始まりの前。6
ゆっくりと浮上していく私の意識。
うん、体の感覚もちゃんとある。瞼も動く。
「知らない天井ですね」
なんとなくホッとする。
ここまでの出来事が夢じゃなくて本当に良かったと。
さて、あれから豪快にダークちゃんにぶちゅっとベロチューした私ですが、現在は黒いベッドの上です。
体を起こせば、生前なかった胸の重みにちょっと戸惑いますが、概ね良好。
で、研究室のような空間は赤と黒に彩られた寝室に変わっています。
真っ赤な絨毯に黒い壁。窓にかけられたおしゃれなレースのカーテン。
ゴシック全開で黒ロリとか狂気乱舞しそうなお部屋です。
今黒ロリとか言っても通じるんでしょうかね?
そんな感じで改めて部屋を見つつ、ふと止まる赤い絨毯。
何と言いますか……絨毯の上に脱ぎ散らかした衣服がなんとも生々しい。
ダークちゃんが着ていた白衣、その下に着ていた黒いワンピース。
私が着ていた黒い鎧とその下に着こんでいたインナー。
そして、それらの上にに点在する――白いブラと可愛いショーツ。黒いスポーツブラとなんとなくセクシーなショーツ。
えー……やるよね? ぶちゅっとやれば、やっちゃうよねぇ。
勢いって怖いわぁ……なんかスイッチがね。
もちろん、無理矢理じゃないですよ? どちらかと言えばダークちゃんが本気出した、みたいな?
いやぁ凄かった、いろいろ凄かった。とにかく凄かった。邪神はパナイっすわ。
「とりあえず、下着を装備しますか」
と腰を浮かせようとしたら、
「――どこに行くんだい?」
という声と腰に絡みつくひんやりとして白く細い綺麗な腕。
ダークちゃんが私のクビレに頬擦りしながら見上げてくる。
「起こしちゃいましたか?」
「ああ、起こされちゃったよ。君がボクから遠ざかろうとしたから急いで捕まえた」
そう言いながら、私が一番好きな笑顔でギュッと抱きしめられ頬擦りスリスリ。
「そう遠くには行きませんよ。下だけでも穿こうかと。お腹冷やしそうなんで」
と言って丸出しの下腹部を指さす。
「まだまだ人の感覚が抜けないのかい? 君は酷寒地獄に真っ裸で歩いても凍えはしないんだよ?」
あーそんな感じですか? さすが邪神ボディ。寒さ知らずとはなんと便利な。
「今だってそうだろ? 熱さや寒さを感じるけど苦じゃないでしょ?」
「うん、ダークちゃんの言う通りですね。いやはやちょっと前まで普通の人間でしたからね。まだ邪神って感覚が曖昧です」
「んふふふっ」
そんな風に答えれば、なんともいやらしい笑みを浮かべるダークちゃん。
「一つだけはハッキリとわかった感覚があるんじゃないのかなかな? にひひっ」
「あー……たしかにハッキリとわかる邪神な感覚」
それは体の中をうねる熱のようで冷気のようなモノ。
つま先から頭の天辺まで流れてうねるこれは……魔力または咒力あるいは神気。
そして、下腹部に感じる気が狂いそうなほど愛しく感じるダークちゃんの力。
胸がキュンとして、思わず自分のお腹を撫でるとダークちゃんが手を重ねてきた。
「ここにボクがいる」
そう呟いた後、私の手を自分のお腹に持っていく。
つるっとしてなまらかな肌の感触。そこから火傷しそうなほどの熱さと凍り付いてしまいそうな冷たさを感じる。
「そして。ここには君がいる」
熱っぽくトロンとした眼差しで見つめてくる彼女。
色が白いから頬が熱を帯びるとすぐに桜色に。とっても可愛く愛おしい。
なので……ギュッと抱きしめれば――ギュッと抱きしめられる。
私の脳内で第二ラウンド開始のゴングが鳴り響いた。




