第3章 鎌鼬の刃
部屋にアラームの音が鳴り響く。気だるげな腕を動かしながら携帯のアラームを止める。いよいよ今日から学園生活の始まりだ。一昨日ロウに言われたことを思い出す。『自分の武器を持つ』それが俺の与えられた課題だ。昨日一日ずっと考えイメージを固め。カマイタチの力をどう使うかは見えた。あとはそれを実戦でどう使うかだ。さて、まずは学校に向かうために案内役のこの気持ちよさそうにいびきをかいているワンコを起こさなくては。
「いってー、まだヒリヒリするぜ。何も風を纏わせてビンタしなくても。」
学校へ向かう最中ロウが左頬を摩りながら言う。
「いくら大声で起こしても起きないお前が悪い。」
(とため息をつく。)こんなだらしのない奴に案内を任せて大丈夫か?と心配になる。だがそんな心配は必要なかった。周りに門のようなものがいくつかある広場に入ったところでロウが立ち止まる。
「ここからワープしていくぞ。」
「ワープ?そんなものがあるなら案内は…。」
「いや、一応いるさ。どのゲートをくぐればいいかわかんないと迷子になるからな。」
確かに周りを見回すといろんな色のゲートがあってどこに行けるか分からない。するとロウは赤い色のゲートをくぐって行き、俺もそれに続く。
その先には部屋があった。前に黒板があり、段々になっている席があった。入口は俺達が通ってきたゲートただ一つだった。クラスメイト達が座っていた。小さい子供もいれば、フードを被り大鎌を持った人もいた。生徒の人数はざっと10人ちょっとといったところか、そして前の方の席にエルがいた。
「席は自由だがどこにする?」
ロウが尋ねる。なるべく知り合いの近くがいいので
「あの青い髪の子の隣にする。」
と答えた。ロウは嫌そうな顔をして
「前の方か…俺は寝たいから後ろの方にする。」
と言って後ろに行ってしまった。あいつはどんだけ寝たいんだ…と思いながらエルに近づいていき、そしてエルの隣に座る。ノートとにらめっこしていたエルもこちらに気づき、話しかけてきた。
「あら、久しぶり…という程でもないわね。こっちの生活にも慣れた?」
「まぁまぁかな、相方とも上手くやれてるよ。」
とロウの方を見る。あいつは寝ていた。やれやれと思いながら視線をエルに戻すと彼女はロウを見ながら嫌そうな顔をしていた。
「どうした?」
と聞いてみると
「ううん、なんでもない。上手くやっているようで良かったわ。」
と慌てて視線をこちらに戻した。
「そろそろ授業が始まるわよ。」
とエルが言ったら授業開始のベルが鳴った。ゲートの方が光り、中からスーツに身を包んだ黒髪の男が現れた。左目には眼帯をしていてもう一方の目は目付きが悪い、あんなのに睨まれたらひとたまりもないと思う。眼帯の男は教卓につくなり強い口調で話し始めた。
「俺はお前らの担任のミカゲだ。ランクB+、ケルベロスのホルダーだ。今日はいきなりだが、このクラス内でペアを組んで実戦形式の組手をしてもらおうと思う。こちらで既にペアは組んである。演習場に向かうから各自必要な荷物だけ持ってゲートをくぐれ。」
教室がざわめき始めた。中にはッシャァ!と言っている奴もいた。隣を見るとエルが拳銃のようなものを手に取っていた。
「それって…」
「あぁ、これ?本物じゃないから大丈夫よ。博士に頼んで作ってもらった普通よりちょっと強い水鉄砲だから。私のソウルと一緒に使えば頭蓋骨なんて豆腐だから。」
と恐ろしいことを澄ました顔で言ってのけた。本物じゃないから大丈夫とは?と思ったが気にしないようにしよう。『自分の武器』を試す絶好の機会だからさっさと行って準備をしておこう。
ゲートをくぐるとそこには一昨日ロウと戦ったような練習場があるだけで誰もいなかった。さっき何人かがゲートを通ったと思ったが…多分それぞれ別の場所に飛ばされているのだろう。ゲートの方が光り誰かが入ってきた。その人は雪のように白い肌と透き通るような淡い青の髪、そして大きな弓を持っていた。
「あなたが私の相手ですね。私はハク・グラドです。よろしくお願いします。」
とハクは消えそうな声で言った。はっきりいって男なのか女なのかわからない。容姿も声も一人称も男とも言えるし女とも言える。何なのだろうと思いながら、
「俺は刃野タイチ、よろしく。」
と挨拶をした。すると空から
「これより実戦形式の試合を始める。勝敗はどちらかが戦闘不能になるまでとする。この試合はカメラと計器による測定を行っている。この試合後はソウルの大きさの単位ソルでクラスのランキングを製作する。それでは各自始め!」
とミカゲの声が聞こえた。いきなりすぎやしないかと思ってると背中に冷たい視線を感じた。その方向に目をやると、そこではハクが既に弓を構えていた。
「殺してしまったらすみません。」
と笑顔で矢を放った。俺は咄嗟に風を纏わせ防御する。ハクは間髪をいれず矢を放つが俺はそれを防ぎながら間合いを詰める。するとハクは矢になにかを込めて放つまた風で防御したが、貫通し肩に直撃し激しい痛みが走る。左肩を見ると凍っていた。
「やっと当たりましたね。凍らせたのは僕のソウルの力、ランクBの雪女で氷や雪を操れます。空気中にある水分を凍らせて操るのが基本ですかね。」
とご丁寧に説明してくれた。なるほどこれが奴の『武器』か…強い。だけど負けてられない。右手で手刀を作りそれに風を纏わせた。相手が氷の力を矢に込め放つ俺は強い追い風を吹かせそれに乗り相手の矢を避ける。相手の頭上まで飛び手刀から斬撃を飛ばす。だが相手も避ける。
「よく避けたな、風の攻撃なんて普通見えないぞ。」
「いえいえ、ただの勘です。当たっていたら真っ二つでした。」
と笑顔で返された。ハクは余裕だな、こっちは肩をやっちまっている。あっちは弓だから間合いを詰めなきゃやられちまう。やられるくらいなら…!と風に乗り間合いを一気に詰める。あとは体が勝手に動き、蹴り上げ、さらに拳にエネルギーを溜め相手の腹に1発当て吹き飛ばし、何故かもう一段階吹き飛んだ。俺は今何をした?間合いを詰めるまでは考えていたがあとは体が勝手に動いた。これもソウルの影響か?と考えているハクが立ち上がってきた。
「今のは何ですか、ただの2連撃じゃないですよね。隙だらけだったのでただの素人だと思っていましたけどそうでもないみたいですね。もう手加減はしませんよ、全力で行きます。」
今まで笑顔を崩さなかったハクが真顔になった。ハクは周りの空気を吸い込むように矢に力を送り込む。地面が凍り付いていく、更に弓を空へ向け放った。
「フローズン・シャワー。」
矢は上空で光り輝き、無数に増え俺のもとへ降り注いできた。どう防ぐ?あの氷の矢は俺の風じゃ防げない。風で避けようにも範囲が広すぎて避けきれない!考えろ、考えろ、考えろ!
そうだ、あの氷の矢は恐らく上空大気中の水分が凍ったものだろう。それがソウルの力で凍ったものなら俺のソウルでも対抗出来るはず。ソウルで風の刃を無数に空中に生成し、氷の矢を迎え撃つ。激しくぶつかり合う矢と刃。その衝撃で煙が立ち込めた。氷の矢は降ってこないが、ハクがこちらに向かって弓を構えていた。獣が獲物を逃がさぬような目でこちらを見据え、今までとは比べ物にならないくらいの氷の力を矢に込めていた。俺も自分の持てる風の力を右手の手刀に込める。
「ブリザード・ストライク!」
「鎌以太刀!」
二人の技が同時に放たれる。矢と斬撃はぶつかり合い、激しい爆発が起きた。爆発の煙が晴れると、そこには手足を真っ赤にしたハクが倒れていた。心配になって近づいてみるとハクは弱々しい声で言った。
「力を使いすぎると、すさまじい冷気で凍傷になるんです。」
「なぜ、自分の限界を超えてまで俺と闘おうとした。」
「なんででしょうね…多分あなたが私の全力を耐えられるか試してみたかったんだと思います。まぁ、止められてしまったんですけどね。でも、いい勝負になったんで満足です。次は負けませんよ?」
「俺も負けないよ。」
そう言葉を交わすとハクは担架で運ばれていった。俺も左肩の怪我を治してもらうために医務室へゲートで向かった。そこでは、モニターで各試合を見られるようになっていたので治療を受けながら見ることにした。モニターの中ではエルが炎に包まれた男と闘っていた。エルは水鉄砲を撃つが、焼け石に水その男には通じていなかった。エルはすぐさま降参した。
「何見てんの。」
と後ろから叩かれた。そこにはエルが不機嫌そうな顔をして立っていた。
「あれ?いたのか。」
「開始早々攻撃が通じないってわかったから降参したのよ。だからここでみんなの様子を見ていたの。それにしてもあなたの途中の動きプロの武闘家の動きをしていたわよ。しかも見たことのない武術だったし、武術でも学んでたの?」
「いや、まったくやったことがない。」
「ふーん、不思議なこともあるものね、あれはまぐれだったのかしら。」
「そうなんじゃないかな。」
と適当に返したもののあれは妙に体になじんだ動きだった。他にもわかったことがある。ソウルを使う時一度に広い面積で大気の流れを操ることは出来ないが、細分化すれば結果的に広い面積の大気の流れを動かせることが分かった。ただ、一度に動かせないというのはハクの体のように弱点になりうるだろう。今度はモニターにロウの姿が映りその瞬間俺は自分の目を疑った。試合開始の合図とともにロウが倒れたのだ。相手は鎌を持ちフードを被った奴で何のモーションもせずにロウを倒した。何者なんだと考えていると、アナウンスが流れた。
「全試合が終わりました。生徒の皆さんは教室へ戻りましょう。」
俺たちは教室に戻ることにし、また赤色のゲートをくぐった。そして教室で全員が揃い、結果がミカゲの口から発表された。
「それでは、ソウルの値とともに順位を発表する。
12位800ソル ミア・ルーツ、11位850ソル リュウ・シン、10位870ソル ロウ、9位900ソル 一角ケイ、8位940ソル 神蛇マキ、7位960ソル ハク・グラド、6位980ソル 刃野タイチ、5位990ソル カイ・クアル、4位1010ソル 槍ヶ岳マイ、3位1130ソル エル・ライト、2位1200ソル リャオ・リン、1位1530ソル レイ・クラウ。
以上12名の評価である。明日から座学も始まるため、各自寮に戻って予習をすること。解散。」
と言って足早に立ち去ってしまった。あの人はなんか一言足りない気がする。3位だったエルを見ると目が死んでた。そしてこちらに気づき、
「私はまだ本気じゃないから、今回のは相手が悪かったの!」
と言って去ってしまった。するとロウが近づいてきて
「妙にプライドが高いからなぁ、あいつ。」
とボソッとつぶやいた。俺はロウの試合で疑問になっていたことを聞く。
「そういえば、お前どうやって倒されたんだ?」
「あれなぁ、俺にもよくわからん。あいつが睨んだらクラっとなそれからは俺にも記憶がない。それに1500ソルってそこいらのホルダー兵士より強いぞ。」
と頭を抱えながら言った。確かに睨むだけで人を気絶させる能力はそこいらの兵士より強いだろう。俺もあれぐらい強くならねばと考えながら寮へと戻った。
また時間がかかってしまった…
誤字が多いとよく言われます。気をつけたいですねこれは。そろそろ夏休みに入るんでかけるかな?