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ティアラペット☆もんすたーズ!後編


「じゃあユウは落ちるね! バイバイ!」

「うん! バイバイ」


 由羽(ゆうは)がヒュンと消えて、息を深く吐いた唯花(ゆいか)。衣装はセクシーアバターに戻っている。


「私もそろそろ落ちようかな? じゃあねドラちゃん!」

「ドラ!」


 そして、唯花はログアウトした。


 現実に戻った唯花はVR機器を外すと、それを充電スタンドへと置いた。


「……へへへ」


 怖い目にもいっぱいあったけど、ドラちゃんに出会えたし、由羽ちゃんとも仲良くなれた。


 それだけで嬉しい。唯花はニコニコとしながら、自室を出て1階のキッチンへと降りる。


「あら、どうしたの?」


 キッチンに立つ唯花の母が、妙に嬉しそうな唯花を見て、そう声を掛けた。


「んーなんでもない!」


 満面の笑みでそう答えた唯花に、母はただ黙って笑顔を返したのだった。


「お父さんは?」

「お仕事よ。今日も忙しくて帰ってこれないってさ」

「そっかー」


 唯花はコップに入った麦茶を飲みながら、頑張って働いているであろう父親へと思いを馳せた。



☆☆☆



市原(いちはら)主任! やばいバグの報告来てますよ!」


 株式会社アーク、第三事務室。


 その一角に市原のデスクがあった。ごちゃごちゃとした机の上には写真立てがあり、市原の妻と小学生ぐらいの娘らしき少女の姿が映っている。


「あん? どこのバグよ」

「ティアもんっすよ!」

「……なら俺は知らん」

「ええ……」


 PCモニターで作業をしながら市原が部下の言葉に冷たく返す。


「俺は反対した。それでも上がゴーサイン出した以上はもう俺の手を離れた」

「……娘さんの為に一生懸命作ってたの僕知ってるっすよ、このままだと娘さんみたいな子達が」

「娘にはとてもじゃないがやらせる気が起きないゲームに成り果てるな」

「……そもそもが無茶だったんすよ……リリース直前でポシャったグロ満載のスプラッタダークゴアファンタジーのデータを女児向けゲームに流用するなんて」


 ため息をつく部下がコーヒーを2杯手に持っている事に市原は気付き、席を促した。

 隣に座った部下から紙コップを受け取り、口を付ける。


「この会社は最悪だが……コーヒーだけはなぜか美味いな」

「同感です」

「お前が入る前だったかな? ティアもんの開発が始まったのは。俺がディレクターとして陣頭指揮を取っていたんだが……」

「経営陣が変わったんすよ確か」

「ああ。それで、ティアもんは開発中止……にならなかった」

「僕が入社した時ぐらいっす。むしろリリースを早めろってせっつかれたんですよね」


 コーヒーに口を付ける市原。苦い味があの時の事を思い出させる。


「俺は反対した。子供向けと子供騙しは違うと何度も訴えた。だが、上はそれをはね除けて、ボツデータがあるならそれを丸々使って、()()()()変えればいけると判断した。馬鹿だよな。子供は大人が思うほど愚かではないのに。そして、上の命令に反対した俺はディレクターから外されてこんな最果ての部署に飛ばされた」


 市原が周囲を見渡した。自ら志望して、この部署に来たこの部下以外は皆何かしらをやらかしてここに飛ばされた連中だ。


「事務も大事な仕事ですよ」

「そうだな。そこは訂正する。で、どんなバグなんだ?」

「それが……ちょっと信じられないんですけど……メルファンとティアもんのオンラインデータが混線して、メルファンのプレイヤーデータがティアもんに転送されてしまったそうです」

「はあ!? なんじゃそりゃ」


 思わず大声を出した市原に、部下が慌てて人差し指を自分の口に当てて、シー!とジェスチャーした。


「おい……どういうバグだそれ。聞いた事ないぞ。そもそもメルファンとティアもんじゃあデータベースが違うはずだ」


 声を潜める市原に部下が答えた。


「……どうも、オンライン周りの仕様の開発が間に合ってなかったみたいで……」

「メルファンの奴を代用したのか」

「っぽいです。ただ、それだけでは起きる可能性はほぼゼロなバグなんですけど……今ほら、イベント中じゃないですか?」

「ああ……くそみたいなイベントでくそみたいなバグがいっぱい発生しているな。おかげで今日も報告書の山で帰れなさそうだ」

「結局あれって新ステージ実装の時間稼ぎなんですけど……どうもそれも間に合わないっぽいです」

「……アホなのか?」


 市原が呆れたような声を出した。経営状況が苦しい事は知っていたがそこまで血迷った判断を下す上の連中の頭の悪さに辟易する。


「今の段階でも、ストーリーの後半ステージはほぼボツデータのままで実装しているみたいです。さらにそもそもデータだけは丸々入れてあるせいで、バグで数人のプレイヤーが未実装ステージに飛ばされたそうですよ……。SNSで話題になってます。女児向けのくせにグロステージがあってトラウマ製造機だって」


 大きくため息をついた市原は何が起きているか大体予想できた


「つまりあれか、その突貫工事のせいで、ティアもんはかなり不安定な状態になっているってことだな。そりゃあ三つのゲームの寄せ集めみたいな物だからな……ボロは出るだろう」

「はい。ボツったゲームはいいとして、メルファンの方にまで悪影響を及ぼしています。まああっちはプレイヤー数が激減しているので、さして表には出てきていませんが……」

「とりあえず詳しく原因をまとめて報告書を提出しよう。おそらく無駄だと思うが……」

「はい、下手したら会社傾くレベルです。既にある程度はまとめてあるので、転送します」

「お前は優秀だな」

「そうですか?」


 こうして市原の残業は確定したのであった。

 しかしまさか、実の娘がまさにその致命的なバグに遭遇している事を彼は知る由もなかった。



☆☆☆


「よし、じゃあストーリー進めよっか!」

「ドラぁ!」


 どうやら、イベントに参加するにはストーリークリアが必須らしく、電話で璃梨華(りりか)から散々怒鳴られた唯花は、とにかくクリアを優先する事にした。


 その後、ドラゴの努力の甲斐あって、サクサクとステージをクリアしていった。

 唯花がいない間に、ドラゴは予めいけるステージを全て踏破しており、ネットも駆使して必須アイテムやイベントを把握し、クリアまでの最短ルートを構築済みだった。


「結構簡単だね!」


 にこやかにそう言う唯花を見て、努力は報われた……とドラゴは感動に浸っていた。


「次が最後かな?」


 そこは、ボロボロに朽ちた村だった。


 【()(ほろ)びし村ルエンザ】


 とそのステージに入ると大きく表示された。


「……村?」

「ドラぁ……」


 明らかにさっきまでいた【まっくら洞窟】と雰囲気が違いすぎる。


 漢字が読めない唯花には分からなかったが、名前の通り、その村は、朽ちており……既に()()()()()()


 元々は美しい村だったのだろうが、全ての家屋はボロボロに崩れており、人の気配はない。空は曇天、カラスのの不吉な声が響く。


「ドラ!……」

「え? 背中に乗れって?」


 唯花の前に屈んで背中を見せてくいくいと指を動かすドラゴ。


「……まいっか」


 ここまでドラゴのジェスチャー通りにして間違いはなかった。なので唯花はドラゴを信頼し、その背中へと身体を預ける。


「うわー高い!でも前が見辛いなあ」

「ドララ!」

「え、それでいいの? そっかならまあドラちゃんに任せる!」

「ドラ!」


 ドラゴは背中の唯花を左手でしっかりと抑えると、右手でファルシオンを抜いた。その顔に余裕はない。


「うわー早い!」


 背中ではしゃぐ唯花だが、ドラゴはダッシュで村を駆け抜ける。道ばたで死んでいる犬の死体が動き出して追い掛けてくるが、尻尾から放つ火球で撃破。


「キシャアアアアア!!」


 崩れた廃屋の扉を突如破って出てきたのは骸骨となった鳥のモンスターだった。


 それをファルシオンで一刀両断。足を止めずに先へと進む。

 進むと、道の途中で落とし穴があることは既にドラゴは予習済みだ。そこに落ちればさっきの腐乱犬の群れに襲われる事も知っている。


 見た目よりも軽やかにドラゴはジャンプし、落とし穴を越え着地、同時に前へと疾走。着地した場所にはスイッチがあり、それで矢の罠が発動される。ドラゴの背後を2方向から飛んできた矢が通り過ぎる。


「あははすごい! ジェットコースターみたい!」


 前が見えない唯花には何が起こっているか分からず楽しそうだ。もし普通に歩いていたらおそらく最初の犬の箇所で泣いていたかもしれない。


 ドラゴが村の奥にある井戸が設置された広場へと到着する。井戸の手動くみ上げ機がなぜか勝手に動き始めた。


 井戸から現れたのは、大きな蛇……に人間の上半身を付けた化物だった。


 このステージのボスである【毒吐きディロンlv23】と表示されたその蛇人間が蛇行しながら迫ってくる。


「ドラぁ!」


 尻尾薙ぎ払いをファルシオンで弾く。これまでのボスは使ってこなかった、ボス自体に無敵判定がある攻撃だ。


「らぁ!」


 真空波を飛ばすも、避けられてしまう。


 なるべく接近戦は回避したいドラゴだったが、魔法も真空波も避けるこのボスには近接攻撃で挑むほかない。


「ドラララララ!」


 ボスのひっかきと尻尾による連撃をファルシオンで弾き、合間に一撃を叩き込む。流石にレベル差があるだけに一発で大きく削れるが、一太刀で撃破とはいかなくなっていた。


「ドラぁ……」


 明らかにこのステージから難易度が跳ね上がっている。そうドランは感じざるをえなかった。


「シャア!!」


 毒液をまき散らすボスの攻撃を背中の唯花にかからないように避けながら接近。心配かけたくないので出来ればノーダメージで倒したかったドラゴだが、仕方なしに一撃喰らいながらも渾身の一撃をボスへと叩き込んだ。


「ギュアアア……」


 首を跳ねられたボスが血と毒液をまき散らしながら消失。


【Ruined Soul Hunted】

 

 というメッセージが二人に前に表示された。明らかにボスの死亡演出が今までとは違う。


「ドララぁ……」


 深く息を吐きながら、ドラゴはようやく唯花を背中から下ろしたのだった。


「あれ? なんか戦ってたけどボスだったの?」

「ドラ」

「すごい! もう倒したんだ! これでストーリーおしまいかな!?」

「ドラ!」


 村の中央広場の奥は例によってちょっとした拠点になっていた。しかし雰囲気が悪いせいか、他のステージ間拠点と違いプレイヤーの数は少ない。


 奥には、巨大な城が見えており威圧感を放っている。


 その拠点の奥。毎回ある対戦スペースで数人の子供が騒いでいた。


「やばいって! 絶対やばい!」

「うんえーに報告した方が良いよ!」

「お、俺は何もしてねえもん!」


 そこへ恐る恐る近付く唯花とドラゴ。


「あ、唯花!」


 その中の1人は、由羽だった。唯花に気付き、手を振っている。


「由羽ちゃん、どうしたの?」

「あのね、璃梨華と健人がね、ネットで見付けたバグ技使ったらあの城に入れるっていうから、試したらしいの」

「そしたら、本当に消えちゃった! チャットにも反応ないの! オンラインにいるはずなのに、どこにもいなくて」

「い、悪戯じゃないかな?」


 唯花がそう言うも、由羽達は首を振って否定した。


「最初はね、成功した! ってチャットが来たんだけど、さっき“助けて”ってチャットが来たきり、返信がなくて……」

「……大丈夫かな?」

「わかんない……あのね……ユウがね、言っちゃったの。唯花は絶対璃梨華や健人より強いって。それで、唯花との対戦動画を見せたら……意地になって、ならもっと強いペット捕まえてくるって……お城に行っちゃった」


 由羽が泣きそうになりながらそう説明した。


「俺が……やり方教えたばっかりに……」

「……教えて」


 そう唯花が一歩前に出て、言った。


「ドララ!?」


 慌てて止めようとするドラゴだったが、唯花が決意の表情を浮かべているのを見て差し出そうとした手を引っ込ませた。


「……助けにいくの?」

「無理だよ……」

「大丈夫。ドラちゃんは強いから」

「ドラ!」

「そっか……」


 こうして少年からやり方を教わった唯花が、それを実行するべく先ほどのステージへと戻った。


「えっと、朽ちた教会の中の棺桶に入って十秒後にこんこんとノックされるから、ノックを仕返す……だっけ」

「ドラ!」


 ドラゴが屈んで背中に唯花を乗せようとするが、彼女は首を横に振ってそれを拒否した。


「このステージが怖いところだから……怖がりな私に見えないようにしてくれてんだよねドラちゃん。実は、ちょっとだけ見えてんだ。骨になった鳥とか、腐った犬とか、あの蛇みたいなボスとか」

「ドラぁ……」

「でもね、怖くなかったよ。ドラちゃんが一緒だから。だから大丈夫。あのお城はもっと怖そうだけど……私はちゃんと自分で歩くよ! それで璃梨華ちゃん達を助ける!」

「……ドラ……どらっ!」


 任せとけとばかりに胸を叩くドラゴを見て、微笑みを浮かべる唯花。

 そこにはいじめられて卑屈になっていた少女の姿は、もうない。


「さあいこう!」


☆☆☆



【僕】致命的バグで俺氏、なぜかティアもん内の女児のペットになった件 5ドラ目【ドラちゃん】


557:名前:ドラちゃん

みんな……この中にティアもん始めた奴でルエンザまで辿り着いた奴いたら、手伝ってくれ……


558:名前:名無しさん

おおん?どうした?


559:名前:ドラちゃん

いじめっ子の主犯二人がバグ技使って未実装ステージに入ったっきり帰ってこないらしい。多分、ログアウト出来ない状況に陥っているのだと思う


560:名前:名無しさん

ざまあwwww


561:名前:ドラちゃん

俺もそう思ったさ。良い気味だと

だけどな、ゆいかちゃんがさ……こう言ったんだ。助けるって

んで、バグ技のやり方聞いてさ。怖がりのくせにルエンザも怖くないから大丈夫って言い張ってさ、泣きそうになりながら進むんだよ

俺はさ、ずっとゆいかちゃんをサポートしてたけどよ……ちゃんと彼女は彼女なりに成長してたんだ。だから彼女が助けたいと言うなら、助けてやりたい。広いステージで俺だけだと探すのに時間掛かるかもしれない。運営にはそっこうでメールしたが、どうせスルーだ。


だから頼む、バグ技で危険なのは承知だ。

どうか……手伝ってくれないか


562:名前:名無しさん

……ちっ、さっさとやり方教えろ


563:名前:名無しさん

調べてきた。このステージらしき場所にバグで行った奴の情報も集めてきたぞ

かなり広大なステージな上、トラップ、罠も鬼畜っぽいな。

多分、lv30でもかなりキツそうだ

まあ俺レベルのプレイヤーなると余裕だがな


564:名前:名無しさん

ゆいかちゃんの為ならいくらでもやってやんよ


565:名前:名無しさん

すぐにいくわ


566:名前:名無しさん

丁度近くだわ。まっとけよドラちゃん


567:名前:ドラちゃん

みんな……サンクス……やり方は今から書く



☆☆☆


「きゃあ!」

「ドラっ!」


 【崩れし聖王の城デュロスメア】と呼ばれるそのステージは、まさに鬼畜と呼んで相応しいステージだった。


 高火力の敵に、一撃喰らうだけで死ぬ罠の数々。悪意ある敵や罠の配置。

 唯花達はまだ気付いていないが、このステージはバグっているせいで死ぬたびに、リスポーンつまり復活地点が本来は拠点のはずが、なぜかこのステージ内のどこかにランダムで設定されてしまう。


 そのせいで一度死ぬと、敵配置のど真ん中にリスポーン→死→罠の上→死、と疑似リスポン狩りを食らってしまうのだ。しかも、入口付近よりも更に敵や罠の配置が苛烈になる奥にリスポーンしやすい仕様。


 またステージ自体も、血の池や、串刺しになった死体、四肢がバラバラになった動物や人間のオブジェクトが各所に散らばっており、拷問器具が破壊不可能オブジェクトとなって意志を持って叫びながら走り回っている。


 大人ですら、トラウマになる悪夢のようなステージ。


 それがこの未実装ステージ、【崩れし聖王の城デュロスメア】だった。


「泣かないもん!」


 気丈に涙目になりながら進む唯花と、それを守るドラゴ。


「グリャアアア!!」


 人と豚が混じった化物が巨大な肉切り包丁で襲ってくるのを見て、ドラゴが魔法で先制。ひるんだところへ飛び込み、その豚頭へとファルシオンを叩き付けた。


 これまでのモンスターになかった血の吹き出るエフェクトで、血を浴びて真っ赤に染まるドラゴ。しかしそんな事は気にせずに現れる敵を駆逐していく。


 無理やりくっつけたかのような不自然な足を動かして走る断頭台を蹴飛ばし、二人が進んでいく。


 二人が廊下を抜けて扉を抜けると大きな部屋に出た。部屋の真ん中に深い穴が開いていて細い橋がそこにかかっている。


 奥に進むには、そこを通るしかないようだ。


「ドラ!」


 ドラゴが指差す先。その細い橋の向こうで二人の子供が言い争っていた。


「あれは! 璃梨華(りりか)ちゃんと健人(けんと)君!」


 長い金髪の少女が大声を上げている。


「お前のせいで出れないじゃない!!」

「はあ!? お前だって新しいペット探すって乗り気だったろ!」


 それに短髪の少年が怒鳴り返す。


「役立たず! ペット生き返らせるアイテムも尽きたし……敵も怖いし汚いし最悪!」

「そもそもなんでログアウト出来ないんだよ! チャットも急に機能しないし! なんで誰も助けにこないんだよ!」

「知らないよそんなの! 大体なんで死んでも拠点にリスポンしないの!?」


 言い争っているところを見る限りまだ元気なようだ。


「ドラちゃん! 璃梨——むー!!」

「っ!」


 二人へと声を掛けようとした唯花の口をドラゴが手で塞ぎ、廊下からその部屋へと続く扉の陰に隠れた。


 なぜなら、前で言い争う二人の頭上や壁に無数の……蠢く影がいたからだ。


「大体お前がバグ技使ってでも勝つとか言い出すから!」

「はあ!? だいたい唯花が——ひぃ! なにこいつ!」


 天井や壁からぼとぼとと落ちてきたのは……一見すると、大きなカブトムシだった。


 だが、その顔のあるべき部分には人の顔があり、角の代わりに人の腕が生えている。よく見れば、胴体から生える足も人の腕になっている。


 悪趣味極まりない姿の人面カブトムシがカタカタと歯を鳴らしながら、璃梨華と健人に迫る。


「くそ! 怖くねえよ! ペットさえいればお前ら! なんて!」

「むりむりむり! キモい!」


 彼らの逃げ場は部屋の奥にある通路か、細い橋を渡ってドラゴ達がいる廊下へと戻るかの2つしかない。


 怯える璃梨華が、声を出した。


「健人! あっちに回復ポイントが見えた! あっちよ!」


 そう言って璃梨華が部屋から続く通路の奥を指差した。


「っ! じゃあそっちに逃げよう!」


 そう言って健人がそちらへと駆けだした。それに反応し人面カブトムシが健人を追い掛ける。


 しかし璃梨華は反対方向の——()()()()()()()()()


「早くこい璃梨華——っておい! どこ行く……うわあああああ」


 璃梨華が付いてきていないことに気付いた健人が自分へと迫る人面カブトムシの群れを見て、悲鳴を上げながら走った。通路の奥からは、同じような姿——角ではなく、人の足で出来た大きな顎が生えた人面クワガタの群れが迫っていた。


 狭い通路に、逃げ場はない。


「! 騙したな璃梨華! くそ! 嫌だ! いやだ! いや——」


 少年の声はしかし群がる虫たちによって消えた。


「ばーか! あんたが悪いのよ!」


 悪態をつきながら璃梨華が悪びれもせず細い橋を渡る。回復ポイントどころか奥から敵が来ているのが分かった璃梨華は細い橋を渡って戻る以外の選択肢はないと判断したが、誰かが囮にならないと渡れないと思ったのだ。


 だから嘘をついた。それは璃梨華にとっては、難しい事ではなかった。


「唯花のせいだ! あいつ絶対いじめていじめていじめまくってやる!」


 そう顔をしかめながら言葉を放つ璃梨華が細い橋を渡り終えた。


「璃梨華ちゃん……」


 扉から出てきた唯花が涙を浮かべながらそんな璃梨華を見つめた。

 ドラゴは、どうするべきか判断に迷っていた。


「……っ! 唯花と……チートペット! ……っ!!」


 璃梨華が一瞬安堵の表情を浮かべたが、すぐにその顔は憎しみと嫉妬を取りもどした。


「無事だったんだね!」

「……痛い……助けて……」


 細い橋のたもとで、急にうずくまった璃梨華。


「っ! 助けないと!」

「ドラ!」


 制止するドラゴを振り払って、唯花が璃梨華のそばへと駆け寄る。


「璃梨華ちゃん大丈夫!? 助けにきたよ!」

「……助けに? お前が? あたしを? ……立てないから()()()()()

「うん!」


 ドラゴが駆け寄る。

 しかし唯花が伸ばした手を璃梨華が掴む方が速かった。


「ふざけるなブス! 何が助けるだ! ()()!」

 

 璃梨華は顔を歪ませ、唾をまき散らしながら掴んだ唯花の手を思いっきり引っ張った。


「あっ」


 引っ張られた先にはあの大穴。


「お前もペットも死んじゃえ」


 吐き捨てる璃梨華の姿が遠のく。違う、()()()()()()()()()()


 唯花が気付いた時には既に穴の半ばまで落ちていた。


「っ!!」


 ドラゴが璃梨華を無視して、穴へと飛び込む。


「なんで……璃梨華ちゃん……」


 悲痛な声が穴に響く。


「ドラ!」


 ドラゴは空中で尻尾から魔法を放ち、同時に真空波を放って加速。


「ドラちゃん!」


 落ちる唯花へと追い付き、その身体を抱き締めた。


 床が迫る。


 次の瞬間に、衝撃。


「ド……ラ……」


 身体が重い分、落下ダメージが多いドラゴの視界が真っ赤に染まる。


 一気にHPが減ると掛かる状態異常、【気絶】がドラゴを襲い——彼の意識が途絶えた。


「ばーか! しね! しね!」


 穴の縁で罵倒し続ける璃梨華はしかし、背後に迫る影に気付いていなかった。


「肉&%&$&%$&$&$若い&%$&%$&%$処女%$%&#$&%#$%&供物%$#%$#%43」

「……ああああああああああ!!!」


 黒いつぎはぎだらけの触手に抱擁された璃梨華が絶叫をあげながらもがく。

 しかしその動きも緩慢になり……そして動かなくなった。


 動かなくなった璃梨華の身体を抱えたその影はその場をゆっくりと去って行った。


 穴の下。


「暗い……怖い……ドラちゃん! 起きて!」


 唯花の声が暗い穴底に響く。しかしドラゴからは返事がない。


 聞こえてくるのは上から迫る、虫の羽音。


「怖い……でも……ドラちゃんを……守らないと」


 唯花がドラゴの手から離れたファルシオンを両手で持ち上げた。

 ふらつく身体で、それを構えた。


 それなりの重量のある武器なので本来少女の筋力ではとてもではないが持てない。

 しかしドラゴが元いたゲームのデータであるこの剣は装備制限の仕様が違う。

 そもそも、このゲームはプレイヤーは武装できないゲームだが——バグにまみれたこのステージでは違うようだ。


「軽い……」


 迫る羽音に唯花が決意する。見様見真似でドラゴの剣の構えを取った。


「私が……守る!」


 

★★★




「……ラちゃん! ドラちゃん!」

「……ドラ!?」


 ガバッと起き上がったドラゴが慌てて辺りを見渡した。


「えへへ……良かった……ポーションいっぱい使ったから元気になったね」

「ドラ……」


 ドラゴは、笑う唯花の姿を見て……自分が気絶している間に何が起こったか理解した。


 唯花は血で塗れており、手には同じく血で染まったドラゴのファルシオンがあった。


 見れば、暗い穴の底にはあの人面カブトムシの死体が散乱していた。


「ドラ……」

「あのね……怖かったけどね、ほんとに怖かったけどね……うわーーん!」


 剣を放り出して、唯花が泣きながら上半身だけ起こしたドラゴへと抱き付く。


 ドラゴはそれを優しく受け止めた。


「怖かった……暗いし……いっぱい来るし……でもでも私はご主人だからドラちゃんを守らないとって……だから」

「ドラ……ドラ」


 もういいとばかりにドラゴが首を横に振った。


「ドラ……」

「璃梨華ちゃんと健人君……助けないと」


 騙されて、嘘を付かれて、罵倒されて、穴に落とされて、なお唯花は璃梨華達を救おうとしていた。


「ドラァ……」


 ドラゴがゆっくりと手を離した。


 唯花がドラゴから離れた。


「ドラ!!」


 ドラゴが剣を掴み、立ち上がる。


「行こう」

「ドラ」


 穴の奥には通路が続いていた。それがどこに繋がるか分からないけど——二人には前に進むという選択肢以外なかった。


 そこからは更に悪意ある罠と敵が二人を襲った。

 しかしそれ以上に、ドラゴの苛烈な攻撃と動きがそれらを粉砕していった。


 既に恐怖を乗り越えた唯花もただ足を引っ張らないように一生懸命それに付いていく。


 血の匂いと腐臭漂う城を駆け抜けた二人の前に巨大な扉が迫っていた。

 明らかにボスが奥にいそうな気配だ。


「ドラ」

「うん。もしかしたらボスを倒したら、璃梨華ちゃんも健人君も戻れるかもしれない」

「ドラ!」


 二人は頷きあって、扉を押し開けた。

 

 ギギギギ……と軋んだ音を響かせ、扉が開く。


 そこは……巨大な礼拝堂だった。


「ドラちゃん……あれ」


 礼拝堂の奥。祭壇に巨大な何かが座っている。


「ドラ」


 ファルシオンを構え、バフをかけ直すドラゴ。

 ゆっくりとその影が祭壇から離れこちらへと向かってきた。


「っ! 璃梨華ちゃん! 健人君!」


 唯花の悲鳴の似た声を上げ、口を手で押さえた。


 その影は……大枠で言えば巨大な人間だった。


 しかし頭はなく、代わりに首には十字架が逆に刺さっている。その十字架には璃梨華が(はりつけ)にされていた。

 つぎはぎだらけの胴体のへその部分には人間が埋め込まれており、よく見ればそれは健人だった。


 両肩からは腕と足が束になったような触手が生えており、その先に血で錆びた巨大な斧を掴んでいる。

 足も同じように触手でできており、うねうねとうねっている。


 あまりにグロテスクで……悪意あるそのボスの名は——【崩れしアルヴァlv????】


「ドラちゃん……私はもう何もできないけど……あの二人を助けて」

「……ドラぁ!」


 返事と共にドラゴが駆けだした。


「%&$&%$&%$&%$6!!」


 聞き取れないノイズのような声を喚き散らしながら、アルヴァが斧を薙ぎ払った。

 地面を削り、悲鳴に似た音をかき鳴らしながら迫るその刃を、ドラゴが剣で弾く。


 大きくノックバックするドラゴ。尋常ではない膂力で振るわれたその一撃の勢いを殺し切れなかったせいだ。


 更に追撃するアルヴァの一撃を今度は受けずにローリングして躱す。肉薄したドラゴが回転するように剣を振り、同時に尻尾で火属性魔法【ブラストバーン】を発動。


 爆炎を纏った斬撃でアルヴァの触手が燃え上がる


「&%&’%’HJHHJGHJG'&%'&%'%&!!」


 まるで、子供のようにじたんだを踏むアルヴァの攻撃をドラゴは咄嗟に剣を振り上げて防御する。


「ドラちゃん!」 


 衝撃で吹き飛ばされるドラゴ。しかし空中で回転し、着地。同時に追撃する為にアルヴァが伸ばした鞭のような触手を躱す。


「ドラァ……」


 魔法と組み合わせたドラゴの攻撃ですら、アルヴァのHPは1ミリ程度しか削れていない。

 なのに、こちらはバフを重ねがけして、防御したのに関わらず、3割近くHPゲージが持っていかれた。


 lv120のドラゴをもってしても、このボスはかなりの難敵だった。

 元々、受けて返すという戦闘スタイルのドラゴと、防御貫通を持つこのボスは相性が悪かった。


「ドラ……」


 ワンミスが死に繋がりかねない、ヒリヒリ感。

 ドラゴは戦いながらも、この死闘感が嫌いではなかった。

 

 何か攻略法があるはずと色々試すも、火属性魔法しか撃てないドラゴの攻撃パターンはさほどない。


 だが、諦めるわけにはいかない。


「ドラちゃん頑張れ!」


 唯花の言葉が背中を押してくれる。


 ドラゴが、駆け出す。基本的にタンク職であるドラゴでこれ以上火力を出すのは難しい——が方法がないではない。

 しかしそれは、ソロプレイではほとんど使えない為、ドラゴにとってはないのと同義だった。


 地道に削るしかない。そう思い、再びアルヴァへと接近する。


 斧を掲げるアルヴァ。まだ見たことないモーションに最大の警戒をするドラゴ。


 アルヴァに取り込まれた健人と璃梨華が口を開き——叫んだ。


「だずげでええええええええええええ!!」


 大音量で響くその声が衝撃波となってドラゴを襲う。


「ド……ラ……」


 ドラゴの動きが止まる。


 アルヴァの特殊行動【バインドボイス】による拘束。


 アルヴァが掲げた斧を勢いよくドラゴへと——振り下ろす。

 当たれば間違いなく致命傷になり得る一撃。


 ここで死ねば……戻ってこれないかもしれない。


「ドラちゃん! お願い! 誰か!」


 唯花の祈るような言葉に——()()()()()()


「待たせたなドラちゃん!」

「いけマグドッグ!」

「ショトカ開けたからみんなもうすぐ来るぜ!」


 突然複数の声が聞こえたかと思うと、火球と雷撃と氷の弾丸がアルヴァへと殺到する。


「&%$&$&54!!」


 悶えるアルヴァの斧が狙いがずれて、ドラゴの真横の床を打ち砕く。

 その衝撃で拘束が外れたドラゴが転がりながらバックステップ。


 着地したドラゴの横に、犬やら鳥やら数体のモンスターが並ぶ。


「唯花!」

「由羽ちゃん!」

「ユウも来ちゃった。なんかね、凄く強い人達がいっぱい来ててね!」

「うそ……なんで……?」

「分かんないけど……あいつ倒して璃梨華達を助けよう!」

「うん!」


 唯花の隣に由羽や、それ以外にも少年少女が並ぶ。


「やあゆいかちゃん! いやあ生? ゆいかちゃん可愛いねえ」

「ロリコン黙ってろ。それよりあいつ倒すぞ。つうか全然削れてねえ」

「攻略法があるはずだ。とりあえず全属性使って反応みよう。ドラちゃんのサポしようぜ」

「おk」


 そこからは、集団戦だった。


 ドラゴが接近戦で挑み、他のモンスターが遠距離攻撃で援護。

 どうやら属性攻撃を食らうとアルヴァの動きが鈍る事を知ったプレイヤー達が交互にペットに攻撃を指示している。


 それでもアルヴァのHPはようやく半分を切ったところだ。


 一度回復する為に下がってきたドラゴに、


「ドラちゃんさんよー。あんた竜戦士ビルドだろ? だったらアレ使えよ。時間稼ぎは俺らでしてやる」


 女装して化粧を施した美少年がそう言いながら、ドラゴの横に並んだ。


「ドラぁ! ドララ!」

「何言ってるかわかんないが任せろ。おいお前ら、時間を稼ぐぞ!」

「よっしゃあ!」

「てめえが仕切るんじゃねえよ! しゃねえ、いけ、ライスター! 1000万ボルトだ!」


 プレイヤー達がペットと共に飛び出していく。


「ドラちゃん?」


 それを見たドラゴが剣を収めた。

 訝しむ唯花に力強く頷いたドラゴが、両手を首へと向けた。


 そして、ドラゴの首の真ん中辺り……一つだけ逆向きに生えている鱗を——自ら毟り取った。


「ギュアアアア!!!!!」

「ドラちゃん!?」


 赤いオーラがドラゴを纏りつき、そしてバチバチと稲妻が走る。


「うおおお何あれ!?」

「【ドラゴン・ウォーリア】の種族スキル。発動がくそほど遅いのと、使い終わったあとの反動が強すぎてめちゃくちゃ使い辛いが——その瞬間だけは()()()()()()


 ドラゴの身体が膨れ上がる。


 背中が盛り上がり、羽が生えていく。腕も足も太く長くなり、尻尾も伸びていく。


「……ドラァァァァァァァ!!」


 その姿は——赤い竜だ。

 

 四足で床を踏みしめ、巨大な羽を広げた。


「すごい……」

「【神祖開放——“逆鱗”】……はは、久し振りにみたぜ。さあドラちゃん——蹂躙してこい」


 ドラゴの長い尻尾が唯花の周囲を囲む。


「え?」


 その状態でドラゴは羽を使い飛翔。


 風で唯花が吹き飛ばされないように尻尾で遮ったのだ。


 そのままその礼拝堂の天井まで飛翔すると——そのまま翼を畳み、急降下。


「ドラアアア!!」


 アルヴァへと体当たりをかまし、もつれ合いながら2体が礼拝堂の奥へと吹き飛ぶ。


「うひゃああ派手だなあ」

「援護するぞ!」

「おうよ!」


 倒れたアルヴァを足でドラゴは押さえつけると、口からまるでビームのようなブレスを直撃させる。


「&%’&%’&%!!」

「ドラ……ドラドラドラドラ!!」


 斧を払い、ドラゴの巨体を吹き飛ばし立ち上がったアルヴァに向かってドラゴが両前脚の燃える爪でラッシュをかける。


 ときおり飛んでくる援護攻撃で攻撃をキャンセルさせられたアルヴァがまともにその連撃を喰らう。


「あとちょっと! ドラちゃん!」

「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ! ドラァ!!」


 最後に器用に翼を使って宙返りしながら尻尾でサマーソルトを叩きこみ、アルヴァの巨体が巨体が浮き上がった。


「ドラッ!!」


 ドラゴが浮いたアルヴァにむけて口から巨大な火球を放った。


「&%’&%&$%6!!」


 火球命中し、爆発が起きる。


 アルヴァの巨体が燃えながら、床へと叩き付けられ、


「……%$%……%&……$」


 断末魔を上げながら……消滅。


【Pale King Slaughtered】


 というメッセージが唯花達の前に表示された。


「よっしゃああああああ!!!」

「ドラちゃんは!? 璃梨華ちゃん達は!?」


 集まったプレイヤー達が喜ぶ中、ボスが消滅した位置へと駆け寄る唯花と由羽。


 そこには、元の姿に戻って倒れているドラゴと、その小脇に抱えられた璃梨華と健人の姿があった。


「ドラ……ラ」


 ドラゴが力なく、親指を唯花に向かって立てた。


「ドラちゃん!」

「あー、スキルの反動だな。強制的にしばらく動けなくなるんだよ。ほっとけばすぐに動けるようになる」

「そっか……あれでも……」


 唯花の涙でにじむ視界の中、ドラゴの足の先がポリゴン化し消滅していっているのが見えた。


「待ってドラちゃんなんで消えてるの!? 消えないで! まだ私何も言えてないよ!」


 ドラゴが徐々に消滅していくと同時にノイズのような物が空間全体に走った。


「やべーボス倒したし更にバグったか? いや、ああやべえ! ティアもん緊急メンテに入ったぞ!」

「っ! おい拠点ワープ機能復活してるぞ! さっさとここから脱出した方が良い! このままだと俺らまで削除されるかもしれん!」

「ならパーティワープ使って、全員で出よう!」

「待って! ドラちゃんが消えちゃう!」


 ワープの魔方陣が出現する中、唯花だけが消えつつあるドラゴの側から離れなかった。


 しかし、あの女装した美少年が唯花を無理やりそこから引き離そうとする。


「多分、運営がバグ修正しているんだ! いいか、あいつはそもそも()()()()()()()()()()()()()()()!」

「なに言ってるの! ドラちゃんは私のペットだよ! 変だけど! 私のペットだもん!」


 泣きじゃくりながら唯花が訴える。


「恨むならこんな杜撰なゲームを作った運営を恨め!」


 怒鳴り返す美少年。

 それでも離れようとしない唯花の身体が、ぽんとその美少年の方へと押された。


「ド&%&%ラ……&&%&%すまんな%$&%$ゆいかちゃん&$&%$()()()()()&%$&%$……_」

「ドラちゃん!!」


 美少年は無理やり唯花を抱きかかえると、ワープの魔方陣へと飛び込んだ。


 唯花を押した腕の先が消えつつあるのを見て、ドラゴはこれで良かったと安堵した。


 城が崩壊しノイズが空間を切り裂く中、ドラゴが最後に見たのは——ワープ寸前までこちらを見ていた唯花の泣き顔だった。


「……泣いてばっかだった……あの子……」


 それがドラゴの最後の言葉だった。



☆☆☆




 その後、緊急メンテナンスを行ったものの、あまりに有り得ないかつ危険なバグを排出した【ティアラペット☆もんすたーズ!】は、多量のクレームを受けて、数日後に突然サービス終了となった。ついでにその余波を受けて【メイルコアファンタジー】もサービス終了となった。


 株式会社アークは別会社に買収され……ゲーム業界から名前を消した。


 【メイルコアファンタジー】を重度にやりこんだとあるプレイヤーは、ある種の喪失感と、なぜか得た達成感で吹っ切れたのか、これまでのニート生活を改めて仕事を始めたという。


 そしてとある少女は、【ティアラペット☆もんすたーズ!】のおかげで、いじめを受けなくなったそうだ。彼女はその後ゲームをよくするようになり、特に剣と魔法を使ったRPGを好んだという。

 特に、竜のような姿の戦士が出るゲームは片っ端からやっており、とある人物を探しているとか。


 そんな二人が()()する事になるのは——また別の物語だ。


…………………………



【魂を】ブラッドロアファンタジー 54液目【捧げよ】


778:名前:ゲーマー名無し

廃城ブランデンバルクにくそ強隠しボス出るって噂ほんと?


779:名前:ゲーマー名無し

あー、追い詰めたら竜化するやつっしょ

あれ、俺も初見の時出てきたなあ

結構いい線までいったけど竜化は反則だわ

次行ったらでてこないし


780:名前:ゲーマー名無し

名前がふざけてるんだよなあそいつ


781:名前:ゲーマー名無し

あれ中身開発者だろ

明らかになんか挙動がおかしいしAIじゃない気がする


782:名前:ゲーマー名無し

>>779

そのときの詳細を教えてください

あとそのボスの名前は何でしたか?


783:名前:ゲーマー名無し

>>782

ん? ああ、えっとそいつの名前は——


というわけで、VR物の新作でした!

結構気合い入れて書いた作品です。

多分人生で一番“ドラ”という言葉を書いたと思います。ジョジョ4部レベルのドラドラさです


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ハイファン新作です! かつては敵同士だった最強の魔術師とエルフの王女が国を再建する話です! こちらもよろしくお願いします。

平和になったので用済みだと処刑された最強の軍用魔術師、敗戦国のエルフ姫に英雄召喚されたので国家再建に手を貸すことに。祖国よ邪魔するのは良いがその魔術作ったの俺なので効かないし、こっちの魔力は無限だが?



興味ある方は是非読んでみてください
― 新着の感想 ―
[良い点] ドラちゃん消滅で涙が出た。女児と廃ゲーマーという組み合わせに驚いた。 [気になる点] まさかの長編化も期待w [一言] イエスロリータノータッチ♪ですね
2020/04/27 20:43 退会済み
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