第七・王子様の琴夜くん
「姫。今日も可愛いね」
「琴夜くん苦しいよ」
今日も琴夜くんは私の首に腕を回して抱き付いてくる。
可愛い弟って感じの琴夜くん。
私にすごく懐いちゃってしっぽをフリフリしているワンちゃんみたい。
可愛い。
「琴夜、女子達が見てるぞ」
「あっ、本当だ。みんなが待ってるから姫、また後でね」
成夜くんに言われ琴夜くんは女の子達の元へルンルンと嬉しそうに向かった。
「何で女子と一緒にいたいんだろうな」
「え? 成夜くん?」
「俺は男と一緒にいたほうが楽しいけど、琴夜は違うんだよ」
「いつも女の子と一緒だよね」
「もしかしてあいつ、男が好きなのか?」
「それはないと思うけど、琴夜くんって謎が多いよね」
「そうか? 変なやつだろ?」
今日も午前中は何もなく、静かに終わった。
私はお弁当を机の上に置いて気付く。
今日も琴夜くんは教室を出て行く。
今日は何故か気になって追いかける。
「さゆら?」
「あっ、琴夜くんに話があったの。すぐに戻るから」
「すぐに戻って来いよ」
「うん」
私は静かに琴夜くんを追いかける。
琴夜くんは屋上の入口の扉の手前で後ろを振り向きキョロキョロ周りを確認して屋上へ出た。
私も屋上へ出ようとゆっくり扉を開ける。
誰もいない。
もしかして。
私は嫌な想像をしてしまった。
勢いよく屋上へ出る。
「やっぱり姫か」
どこからか声がした。
でも、人の姿はない。
「上だよ」
そう言われて上を見上げる。
琴夜くんが屋上の入口の上に立っていた。
「何してるの? 危ないよ」
「大丈夫だよ。僕はいつもここに来てるから」
「いつもって、お昼ご飯のとき?」
「そうだよ。僕の居場所」
「居場所?」
「僕はここにいるときが一番、楽なんだ」
「景色が綺麗だからだね」
「それもあるけど、ここが僕が僕でいられる場所」
「意味がよく分かんないだけど」
「これだったら分かる?」
琴夜くんはそう言って私の前に飛び降りてきた。
ちょっと驚いたけど普通の人間よりは丈夫な体を持っている琴夜くん達にはなんともないことを思い出す。
「俺は姫に選んでほしいよ」
琴夜くんはそう言って私の顎をクイッとあげ、目線を合わせた。
「今、俺って言ったの?」
「うん。これが本当の俺」
「可愛い琴夜くんは?」
「みんなが求める俺」
「どうして本当の自分を出さないの?」
「可愛い俺がいいでしょ?」
「私は琴夜くんがなりたい琴夜くんがいいよ」
「俺のなりたい俺?」
「そう。琴夜くんが疲れない、素の自分」
「素の自分?」
琴夜くんは黙ったまま何か考えている。
「俺が俺を誰にも見せなくなったのは親に言われたからなんだ」
「何を言われたの?」
「あなたの見た目は可愛いから男を出すなって。その見た目にあった俺でいろって」
「何それ。そんなの親が言う言葉じゃないよ」
「でも俺も親と同じ考えなんだ。人は見た目で判断する。俺が笑えば可愛いって女の子達も笑う。笑顔がそこにあればいいんだって思ってる」
「琴夜くんの心はそれでいいの?」
「俺の心?」
「琴夜くんの心は悲鳴をあげないの? 苦しいって言わないの?」
「思っても言わないよ」
「どうして?」
「誰も望んでないからだよ」
「望んでいないから言わないのは私は望んでないよ」
「姫の言葉、何か変」
「変じゃないよ。私は望んでるよ。琴夜くんの心の悲鳴。心の声を聞きたいよ」
「姫? 何で泣くの?」
「だって、琴夜くんの心が可哀想で。言いたいのに言えない琴夜くんが可哀想で」
「姫。泣かないでよ。俺の為に泣かないで」
琴夜くんは私の涙を指で拭う。
「姫、見つけた」
またダークフォグ?
もう、いい加減にしてよね。
琴夜くんのこともっと知りたいのに。
今回のダークフォグは翼を持っている。
「姫、俺から離れないでね」
「うん。成夜くんを呼ばないと」
「呼んだよ。」
「どうやって?」
「これだよ」
「ブレスレット?」
「うん。この赤い石がボタンになってて、押すと成夜が気付く仕組みなんだ」
「すごい。これは尋夜くんが考えたでしょ?」
「よく分かったね」
「やっぱり」
って、そんなこと言ってる場合じゃないよ。
成夜くんが来るまでどうするのよ。
「俺だって、苳夜みたいに鍛えてるんだからね」
「そうなの?」
「それじゃぁ、よいしょっと」
えっ?
何?
私は琴夜くんにお姫様抱っこされてる?
「お姫様をお姫様抱っこするなんて俺って本当の王子様だね」
琴夜くんは嬉しそうに可愛い笑顔を見せた。
琴夜くんは私を抱っこしたまま走り回る。
そうよね。
私を抱っこしているんだから逃げるしかないよね。
そして、私達は隅に追いやられた。
逃げ道がなくなった。
どうしよう。
その時、
「俺はルイを呼ぶ。さあ、俺の盾となれ」
「天よ俺の声を聞け。雷の糸」
成夜くんが呼んだ後、累夜くんが現れた。
一筋の雷が、飛んでいるダークフォグに突き刺さるように落ちてきて、一瞬でダークフォグは消えていった。
一瞬のことで私の目は、ついていくのにやっとだった。
「姫、大丈夫?」
「琴夜くんこそ大丈夫? 重かったでしょ?」
「全然だよ。さっきも言ったけど、俺も鍛えてるから大丈夫だよ」
「俺?」
「あれ? 成夜くんは知らなかったの?」
「成夜にも、誰にも言ってなかったからみんな知らないよ。姫が最初だよ」
「えっ」
「姫、俺の心の声を聞いてくれてありがとう。俺は姫にお返しがしたいな。」
「お返し?」
「俺を選んでよ。そうすればずっと姫に恩返しができるから」
「なっ」
琴夜くんの最強の笑顔に私はやられました。
また顔を手で覆ったのでまた、成夜くんがどうした? って言う。
成夜くんは分かっていて言ってるよ。
もう、意地悪なんだから。
その後教室へ戻って琴夜くんが俺って言ったらクラスの女の子達が固まった後、格好いいと言っていました。
よかったね琴夜くん。
本当の琴夜くんをみんな望んでたんだよ。
「姫。」
「何?」
「俺は姫だけだよ。どんなに女の子と話していてもいつも姫のことしか考えていないよ」
琴夜くんは私の耳元で私にだけ聞こえるように小さな声で言った。
私の普通の学校生活は夢のまた夢になりました。
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