第4章 魅せる天使
俺はロウと共にいつもの教室へ着き、いつもの席へそれぞれ着く。通い始めて1週間経てば慣れたものだ犬コロを起こすのも。ただ、今日は予定を確認してこなかったので隣にいるエルに聞く
「エル、今日はなんか特別なことあったか?」
「今日は確か、市街地の訓練場でチームワークの戦闘訓練らしいわ。」
ハァ…とため息をつきながらだるそうに彼女は言った。
「どうした?」
「あれよ。」
と黒板を指さす。そこにはチームメンバーが書かれていて俺は成績トップのレイ、最下位のミアと同じチーム。そしてエルはロウ、マイと同じチームだった。マイってのは確かゴスロリ的な服を着た見た目小6の子だったか、年齢は分からない。
「どこが悪いんだ?成績も2人ともそれほど悪くないだろ。」
「マイはいいのよ。問題はケダモノの方、なんであんなのが私と同じチームなのよ。」
「ケダモノって…。そういえばお前始業初日にロウのこと睨んでたよな、仲悪いのか?」
「良くはないってことだけは言っておくわ、これ以上奴のことを話してると朝ごはんが出てきちゃいそう。」
相当だなこれはと思いつつチームメンバーを見直す。レイは謎能力持ってる上に話をしてるところをあまり見たことない、チームワークが出来るのかと疑問に思う。ミアは、レイといつも一緒にいるのをよく見かけるが、社交的な性格で話しやすいという印象だ。語尾の『ニャ』は意味わからんがソウルの影響か?まぁ、ミアを通せばある程度のコミュニケーションはレイと取れるだろう。そんなことを考えていたら既に集合時間の5分前になっていた。チームメンバーの2人は既に教室からいなくなっており、授業の予習をしていたエルも、後ろでダラダラしていたロウも既にいなくなっていた。集合場所への移動手段は例によってゲートだったので遅刻はせずに済みそうだ。市街地?そんな馬鹿な、目の前にあるのは廃れた荒野だ。振り返ると通ってきたゲートが無かった。そしてなぜか別のチームにいたはずのエルとロウがいて、同じチームの二人がいた。
俺は訳が分からず先に着いていたエルに尋ねる。
「エル、ココがどこかわかるか?」
「分からないわよ。多分ゲートの方に不具合があって別のところに飛ばされたのかも。でも、ゲートがない所に転送されるのは少し妙だわ。」
「そう、君たちはここに強制的に転送されたんや。しかもここはANIMAの空間じゃない。」
と聞き覚えのない声が話に割り込んできて、振り返ると見たことのない糸目の青年が立っていた。
「どうも、解放軍のライチというもんです。」
そういい彼はお辞儀をし、怪しい笑顔で話を続けた。
「あなた達をスカウトしたくてね、ゲートの方に細工をさせてもらいましたわ。」
「スカウト?なんだそれは。」
疑問に思い聞き返す。
「えぇ、ANIMAいう監獄からあなた達を解放しよう話です。あそこはホルダーを縛り付けて実験動物としか見てないところです。そんな所から解放させて自由にさせようっちゅう話です。」
「ANIMAが?そんな訳ないだろ。あそこは行くあてのないホルダー達を引き取って面倒見てくれるところだ。あそこの人達は皆優しいし、環境だって充実してる!悪く言うなら俺が許さねぇぞ!」
ロウが牙を向く。そんなロウを気にも留めず、
「まぁまぁそんなカッカせず。ワイらが解放したらあとは自由ですから自分の力を思う存分下界で振るうのも良し、このまま解放軍に属して仲間の解放の手助けをするのも良しですよ。」
一つのワードが引っかかり、すかさず聞く。
「お前らが解放した中に、カラスのホルダーはいたか?そいつは政府の目を逃れ生きていたようだった。」
「ワイの記憶にはないですけど、今の時代政府の目から逃れるのは容易じゃないから…多分解放軍の仲間が解放したんやないすかねぇ…。」
「そうか…。例えば解放したホルダーがもし人を殺していたらどう責任を取る?」
「責任なんかとりませんよそのホルダーが自分の力を奮っただけや、死ぬのは弱い人間、ワイらホルダーには関係ありませんからなぁ!」
と笑いながら答えた。怒りで拳が震える。ロウとエルに視線を送る。他の2人は知らないが俺たちの答えは決まっていた。
「人の命を奪う奴を助長させるテロリスト集団に入るつもりは無い。他を当たれ。」
ライチは笑顔をやめて真顔になり
「まぁええですわ。あんたらがこっちの言うことに賛成できないなら、こっちの脅威になる前に殺させてもらいます。むしろこっちの方がやりやすくて助かるわぁ。敬語とか苦手やし。」
と笑いながら言った。そして腰に帯刀していた鞘から刀を抜き出し、俺、ロウそしてエルの3人を刀で指し
「取り敢えず反抗の眼差しを向けてくれてる。そこの3人からやっちまいますか。」
と言った。咄嗟にエルは銃を構え、ロウは狼人に姿を変え、俺は手刀に風を纏わせ『鎌以太刀』を装備した。次の瞬間ロウはライチに向かって飛びかかった。しかし突如ロウの真上に雷雲が出現し、雷がロウの体を突き抜けロウはその場に倒れた。エルは銃を連射し、俺は何度も『鎌以太刀』を飛ばしたが全て見切られ避けるか刀に弾かれた。
「お前らそんなもんか?そしてあんたらはかかってこんのか?ワイらの仲間になるってことなんか?」
質問攻めされていたがレイが口を開き、
「人の命を粗末に扱う人の仲間にはなれない…。それにあんたなんか私の敵じゃない…。」
フードをとり、顔をあらわにした。綺麗な白い髪に紅い眼だった。というかミア以外の人と喋ったのが以外だった。
「私もレイと同じであんたの仲間になるのは反対ニャ!」
「そういう事だから…あなたには少しの間眠ってもらってガーディアンに引き取ってもらう…。」
と言うと目が紅く光った。だが、ライチの手から閃光が放たれレイは悲鳴をあげ目を抑えた。
「残念やったな、お嬢さんあんたらの能力は全部把握済みや。お前さんのソウルは確かサリエルやな、人を殺す眼を持つ。まだ完全に目覚めて無いようやが手は打たせてもらうで。」
なるほど、ロウが試合の時に急に倒れたのは、レイが邪視を持っていたからか。と感心している場合じゃなかった。
「ほな、まずは危険因子のお前さんから殺させてもらいます。」
と笑顔で刀を振り上げ突き刺そうとする。だがそのとき
「レイに手を出すニャ!!」
とミアが猫の耳としっぽを出し爪を立てて、ライチにとびかかった。しかしまたも雷が降りミアは弾かれた。
「無駄やって…ワイのソウルはランクAのラミエルや。ランクC如きの雑魚が敵うわけないやろ。まぁ、そこに二人ワイより格上のホルダーがおるんやが、対策さえしてれば怖くないわな。」
そうライチが言った直後、銃声が鳴った。微かにライチの肩が動いたが何事もなかったように笑顔で刀を地面に突き刺しエルのほうを向く
「効かんなぁ、お前さんはたしかに俺よりか強いがお前さんは水でワイは雷、ワイのほうが有利なんや。」
肩を払いながら言った。その間にもエルが銃で撃つが効果はない。
「とは言ってもそろそろやかましいな、みんな仲良く死ねや。」
ライチの頭上に山一つあるほどの雷雲が出現する。その瞬間俺の脳内に10年前の大災害の記憶が蘇る。あの時も雷雲が…もしかして、こいつが大災害を起こした奴なのか?
「待て!」
「なんや、急に。こっちに来る気になったか?」
「いや違う。お前にその雷雲について聞きたい事がひとつある。10年前の大災害、あれはお前が起こしたものなのか。」
「あぁ、アレなぁ。口止めされてるが冥土の土産に教えたるわ。あれは、ウチのボスが引き起こしたもん、あそこから解放軍は始まったんや。」
怒りがこみ上げてくる。あんな災害を起こしておいてホルダーの味方?力の使い方を明らかに間違っている。全身に風を纏い突っ込んで行くが雷に身体を撃ち抜かれ、意識は残ったが体が動かない。と苦しんでいると、白い暖かい光が地面に広がっていくレイの方から光が届き、みるみる身体が回復していく。
「残念だった…。私のソウルは確かに邪視の力が強い…。ただ、他にも癒す者としての力もある…。」
レイが眼を抑えながら立ち上がる。さっき攻撃を食らったロウとミアも立ち上がっていた。
「あーなるほど?つまりお前さんに邪視を使われてワイはジ・エンドってことか?」
「いいえ…眼の方のダメージは強すぎて治癒には時間がかかる。」
エルは悔しそうに目を抑える。
「その代わりここにいるホルダー達の麻痺を取り除いた…。今度は雷の対策をして全員で挑む…。」
「ほぅ?どうやって?」
「まず、エル…純水は電気を…」
「あっ、そうね。通さないから…分かった。」
なにか閃いたようにエルは手の平を叩き、水を精製してライチに向かって放った。
『ホーリー・カノン!』
「さぁ、あなたはこれで放電できなくなったわ。」
とエルが得意げに言ったが、
「なるほどぉ。よう考えたな、だがな俺にはまだ雷雲の操作が出来るんや!」
と言い指をくるくると回して更に大きな雲をつくりあげた。10年前の記憶が蘇り、足が竦む。
「タイチ…雲を風で…。」
「そうか、そうだな。」
そうだ。もう10年前の俺とは違う、力がある。自分にそう言い聞かせ風で雷雲を吹き飛ばした。
『神風!』
「おまえらの好きにはもうさせない。大人しく降伏しろ。」
「これで、打つ手なしか…。」
とライチは肩を落とした…と思ったがクククと笑い始め
「なんて言うと思ったか?ソウルの力だけが己の力なんて思ってるなんてまだまだやなぁ。ワイの剣技見せたるわ。」
ニヤァと笑い、地面に刺していた刀を引き抜いた。そして刀をこちらに向かって投げてきた。だが俺たちは難なくかわす。
「こんなもんがお前の剣技か!?」
ロウがライチの方を向いて言うが、そこにやつの姿はなかった。
「だから”まだまだ”なんや。」
「ロウ!後ろだ!」
言った時は既に遅くライチは既にロウの背後に回り、ロウの頭に回し蹴りを決めていた。
「剣技…じゃねぇじゃんか…。」
と言いロウはノックアウトされた。その一言には皆納得だった。
「ど阿呆。喧嘩で宣言通りに戦うやつがあるか日々の殺しで鍛えられたこの肉体こそが真の武器や!!そこのあんたらもボケェとしてねえで後ろ見てみぃ。」
振り向くとそこに空中に浮かんだライチの刀があった。
「ソレはワイのソウルで作った武器でな、念じれば自在に動くんや。せやなぁ、例えば放電させたりとかやな!」
『ディスチャージソード!』
刀が光り一気に放電した。風で空気のバリアを全員に張ろうとしたが間に合わない。ここで万事休すかと思ったその時、目の前に光の樹が生えてきて放電を防いだ。
「なんだ…これ…。」
俺たちが呆然としている中、ライチは汗をかき
「おいおい、この光の樹はまさか…。」
「そうそのまさかさ!」
皆が声のする方を向いた。そこにはミカゲやその他のANIMAの職員が数名、そしてソウル研究室の所長クロムがいた。
「来るのが遅いニャ、所長。」
「正義のヒーローは遅れてやってくるものさ!少年少女達!」
とドヤ顔で決めポーズしながら言っていた。俺達はみんな呆れていたが、どこかほっとしていた。
夏休み忙しくって執筆できませんでした。
月二を目標に投稿したい。