第八・王子様の累夜くん
さぁ、今日のターゲットは?
累夜くんです。
彼のことは少しだけ知ってるけどまだ本当の累夜くんを知らない。
今日も累夜くんは学校に来たのは午後からだった。
「累夜くん」
「何? 姫」
「どうしていつもお昼から学校に来るの?」
「いろいろあるんだよ」
「いろいろって何? 学生は勉強する為に学校に来るんだよ」
「俺は勉強するために学校に来てる訳じゃないって言えば納得する?」
「ちゃんと話してほしいよ」
「姫には話しておかないといけないかな」
「教えてくれるの?」
「今日の放課後に体育倉庫で話そうか」
「うん」
やっと累夜くんを知れる。
何か嬉しくなった。
そして放課後、私は体育倉庫へ向かった。
まだ累夜くんはいない。
教室にはいなかったからもう、いるかと思ったんだけどな。
ちょっと待ったけど来ない。
何かあったのかな?
もう少しだけ待とう。
すると体育倉庫のドアが開いて誰かが入ってくる。
「姫、発見」
私はその声に怯えた。
その声の主はダークフォグだったから。
どうしよう。
そうだった。
私はブレスレットのピンクの石を押す。
私も尋夜くんに貰ったの。
これで成夜くんは気付いたはず。
でも、成夜くんが来るまでどうしよう。
ダークフォグは私との間を詰めてきた。
私は後ろに下がって間を開ける。
でも私の背中は壁に当たって下がれなくなる。
どうしよう。
するとダークフォグが私の首に手を当て力を入れて首を絞める。
苦しい。
私の目からは涙が流れる。
その涙がダークフォグの手に落ちる。
「うわっ」
「ケホッ、ケホッ」
ダークフォグは私の涙を嫌がるように私の首から手を離す。
「さゆら!」
「成夜くん」
「大丈夫か?」
「うん。なんとかね」
するとダークフォグはまた私の首に手を当てる。
「さゆら! 俺はヒロを呼ぶ。さあ、俺の盾となれ」
「ダークフォグか?」
「さゆらを助けて解析しろ」
「分かった」
それから私は尋夜くんから助けられて遠のく意識の中、彼らの戦いを見た。
「成夜。こいつは炎だ」
「ありがとうヒロ。俺はコトを呼ぶ。さあ、俺の盾となれ」
「は~い。俺の出番だね。」
「コト、ダークフォグをヤレ。こいつは絶対にヤレ」
「何?成夜が怖い」
「早く!」
「分かってるよ。火よ俺の声を聞け。渦」
そして炎の渦がダークフォグを飲み込みダークフォグは溶けるように消えていった。
そして私の記憶も途切れた。
ふわふわと何か暖かいものに包まれている感覚で目が覚めた。
「成夜くん?」
「さゆら、大丈夫か?」
「うん。なんともないよ」
「一応、苳夜に治療はさせた」
「だからなのかな? すごく目覚めがよかったよ」
「そうか」
何か成夜くん、悲しそうな顔をしてる?
どうしたの?
「ごめんな」
「え?」
「傍にいればこんなことにはならなかったのに」
「どうしてそうなるの?」
「俺がいればさゆらは怖い思いも、苦しい思いも、痛い思いもしなくてよかったのに」
「成夜くんのせいじゃないよ。私だって自覚が足りないの。」
「自覚?」
「ダークフォグに狙われるのに一人で行動したりしたらダメだよね」
「でもさゆらはいつでも誰かと一緒じゃん。今日は違ったけど」
「あっ、うん。累夜くんがいると思ってたんだけどね」
「累夜のせいか」
「違うよ。誰のせいでもないから」
私達はその後、家へと帰った。
次の日、累夜くんは学校へ来なかった。
その次の日も、また次の日も。
累夜くんが学校へ来たのは三日後のお昼だった。
「おい、累夜。お前、この三日間なにやってたんだよ」
「あ? 成夜には関係ないよ」
「姫がダークフォグに襲われたのはお前のせいなんだぞ」
「俺のせい?」
「違うよ。誰のせいでもないからね」
私は成夜くんの言葉を否定した。
「さゆらはそう言っても俺は許さないからな」
「成夜くん。私は大丈夫だったんだからもう、いいでしょ?」
「ダメだ。もし、大丈夫じゃなかったらどうするんだよ。もし、死んでたらどうするんだよ」
「成夜くん」
成夜くんは悲しそうな顔をした。
「死んでないならいいじゃん」
「え? 累夜くん?」
「累夜。今、何て言った?」
「成夜くん落ち着いて」
「死んでないならいいじゃん。俺のせいで……」
「累夜くん?」
累夜くんは今にも泣きそうな顔で言った。
「累夜。言っていいことと、悪いことの判断も出来ないのかよ」
「今の俺はこの言葉しか受け入れない。生きてるならそれでいい」
「お前!」
そして成夜くんが殴りかかろうとしているのを尋夜くんに止められていた。
「ちょっと俺、一人になりたいから」
そう累夜くんは言って教室を出て行く。
累夜くんの背中は前に見たあの悲しそうな背中だった。
私はどうしても累夜くんをほっとけなかった。
「おい、さゆら。どこに行く」
「累夜くんのところ」
「何であんなやつの所に……」
成夜くんは尋夜くんに口を手で抑えられて話せなくなっている。
尋夜くんは私に行っていいよと、目で言った。
私は累夜くんを追いかけた。
「累夜くん!」
「来ないでくれる? 俺、今は余裕ないから」
累夜くんは前を向いて歩きながら後ろを歩く私に言った。
私はそんな累夜くんの背中に抱き付いた。
「なっ、何?」
「いいよ泣いても」
「え?」
「累夜くんの背中が泣きたいって言ってるよ」
「俺は泣かないって決めたのに」
そう累夜くんは言って静かに涙を流していた。
累夜くんのお腹に回した私の腕に落ちた水が累夜くんの涙だと教えてくれた。
どのくらい経ったのかな?
累夜くんは私の手を握って連れて行きたい場所があると言った。
そして私は累夜くんに手を引かれある場所へと来た。
「お墓?」
「そう。ここに眠っているのはある女の子」
「女の子?」
「俺が助けられなかった女の子」
「えっ?」
「俺は成夜がいないままダークフォグと戦った。その時に狙われていた女の子。俺は戦ったよ。でも何の力もない俺に勝てるわけもない」
「成夜くんは来てくれなかったの?」
「来たよ。女の子の命が消えかかりそうな時にね」
「俺はダークフォグの相手にもなれず、ただダークフォグが苳夜にやられるところを見ていることしかできなかった」
「女の子は?」
「女の子はまだ息をしていた。だから苳夜に治療させたけど、女の子の意識は戻らなかった」
「その時亡くなったの?」
「いいや、女の子は頑張ったんだ。三日前までは」
「三日前?」
「女の子はずっと眠ったまま起きなかったんだ。でも、まだ生きている。だから俺は毎日、お見舞いに行った。目が覚めてくれることを願って」
「もしかして朝、学校に来るのが遅かったのって」
「そう。女の子に会うため。でも三日前に女の子は天国へ旅立った。俺が守れなかった命」
累夜くんも誰かの死を見てきて心が壊れそうなんだね。
人の死はなぜ心を簡単に壊すんだろう。
「私もお父さんを亡くしたとき同じこと思ったよ。私のせいでお父さんは天国へ行っちゃったって」
「姫も?」
「人の死は残った人の心を寂しくさせる。その寂しさが私達の心を間違った考えかたへもっていく。私のせい。私がいなければ。なんて思っちゃう」
「そうだな」
「でも、私はそれが間違いだって分かったの」
「どうして?」
「お母さんが教えてくれたの。お父さんが天国へ行ったのは私のせいじゃないって。誰のせいでもないって。お父さんはもういないけど私の人生はまだまだ続く。立ち止まっちゃダメだって」
「立ち止まる」
「そう。私のお母さんはいつもニコニコ笑顔で何も悩みもない人って言われるけどお母さんはみんなと同じ。ただ見せないだけ。だって見せて、誰が喜ぶの?」
「すごいな。姫のお母さんは」
「うん。でもね、悩みを打ち明ける人はいないとダメになるの。だからお母さんは今のお父さんに頼ってるの。お父さんはちゃんとお母さんを見ているから。お母さんの悩みをちゃんと受け止めてあげてるから」
「俺だけじゃないんだな」
「みんないろんな悩みを抱えてる」
「姫が悩みを打ち明ける相手に俺はなりたい」
「えっ?」
「俺は姫の一番になりたい。俺を選んでよ。俺はずっと隣で姫の悩みに気付いてそれを受け止める相手になりたい。」
また私の顔が赤くなるよ。
今回は成夜くんはいないから何も言われないけどやっぱり私は顔を手で覆う。
「ねえ、顔を見せて」
「えっ」
累夜くんは私の顔を覆っていた手をどけて、私の顎をクイッと上げた。
そしてニッコリ笑った。
その顔は私の心をホッコリさせた。
私も笑顔が出た。
「その顔が見たかったんだ。俺はその笑顔を守る為に戦うんだ。だからその顔を俺に見せて。俺が嫌って言うまで見せて」
「えっ、嫌って言うの?」
「絶対言わない。俺は姫を離さないから」
累夜くんは私の耳元で色っぽく甘い言葉を囁いた。
私はこの普通じゃない学校生活が私の普通の学校生活だと思うようにしました。
読んで頂きありがとうございます。