第三・王子様達の秘密
ボディーガードの中からたった一人を選ぶって何を基準に選ぶのよ。
今日、初めて会った人達だよ。
今すぐに決めろなんて言われてないから急がなくてもいいのかもしれないけれど、いつまでも待ってはくれないと思う。
どうしよう。
「さゆら?」
成夜くんが心配そうに私を見ていた。
私、心配させてる?
今は忘れよう。
そうよ。
今は学校を楽しもう。
「ちょっと顔を洗ってくるね」
私は顔を洗う為に手洗い場へ行こうすると後ろから成夜くんがついてきた。
「何でついてくるの?」
「一人は危ないからね」
「そこの手洗い場だよ?」
「うん」
「危なくないよね?」
「危ないよ」
私は子供じゃないよ?
私は成夜くんから逃げるように走った。
「あっ、おい。待て」
角を曲がれば手洗い場だ。
私は角を曲がって何かにぶつかり尻もちをついた。
「もしかして姫か?」
その声に私は顔をあげる。
「えっ、何?」
私の目の前に立っていたのはこの学校の男子生徒なのに何か違う。
何か違うと思うのは目の焦点が合っていない。
それに口を少し開けて、犬のようにハアハアと息をしている。
人間に見えて人間じゃない、その生き物はまるで悪魔が体の中に入っているみたいだった。
「さゆら!」
私の腕を成夜くんは引っ張り、変な生き物の彼との距離をとる。
「大丈夫か? 何もされていないか?」
「大丈夫だよ。でも、何なのあの人」
「あれはダークフォグのせいなんだ」
「ダークフォグ?」
「説明は後からする」
成夜くんはそう言って私より少し前に出た。
「俺はヒロを呼ぶ。さあ、俺の盾となれ」
成夜くんは何か叫びながら空中に、大きく星の形を書くと星の形が浮かびあがり、光った。
私は眩しくて目を細める。
すると人が現れた。
「成夜。ダークフォグ?」
「そうだ。早く解析しろ」
「分かった」
尋夜くんが星の光から現れたみたい。
二人は当たり前のようにしてるけど、私には理解ができない。
何故? がたくさん頭の中でいっぱいだ。
「さゆら。後でちゃんと説明するからお前は黙って見てろ」
「うん」
私のやっと出る言葉は“うん”だけだった。
「成夜。あいつは天でいける」
「分かった。それならルイだな」
成夜くんはそう言ってまた空中で星マークを書く。
「俺はルイを呼ぶ。さあ、俺の盾となれ」
「俺の出番か?」
そこに現れたのは累夜くんだった。
「ルイ。ダークフォグをやれ!」
「分かってるよ。お姫様が見てくれているなら絶対勝たないとね。まぁ、負けたことないけどね」
そして累夜くんはダークフォグと呼ばれている変な彼のほうを向く。
「天よ俺の声を聞け。雪の花」
累夜くんがそう言うと、ダークフォグを雪の結晶が取り囲む。
ダークフォグは雪のせいで凍った。
「さあ、仕上げだ」
『パチン』
累夜くんが指を鳴らすと凍ったダークフォグは粉々になって消えていった。
何が起きたのか分からない。
「さゆら。大丈夫か?」
「成夜くん。今のは何?」
「俺達の本当の仕事だ」
「本当の仕事?」
「表はボディーガードだが、本当はこのダークフォグを殲滅するための組織。それが俺達なんだ」
「私、初めてダークフォグなんて聞いたよ」
「ダークフォグはどこでも現れるわけじゃないからなんだ」
「じゃあどこに現れるの?」
「俺達、海道家に関わる人達の前だけに現れる。それと」
「それと?」
「姫の前」
「私?」
「だからボディーガードという仕事を名乗るんだ」
「ダークフォグのことは分かったよ。次は成夜くん達のこと。みんな何か役割がある感じに見えたよ」
「そうなんだ。俺が尋夜や累夜を呼び出して指令を出すんだ」
「成夜くんが言わないと動けないの?」
「動けるけど特殊な力は使えないんだ。例えば尋夜は解析する力。ダークフォグがどんな力に弱いのか見極めるんだ」
「それで累夜くんを呼んだのね」
「そう。累夜は天の力を操る。」
「天?」
「さっきは雪を使った攻撃だっただろう?」
「うん。すごく強かったね」
「あいつらは負けたことないからな。」
「成夜くんもでしょ?」
「えっ?」
「成夜くんも負けたことないでしょ?」
私が成夜くんに言うと成夜くんは黙った。
どうしたの?
私、変なこと言った?
もしかして怒った?
すると成夜くんは私を抱き締めた。
「えっ、何?」
「ありがとう」
「私、何かしたかな?」
「俺の心を救った」
「成夜くんの心?」
「俺も一緒に戦っているって言ってくれた」
「だって、そうでしょ? 成夜くんがいないとみんなは力がないんだから」
「俺だけ毎回、無傷だった。俺には戦う力もない」
「そんなふうに思うのは間違いだよ。みんなで戦っているんだからみんなが強いの」
「さゆら。本当にありがとう」
成夜くんは私の頭を撫でながらお礼を言った。
「俺は姫みたいには思えないな」
「累夜くん?」
「いつも俺達に命令して、傷一つ負わないお前が俺は嫌い」
「累夜くん。あなたは一人じゃ戦えないよ。みんなで協力するから戦えるんだよ」
「そうだね。それがあるから嫌いなんだ」
「累夜くん?」
「さっ、ダークフォグもいなくなったし、教室戻ろうか」
「累夜くん待って」
「お姫様。俺と一緒に戻りたい?」
累夜くんは私の手をとり、手の甲にキスを落として私にウインクしながら言った。
「さゆらは俺と行くから」
成夜くんが累夜くんの手を剥ぎとって言った。
「自分では何も出来ない俺は先に帰るよ」
累夜くんは教室へと向かうために私達に背中を向けた。
累夜くんの背中は何故か悲しそうに見えて私はほっとけなかった。
「累夜くん」
累夜くんを呼んでも累夜くんは振り向きもしないまま手を振った後、曲がり角を曲がって見えなくなった。
今日の出来事は私の人生で一番心に残ったと思うほど衝撃だった。
でもやっぱり私は普通の学校生活はできないみたいです。
読んで頂きありがとうございます。