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魂の行方   作者: 暇若ミライ
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第7章 喰らう者

悔しかった。何もできずにただ倒れていることが。強大な敵を前にした時、ほかの仲間はみんな立ち上がって戦っていたけど俺だけは何も出来なかった。そんな戦いのあとだったからか俺は不思議な夢を見た。

何も無い暗闇の中で俺はぼーっとしていて、目の前には大きな狼がいた。俺がその狼に触れようとしたら、狼は口を大きく開けて俺を喰った。

驚きのあまり夢から覚めて、俺は時計を見る。グリーフィングが始まる5分前だったから冷や汗を拭きつつみんなの待つ会議室へ行った。会議室のドアを開けると目の前にタイチが居て、周りのみんなはキョトンとしていた。


「なんでお前らそんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔してんだ?」

「お前が1人で起きられるとは思わなかったから…。」

「酷いなぁ、俺をなんだと思ってるんだよ。」


タイチやみんなに夢が怖くて起きたなんて言えないから俺は少し誤魔化した。まぁその後はブリーフィングをして俺たちミア、レイは、事務作業うんぬんの説明を受けることになった。ウィップはタイチ達を早々に調査に向かわせた。


「取り敢えず、みんなには会議で使う資料のコピーをまとめて貰おうかな。」

「それに一体なんの意味があるんですかニャ?」

「アラ、これも立派な社会勉強の一つよ。ハイ、ここにある資料10枚を纏めて1000部作ってもらうわ。私は他にも業務があるのでよろしく。」


ドン!と大量の紙を目の前に置かれ、ウィップは外に出ていってしまった。事務作業みたいな頭を働かせるみたいなのは俺には無理だ。考えただけで眠くなってくる。レイは黙々とやり始め、ミアもしかめっ面をし始めながら始めた。

俺もそろそろ始めるかぁ…。紙1枚1枚をとり、ホチキスで止めていく。紙が1枚、2枚、さん枚、よんまい、ご…まいと…数えていくうちに睡魔が襲って来た。するといきなり頭に衝撃が走る。ハッと目を覚まし、周りを見渡すとミアが鬼のような形相で俺を睨んでいた。


「ロウぅ?何寝てるのかニャ?」

「ね、寝てないぞ。考え事してただけだ。」

「そんな空っぽの頭で何が考えられるのか教えて欲しいニャ!」


とゲンコツが飛んできた。


「痛てぇな!何もグーで殴ることないだろ!グーで!」

「お前みたいな石頭にはそんぐらいしないと分からないニャ!」


ワーキャーワーキャー俺達が言い争いをしてると、レイがおもむろに立った。そして外に出ようとしたので、ミアが呼び止めた。


「レイ?どこに行くのニャ?」

「…トイレ。」


と言ってさっさと行ってしまった。俺達は顔を見合わせ、レイを怒らせたかなと思い静かに座り仕事を始めた。途中、何度も睡魔に襲われそうになったがミアの冷たい視線を感じる度に目が覚めた。なんやかんやで半分位終わった時、時計を見たが2時間ぐらいが経過していた。レイがいつまでたっても帰ってこない。ミアもなんだか作業する手が止まっていて、心配そうな顔をしている。


「そんなに心配ならレイを探してきたらどうだ?仕事ならやれる範囲でやっておくから。」

「え?あ、そ、そうニャ。そうさせてもらうニャ。」


余程心配だったのか声が震えている。ミアはパッと立つとドアを勢いよく開けて探しに出ていった。1人会議室に残された俺は作業の続きをし始める。しかし、レイとミアはいつごろから仲がいいんだろう。俺がANIMAに来たのは6歳だったけど、あいつらはその時から一緒だった気がする。

そんなことを考えながら作業をしていると、ドアがものすごい勢いで開いた。ミアが探しに行ってから10分後の出来事だった。ドアを開けたのはミアでものすごい泣き顔だった。


「おいどうしたんだ?大丈夫か?」

「ロウ…お願い、レイを助けてニャ…。」

「それはどういうことなんだ?」


ミアは激しかった息を落ち着かせ、深呼吸をすると声を落ち着かせ話してくれた。


「さっき研究員が廊下で話しているのを聞いてしまったんだニャ。『今回の研修生はいい実験材料な揃ってる。特に白髪の少女が。』って。」

「な、」


驚きのあまり声が上手く出なかった。実験材料?白髪の少女?どういうことなんだ?

ミアが続ける。


「白髪の少女って多分レイのことニャ!私だけじゃレイを見つけられないニャ。だからお前の力を貸してほしいニャ!」

「わ、分かった。俺はどうすればいい?」


ミアは涙をゴシゴシと拭き、こう答えた。


「ロウの嗅覚を使って探して欲しいニャ、ここにレイのハンカチがあるから…。」

「よし、分かった。」


俺は紫のハンカチを受け取り、匂いを嗅ぐ。百合のような匂いがフワッと香った。俺は廊下に出て、近い匂いがある方向へ進んだ。ミアも後ろからついてくる。だけど何で、レイがこんな所で実験材料になる?もしかしてライチの奴が言ってたことが本当だったのか…?と不安な考えが浮かぶ中、壁に突き当たった。しかし何も無い。


「レイは?」


とミアが不安そうに聞く。


「レイは多分この壁の先にいるぞ。少し下がってろ。」


壁のわずかな隙間からハンカチと同じ匂いがする。壁を破ればそこに道があるはずだ。ソウルを解放し、殴りの構えに入る。


『ウルフェンナックル!』


全身全霊を込めた拳は壁を突破った。その先には地下へ続く道があった。ミアが不思議そうな顔で覗く。


「ここは?」

「わかんねぇけど、この先にレイがいる。俺の鼻がそう言ってるからな。」


ミアはコクと頷いた。俺達は恐る恐る下へと降りていった。

中はとても静かでヒンヤリとしていた。階段を降り終えると広間に出た。すると次々に照明がつき、そこには一人の女がいた。


「あれ?おかしいわね、ここにいるなんてあなた達仕事はどうしたの?」


ウィップだった。彼女は、右手に鞭を持っていて臨戦態勢に入っていた。


「そんなことより、レイはどこにいるんだ?」

「んー、知らないわねぇ。」


しらばっくれるように目線をそらす。怒りがだんだん込み上げてきた。


「ふざけんじゃねぇ、テメェらが連れ去ったのは知ってるんだよ!」


我慢できずソウルを解放し、殴りかかった。


「ならあんた達もあの娘と一緒に実験してやるわ!」


俺の攻撃をかわし、鞭で俺の頭を打ち据えた。危うく意識が遠のきかけ、急に逃げ出したくなった。慌てて、引き下がる。


「私の一撃を受けてよく心が折れないわね。常人なら精神崩壊するっていうのに。」

「?どういうことだよ。」

「私のソウルは打神鞭。人の心を壊す鞭よ。」


通りで何もかもやめたくなった訳だ。だけどここで負けるわけには行かない。また構える。


「まだ向かってくるのね…。いいわよ、そうでなくっちゃ!」


怪しげな笑みを浮かべる。俺はまた飛びかかろうとしたが、それよりも早く”なにか”がウィップを凄い速さで切りつけた。それはミアだった。


「何今の…。」


ウィップが頬に傷を付けられていた。彼女は手を頬にやり、血がついてるのを見るなり激昂する。


「この私が傷つけられた?いけない、ものすごくいけないわ!私が傷つけるのはいい、けど私を傷つけるのはいけないのよ!」


すごい形相でミアを睨みつける。


「絶対に許さないわ!このガキ!」


鞭をミアに叩きつけるが、持ち前の速さで避ける。避けながらミアが言う、


「ロウ!今のうちにそこの階段から降りて、レイを助けに行ってニャ!」

「なんでそんなこと分かるんだよ!」

「いいから!早く行って!」


俺はミアの言葉に気圧され、来た方向とは反対の階段を降りていく。後ろからは激しい打ち合いの音が聞こえる。まさか本当にANIMAの研究所が俺たちを実験台にしようとしてるなんて…そう考えながら研究室のような場所に辿り着いた。周りにはガラス張りのカプセルがたくさんあって、中に液体のような何かが入っていた。


「オヤ、お客さんデスカ。珍しいデスネ。」


この奇妙なしゃべり方には、聞き覚えがある。声のするほうをよく見るとピークが居て隣には拘束されたレイが眠っていた。


「うるせぇ、さっさとレイを返しやがれ。」

「オヤオヤ、口調が穏やかじゃないネ。それにレイちゃんを返すことは出来ないヨ。」

「なら力づくで取り返すまでだ!」


殴りかかるが手応えはなく、ピークは別の場所に居た。


「コレだからおバカさんは…。力任せにボクを殴ろうとしても無駄ダヨ。ボクのソウルは幻影、ありとあらゆる幻影を作ることが出来る。ランクEXのソウルサ。」

「ランクEX…!」


規格外のランクを持つソウル…。俺じゃ到底太刀打ちできない。だけど…!


「俺がここで諦めるわけにはいかないんだよ!」

「威勢がイイネ、そんな君にはいい夢を見てもらうヨ。」


奴がそう言い手を俺の前にかざすと目の前が真っ暗になった。そしてぼんやりと光が浮かび上がり、そこに映っていたのは昔の俺だった。

雪が降りしきる中、親に捨てられた子供達だけで協力して生きてきた。大人から奪い、子供達で分け合う。酷い時は何も奪えなかった日だってあった。そんなギリギリな日々だったけどなんとか楽しく過ごしていた。

だけど、俺がソウルに目覚めたあの日から全てが変わった。力に振り回され、仲間を傷つけた。その時からみんなが離れていった。俺はその後独り、力だけで生きてきた。奪うのに困らなくなったが寂しかった。1人は嫌だ、こんなことになるのなら力なんていらない……あの日を、あの時を、返してくれ……。


「お前は、力が欲しいんじゃなかったのか?」


誰かの声が聞こえる。もう力なんて要らない…何かを傷つけるだけだから。


「仲間を守るんじゃないのか?」


俺なんかが守れるわけがない…所詮ランクCの雑魚だから。


「それは違う。お前にはもっと強大な力がある。」


俺に?そんな馬鹿な、もし仮に強大な力があったとしてもまた振り回されて仲間を傷つけるだけだ。


「そうならないように、喰らい尽くせ。お前の中にある力を自分のモノにするんだ。」


無理だ。そもそもそんなことどうやって…


「できるさ、お前の本当のソウルは、フェンリルなのだから。さぁ目の前にある光を喰らい尽くせ」


声の言われるがままにやってみる。喰って、喰って、喰らいまくった。


「そうだ、それでいい、あとはこの幻影を喰らい尽くして仲間を助けに行け。」


お前は誰だ?


「俺はお前の中にあるソウルだ。だからいつでもお前と共にある…」


その後には声はもうしなくなった。


俺は暗闇を喰らう、ひたすらに喰らったそして光が目の前に広がり、ピークが目の前にいた。


「ど、どういうことデス?ボクの幻影を破った?」

「少し違うが、もうお前の技は通用しねぇと思うぞ。」


俺は手を構え、拳に狼のオーラを纏い殴り掛かる。ピークは幻影を出し、眩まそうとしたが俺の拳で殴る。


『フェンリルストライク!』


すると幻影はたちまち俺の手に吸い込まれ、いや喰われる。そして俺に力が漲る。


「ボクの幻影が喰われた!?」

「あぁついでに俺のソウルに変えた。」

「ヒイィ、そんなモノに勝てるわけがないヨ。」


と言ってピークは俺が入ってきた階段から逃げ出そうとしたが、そんなことはさせない。全力で走って先回りをし、拳を目の前に突きつけた。


「悪いがここから先は通さない。俺に喰われろ。」


そのまま拳から狼のオーラを出すと、ピークはそのまま気絶してしまった。


「まぁ、お前には聞きたいことが山ほどあるから殺しはしないけどな。」


ピークを拘束して、レイを助けた。レイは眠っていたが、声をかけるとすぐに起きた。


「ここどこ…?私…なんでこんな所に。」

「ピークの実験道具にされそうになってたんだよ。」


事情を教えると、そう……とレイは悲しそうな顔をした。そしてレイはハッと何かを思い出し俺に聞いた。


「そういえば…ミアは…!?」

「あっヤベ、あいつも上で戦ってたんだった!」


その言葉を聞くとすぐにレイは駆け出し、階段を駆け上っていった。俺もすぐにピークを担いでついていく。上がっていったその先にはミアが倒れていてそれをレイが介抱していた。そして奥の方でウィップが倒れていた。


「ミア…目を覚まして…、死んじゃ嫌…。」


泣きながらレイがミアの顔を撫でる。するとミアが目を覚ました。


「あれ、レイ?良かった無事だったんだ…。私は少し疲れたから寝るニャ…。」


と言ってすぐに寝てしまった。俺はレイの隣に座った。


「しかしまぁ、レイが無事で良かったわ。」

「全然…良くなんかない…。」


予想外の返答に驚いた。


「なんでだよ?」

「私なんか…生きてちゃいけないから…実験にでも使われて…死んじゃえば良かったんだ…。それならミアも…こんなに傷付かなかった…。」


突然、俺の中の何かがプツンと切れた。


「生きてちゃいけない?死ねばよかった?ふざけんなよ!お前のことずっと心配してたミアの前でそんなこと言うんじゃねぇぞ。」

「でも…、私といると周りの人を不幸にする…。昔だって…今だって…。」

「昔?」

「そう…私が生まれた時ソウルの力が発動して…みんな死んだの…。」

「──!!」


驚きのあまり声が出ない。レイは俺の顔を見て


「どう?私がいないほうがいいと思ったでしょ…?」


と悲しげに微笑んだ。


「いや、俺はお前にいて欲しい。」


そう思った。例えどんな恐ろしいソウルでも、本人が居たくないと思っていても俺は仲間としてそばに居て欲しい。


「俺のためにそばにいてくれないか?もし、力が抑えきれそうに無かったら俺、に言え。そん時は俺が全部喰らい尽くしてやる。だからもう死ねばよかったとか言うな。」


俺が思ったことを言うとレイは顔を真っ赤にして外へ出ていってしまった。


「どうしたんだ?あいつ。」

「お前も罪な男だニャ…。」


と下の方から声が聞こえた。ミアが寝っ転がりながら困り顔でいた。


「俺が罪?そんなことよりケガ大丈夫なのかよ。」

「レイのソウルのおかげでご覧の通り元気100倍ニャ。」


ピョンっとミアが起き上がり、肩をブンブン振り回してからこう言った。


「取り敢えずそのキノコ頭を抱えて、ここの支部を落としてANIMAに連絡を取ってみるニャ。」

「そうだな、タイチ達のことも心配だし連絡を取らないと。」


そう決めた俺たちは、ピークを担いで上へ上がろうとするとピークが急に言葉を発した。


「ククク、タイチさん達は今頃怪物になるか死んでいますヨ。」


俺はピークの胸ぐらをつかみ問いただした。


「どういうことだ!?」

「彼らが行ったのはジエンドの実験島ですからネ。」


ジエンド、ホルダーの成れの果てって奴か。俺は我慢できずにピークを投げ出し、上へ駆け上がっていった。後ろからミアの声がする


「ちょ、どこ行くニャ?」

「決まってんだろ、俺はタイチ達を助けに行く!お前らはANIMAとの連絡をとってくれ!」


ミアがその後もワーキャー言っていたが今は一刻も争う、俺は先を急いだ。階段を登りきるとレイが地べたに座り込んでいた。


「どこに…行くの…?」

「今からタイチを助けに行ってくる。お前はミアとここを頼む。」

「あ…うん…。」


少し物寂しげにレイは返した。レイを後にして俺はタイチ達が行った島へ向かった。


テストが無事に終わりました。

最近ずっとポケモンしかしてません。

推しポケはマホイップですかね。

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