始まりの前。9
名前を頂いてから、どれくらいたったのでしょうか。
何と言いますか、邪神ボディになってから時間の感覚が凄く曖昧なんです。
一日、ぐらいにも思えますし、一年、ぐらいにも。
十年でもいいですかねぇ。
ぼーっとベッドに寝っ転がって天井を見つめていると「どったの? イリス?」と可愛い声が。
「いえ、時間の感覚が曖昧だな、と感じまして」
「ああ、なるるん。まぁ神様だからねぇ。その辺は凄く曖昧で適当だよ」
なるほど、とティアの言葉に納得。
私がぼーっとするこの時まで、ティアといろんな事をして過ごしました。
力の使い方。戦い方。邪神のあれこれ。他の神のあれこれ。
ティアとの邪神式、壮絶で熱く求め合う逢瀬。
あとは人間式、甘く、熱く、溶け合い、一つになる逢瀬。
うん思い出したらムラっと来ましたよ! が先程までやってましたんで、今は我慢しないとやめ時を見失います。
別の事を思い出して思考の軌道修正。
「イリス?」と呼ばれたのでそちらに顔を向けると、ティアがニヤニヤしながら枕越しにこちらを見ていました。
「今、ムラっとしてるでしょ?」
「正解です。思い出したのが敗因です」
「にひひっ。ボクは構わないんだけど?」
「っ。……ティアその言葉は反則ですよ」
「にししっ! 可愛いね君は」
このボクっこにもてあそばれる感……ちょっと癖になってます。
私よりティアの方が断然可愛いんですがね。
とにかく、このままじゃ私の中のゴングが鳴りそうなので思考の軌道修正再開。
が、結局、修正できなくてゴングがなってしまいました。
たまには違う事で体を動かそうという話になり、現在すっかりお馴染みになった闘技場空間にいます。
「いやぁー。スッキリしたね! イリス」
「ええ。すごくよかったです」
程よい大きさの胸越しに彼女のいつもの笑顔が見えます。
今の私の状態は地面に仰向けに横たわってます。しかもダルマにされて。
私達が何をしてたかと言うと、力の使い方と戦闘訓練です。
ティア曰く、こーいうのは戦ったほうが覚えやすい。との事でよく二人で殺し合いしてます。
まぁ毎回私が手足をぶった切られてダルマになるんですがね。
「んふふ! そこは年季の差だよんっ! いつまでも寝てないで起きなよ」
私は散らばった手足を引き寄せくっ付けます。
最初は生やしてなんですが、くっつけた方がいいかなと思いそうしてるんですが、
「相変わらず器用だね。君は」
「そうですか? けっこう簡単ですよ?」
「うーん。ボクは生やした方が早いと思うだけどねぇ」
「そうですが……なんか勿体ないじゃないですか? まだ使えそうですし」
「でた。謎の勿体ない精神」
「まぁ元人間それも日本人ですので」
そんな話をしている内に手足をくっ付け終え、次の訓練は何かなっと思っていると、
「ん? なんかめんどくさい気配を感じるぞ?」と眉間にしわを寄せるティア。
確かに何かの気配を感じますが……後ろ? と背後に何か感じたので振り返ると、ふあっとした衝撃と柔らかな感触に包まれました。
そして、視界に映り込んだティアとは別方向性を感じる美少女の姿が。
艶やかな銀髪に仄かに瞬く金の瞳。
薄っすらと浮かべた微笑は何故か少女らしさを感じさせない蠱惑的なモノ。
「えーっとティアのお知り合いで?」と確認。
「うん……知り合いと言えば知り合いかな……会いたくなかったけど」
おや? これは珍しい。
いつもチェシャ猫のような頬笑みを絶やさないティアが、しかめっ面ですよ。
「あら、そんな顔しなくてもいいじゃないですか」
「うるさい! お前の所為で楽しい気分が台無しだよっ!」
うーんとりあえず、私は黙っときますか。
腕を組んでそっぽを向くティアと、あらあらと笑う銀髪美少女。絵になりますねぇ!
「改めて、ごきげんようティアマト」
「……ごきげんようセフィ」
「もう! そんなに剥れなくてもいいじゃないですか!」
「……だってお前が顔出す時って毎回めんどくさいんだもん」
「それは……そうですが。でも今回は違いますよ? あれの――」
と私を指さした瞬間ティアの姿がぶれたと思ったら、次の瞬間には剣を振り下ろした姿になっていた。
え? 何が起こったので? 早すぎて分からないんですが、って銀髪ちゃんはやや離れた場所にいますし……。
「おい……ボクの大事なモノをアレ呼ばわりした上に、指さすとか……食い散らかすぞ。ゴミクズ」
地を這うような声とはこれの事だ、と思い知らされるような声でそう言葉にするティア。
対して銀髪ちゃんは笑っているのに何故か怖く感じる表情を浮かべてます。
まさかここでラグナロクでも始まるんですか?




