表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームには当てはまらない~私には誰も選べないから~  作者: 来留美
第一章~私には誰も選べません~
6/16

第六・王子様の苳夜くん

私には全員のことをよく知ることが必要なの。

それじゃないと選ばれた本人は全ての力を持って嫌になるかもしれない。

私が勝手に決めるのではなくて、みんなでちゃんと決めたいの。

それにはまずは知ることから始めようと思った。

今日のターゲットは?


成夜(せいや)。開けてくれ」


来た。

私はすぐに窓を開ける。


「おはよう苳夜(とうや)くん」

「えっ、何でお姫様が開けてくれるんだよ」

「今日は私がずっと苳夜(とうや)くんの隣にいるから、いろいろ教えてね」

「教える?」

「そうだよ。私が誰を選ぶかはまず、みんなのことを知ってからだと思って」

「お姫様には教えること何もないけど」

「あるよ。何で窓から入ってくるの?」

「鍛えるため」

「え?」

「俺は筋肉をつける為にやってるんだ」

「ん? 他に方法はあるよね?」

「他か? 他は腕立て伏せ千回、腹筋千回、スクワット千回、ランニング限界がくるまで、縄跳びも限界がくるまで」

「他にってそう言う意味じゃないよ。でも、やり過ぎじゃない?」

「俺達は何をするにも普通の人より疲れないし、痛みもないんだ」

「それで限界までするものもあるんだね」

「俺は強くなりたいんだ」

「強いと思うよ。私は苳夜(とうや)くんが戦ってるの見て凄く強いと思ったよ」

「昔は弱かった」

「昔?」

「何でもない」


苳夜(とうや)くんはそう言って席に座る。

気になる。

苳夜(とうや)くんの昔の話が気になる。


「ねぇ成夜(せいや)くん」

「ん?」

苳夜(とうや)くんは昔は弱かったの?」

「うん。すごく弱かった」

「何で?」

「あいつは今とは正反対で体が小さくてすぐ風邪をひいたりして体が弱かった」

「想像できないよ」

「そんな時、ある事件が起きてあいつは今のようになったんだ」

「事件?」

「それは俺からは言えない」

「そんなに大変な事件なんだね」

「あいつの全てを変えるくらいだからな」


そうなんだ。

そんな大変な事件を乗り越えたってこと?

苳夜(とうや)くんの気持ちを知りたくなった。

自分を大きく変えた、事件があった時の苳夜(とうや)くんの気持ちを。


あっ、苳夜(とうや)くんが教室から出ようとしてる。

チャンスだ。

私はすぐに動き出す。

それに気付いた成夜(せいや)くんに声をかけられる。


「さゆら。どこに行くんだ?」

苳夜(とうや)くんを尾行しに行くの」

苳夜(とうや)を尾行? 何で?」

苳夜(とうや)くんを知りたくてね」

「そっか。苳夜(とうや)ならさゆらも大丈夫だな」

「うん。いってきます」

「いってらっしゃい」


私と成夜(せいや)くんは敬礼をして私は教室を出た。



苳夜(とうや)くんはどこに行くのかなぁ?

バレないように隠れながら歩いた。

いつの間にか体育館に来ていた。


「さっきからバレてるけど」

「えっ!」

「何か用?」

苳夜(とうや)くんの昔の話が聞きたいの」

「無理」

「どうしても教えてくれないの?」

「それなら、俺に勝てたら教えてあげる」

「何をすればいいの?」

「俺とシュート対決」

「シュート?」

「バスケのゴールにどれだけ入れられるか勝負だ」

「私には無理だよ。シュートなんてしたことないし」

「それなら、俺の昔の話は聞かなくていいよな?」

「聞きたいよ。やるわよ」


そしてシュート対決が始まったのだけれども、私には勝てる自信がないよ。

私のボールはゴールにさえ当たらない。

それに比べて苳夜(とうや)くんは一度も外していない。


苳夜(とうや)くんずるい。私に教えてよ」

「さっきから姫は脇が締まってないからボールが変なところに飛ぶんだよ」


そう言って苳夜(とうや)くんは私の後ろから腕を抑えた。

私の脇が締まる。

苳夜(とうや)くんに抱き締められている感じになり、私の心拍数が上がる。


「投げてみろ」

「うん」


私が投げたボールは綺麗にゴールに入った。


「嘘。やったー。苳夜(とうや)くんハイタッチしよう」


私は両腕を上げて苳夜(とうや)くんとハイタッチをした。


「いいよ」

「何が?」

「俺の昔の話を教えても」

「いいの?」

「姫なら俺の全てを話してもちゃんと受け止めてくれそうだから」

「私は苳夜(とうや)くんの全てを受け止めるよ」

「俺の全てが変わったのは俺がまだ小学生の低学年のころだった。俺はまだ力のことを理解していなかった。」

「高校生の私でも理解するのは難しいよ」

「俺の目の前にダークフォグが現れた。俺は何もできずにただ震えていた」


苳夜(とうや)くんの握り拳は震えていた。

私はそんな苳夜(とうや)くんの握り拳を両手で包むように握った。

大丈夫だよ。

私がいるよ。

そう伝えたかった。

苳夜(とうや)くんは私の顔を見て強ばった顔を笑顔に変えた。

私の気持ちが伝わったんだと思う。


「俺を見つけた母親が俺をかばった。そんな母親をダークフォグは躊躇いもなく傷付けた。何度も、何度も。俺はそれを耳で聞いていた。」

「耳?」

「怖くて目を閉じていたんだ。そのせいか、母親の痛くて苦しい声は俺の頭の中に響いたんだ」

「嘘でしょう。そんなことを小学生のときに……。無理だよ。私だったら無理。立ち直れないよ」

「泣かないで。」


苳夜(とうや)くんが私を心配して見ている。

でも私の涙は止まらない。

もしかしたら私は苳夜(とうや)くんの代わりに泣いているのかもしれない。


「俺はあの時決めたんだ。強くなるって。誰よりも強くなるって。」

「本当は?」

「本当?」

「本当はあの時どう思ったの? そんな小さな体でそんなこと思えないよ。私は自分を責めちゃうかもしれない。」

「俺も自分を責めたよ。あの時、俺が強かったらって。でも誰も俺を責めなかった。それが一番辛かった。」

「自分では自分を責めているのに、周りは責めない。自分と周りの気持ちの違いに戸惑ったの?」

「そうだと思う。俺はあのままでよかったのか、あのまま母親に抱き締められたままでよかったのか」


「姫がいた」


また、成夜(せいや)くんがいないときにダークフォグが現れた。

でも、今回は大丈夫。

だって、苳夜(とうや)くんがいるからね。


「姫は俺の後ろにいて」


苳夜(とうや)くんは私の腕を引き、後ろに追いやる。


「せっかく、姫と話してたのに邪魔すんなよな」


そう苳夜(とうや)くんは言ってダークフォグへ拳を向ける。

しかし、ダークフォグの体は硬かった。


「くっそ。何でこんなに硬いんだよ。」

成夜(せいや)くんを呼んでくるよ」


私は体育館の出入口へ走る。


「姫、待って」


私の行動を見ていたダークフォグは私の前に立ち、出入口を塞ぐ。

どうしよう。

逃げなきゃ。

でも、ダークフォグはすぐそこにいる。

私は叫んだ。


苳夜(とうや)くん助けて」


すると苳夜(とうや)くんは私の目の前に立ち、すぐに私を抱き締めた。

まるで苳夜(とうや)くんのお母さんがしたように。

でも私は苳夜(とうや)くんみたいに子供じゃない。

私は目を開けて苳夜(とうや)くんを見上げた。

私はちゃんと見ているからね。

あなたなら大丈夫。

そう、目で伝えた。


私の声に誰かが気付いて成夜(せいや)くんを呼んでくれた。


苳夜(とうや)。後は、俺達がする。」

「いいや。成夜(せいや)、俺に力をくれ。姫を怖がらせたこいつを俺は許せない」

「でも、まだ解析もしていないぞ」

「大丈夫。今の俺なら勝てる」

「分かった。俺はトウを呼ぶ。さあ、俺の盾となれ」

()よ俺の声を聞け。勇気の力」


するとダークフォグの足下からつるが伸びてダークフォグに絡まる。

ダークフォグは身動きが取れない。

どんどんつるは増えていき、ダークフォグは見えなくなった。


「いけ!」


苳夜(とうや)くんが叫ぶとつるはダークフォグを潰すようにギュッと一段と小さくなった。

そしてダークフォグと一緒につるは消えた。


「姫、大丈夫か?」

「私は大丈夫よ。苳夜(とうや)くんは大丈夫なの?」

「俺は回復の力があるからさっき自分で治療したんだ」

「何それ。すごい便利じゃん」

「俺は力がないのに俺を守る母親が嫌いだった。でも姫は俺が力がなくても信じてくれた。見ていてくれた。俺は母親の気持ちが分かったんだ。力がなくても守りたいものがあるって」

「お母さんはどこにいるの?」

「天国だよ。あの後、病院で少しは頑張ってくれたけど今はもういない」

「お母さんは頑張ったんだね」

「うん」

「自分の命よりも大切なものを守った苳夜(とうや)くんの自慢のお母さんだね。

本当はずっと隣で成長を見ていたかったかもしれないけれど、天国でちゃんと見ていると思うよ」

「ありがとう。姫」

「私じゃなくてお母さんに言ってあげて」

「母さん。俺は一生、姫を守り抜くよ。だから姫、俺を選んでよ」


苳夜(とうや)くんはプロポーズみたいな言葉を私にくれた。

私はまた顔を手で覆った。

もう、恥ずかしい。

やっぱりそんな私に気付く成夜(せいや)くんはどうした? と言うのでした。



私はもう、普通の学校生活をするのは無理だと思っています。

読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ