の前にいた累夜くんは私の手をとって、いつものように手の甲にキスを落とした。
その仕草はいつ見ても色っぽい。
「そこまで」
「成夜くん?」
成夜くんは累夜くんの手を私の手から剥ぎ取って私を抱き寄せた。
「さゆらは渡さない」
「せっ、成夜くん?」
「さゆらは俺のだ」
「成夜が初めて俺から女の子を取った!」
累夜くんは驚いている。
「さゆらだけは誰にも譲らない。俺の力もな」
「あっそ。それなら俺だって姫は渡さないよ。力も渡さない」
「ふふっ」
「姫?」
「さゆら?」
私は二人を見て笑ってしまった。
だって楽しくて。
「二人って本当は息が合うのかもね」
「はぁ? 累夜みたいなチャラいやつと一緒にするなよな」
「はぁ? 俺だって成夜みたいなデリカシーのないやつと一緒にしてほしくないよ」
「二人が仲良しなのは分かったよ」
「さゆらが笑ってるならいいか」
「そうだな」
成夜くんが言った後、累夜くんが納得したように言った。
私は成夜くんに抱き寄せられたままだったから成夜くんの腕の中で笑った。
成夜くんの腕の中は暖かくてすごく居心地がよかった。
私はもう、普通の学校生活は望みません。
だって、今のこのドキドキワクワクの学校生活が楽しいからです。
読んで頂きありがとうございます。