灰になる森
それは三年前の従軍の時。
遠くで大きな爆発音と巨大な火花を目にした直後、目の前の森が色を失い灰になって散っていった──。
五年続いた戦争は終わる気配もなく、軍備や食料も質が落ちて行く。
それでも我々は軍人として国の為に死ぬのだ、と上官は誇らしく言う。
私はただあの日に見た光景を忘れられずにいた。
灰になった森、雪のように溶ける森の姿が一時も頭を離れなかった。
それに最近では他にも様々な現象が発見されている。
泥のようになった川、干上がった湖。黒くなった海やひび割れた大地。
国はその原因を敵国の魔術師のせいだと言ったが私には信じられなかった。
「何も言わなくなった?」
私の問いに古い友人は静かに頷く。
それは僅かな休暇を使って故郷へ帰った時の話だ。
昔から妖精と会話が出来るという友人は家族の話に続いて私に小さな声で言った。
前のように楽しげに花の上を踊る事もなく、風に遊ぶ事もなく、
妖精はただ人形のようにこちらを睨んでいるのだと。
「大いなる魔法が……」
友人はそれだけ言うと口を閉ざした。
大いなる魔法、それは禁忌とされた古代の魔法だ。
私にも思い当たる所はあった。
三年前の従軍、あの時の巨大な火花。そして灰になる森……。
私の中で何かが繋がり、そして私は直ぐ行動に移った。
「王よ、戦争をやめて下さい。このまま続ければ国どころか人の住める場所も無くなります」
「……ふむ」
私は王への謁見を申し出て、それは何故かすんなりと許された。
思えばこの時に気付いておくべきだったのだ。
私は王とその横に居る魔術師の手前、禁忌の魔法については触れず。ただ国を思う者としての言葉を王へと送った。
王はただ分かったと言い、そして私を忠義の者と称えて会見は終わった。
だがその後すぐ、私は最前線への赴任を言い渡される──。
故郷への手紙一枚も許されず、私はそのまま戦線へと送られた。
その場所は軍人同士の戦いの場ではない、魔術師同士のそれだ。
魔術師同士は基本的に戦わない、彼らは選ばれた血統だからだ。
彼らが血を流さない代わりに我々軍人が血を流し、そしてその勝敗が決められる。
不思議と悔しさはなかった。王に裏切られたという気持ちも沸いて来なかった。
それより絶望感だ、このままではこの国や森はどうなってしまうのだろう。
田畑は、人は……。
思い悩む暇もないまま、巨大な落雷のような音と共に周囲が赤く燃え上がる。
そして私も妖精を見た、彼らは何も言わずにただ私を睨──。