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始まりの前。5

 

 新しい我が肉体の確認を隅々まで済ませ後、私の着る衣装のデザインをダークちゃんと話し合い、そこで決まった衣装に身を包んでいる。


 露出度高めであるがエロ過ぎず、危険を香水にして威厳と強さ醸し出す悪役の女性。

 刃物、特に日本刀とか見ると感じる『魅入ってしまう』そんな危うさ。


 邪神らしさを着込んだ鎧で表現。

 黒を基調に濃い赤を所々にいれ、装甲を蛇腹状にして鋭い禍々しさ目指してみました。

 蛇腹状なのは鎧だけじゃなくてちゃんと腕とか脚の装甲も、です。

 こうする事で動きやすさ抜群にしてみました。


「黒と赤って合いますね。あと、この腰に巻くタイプのマントがいい仕事してます。ダークちゃん!」

「そうでしょ? もっと褒めてもいいんだよっ?」

「とりあえず、言葉ではなく体を使って表現しましょう」

「うむ! どんとこいっ!」


 と両手を広げるダークちゃんをギュッと抱きしめます。

 あっ! ダークちゃんいい匂いする! あと柔らかい! 女の子ってのをすごく感じる!


「どうだい? ボクの抱き心地は?」

「何度言うようですが。……控えめに言って最高です。いつまでもギュッとしていたい、このひんやり柔らか」

「んふふふっ。人に抱きしめられるなんて初めてだけど……いいね! 胸がキュンキュンするよっ!」


 なに、この可愛い生き物。こっちも胸キュンですよ!

 なので私は彼女を抱きしめたまま語り掛けます。


「ねぇ。ダークちゃん」

「ん?」

「これから私は()()()すればいいんですか?」

「お? 哲学的な感じかい?」

「いえ、なにか目的があるんですよね? 私は自分が選ばれたとか、私じゃないとダメだ。なんて思いあがった考えはないです。ただ邪神を完成させる為だけ、とも思っていませんね。なにか理由があると思うのですが……どうでしょう」

「あはっ! 君は感がいいのか。頭の回転が速いのか……なんとも扱いにくいね」

「でしたら、このまま殺してもいいですよ。一度は終わった生です。それにダークちゃんの気まぐれで生かされるんですから、意に沿わないのならどうぞ」


 何と言いますか私は満足ですよ。

 死んで邪神になって、超絶美人になって、今こうして超絶美少女を抱きしめてる。

 生前では体験できない事をいっぺんにした気分です。


「そっかっそかぁ。じゃ……さ。君が考えた『ボクが君に求める理由』ってのを聞かせてくれるかい? 君を、僕が、どうするか、決めるのに参考にするからさっ」

「……そうですね。一言で言えば『話がしたかった』ですかね」


 それから、つらつらダークちゃんに語りました。

 なぜ私がそう思ったのかを。

 私が死んですぐにダークちゃんと会話した時、それから邪神になってから、ここまでのダークちゃんと会話で感じたり、思ったりした事。


 ダークちゃんは本当に楽しそうに話してた。


 目を丸くして驚いてた事。

 涙を浮かべるほど大笑いした事。

 意見が対立して目を吊り上げた事。


 でも最後は本当に、楽しそうに、チェシャ猫のような笑顔で笑ってた事。


 私の主観ですが、ダークちゃんは私と会話する事を楽しんでるように見えました。

 うぬぼれた考えで言えば、私と話す事が楽しくて仕方ないって風に見えました。


「――だから思ったんです。ダークちゃんは自分と対等で色眼鏡なしでお話ししてくれる存在が欲しかったんじゃないかと。だから邪神を創った。でも中身まで創っちゃうとそれは対等ではなく創造主と創造物になるから。それが嫌だったのかなって。で、偶々、偶然に死んだばかりの私を見つけた。ダークちゃんの事を知らない世界の住人である私を。まぁ全部私の都合のいい妄想ですがね。どうでしょう? 及第点はもらえそうですか?」


 ここまで黙って私に抱かれたままのダークちゃん。

 最後まで聞いてくれた彼女の体がゆっくりと動き出す。


 だめだったかな? なんて思いながらも、まぁいいっかって彼女を強く抱きしめる。

 これでお終いになるかもだし、こんな可愛い子を抱きしめたまま終わるなら本望ですよ。

 と、いろいろ覚悟完了だった私に嬉しい予想外が起きました。


 私の体にギュッと締まる感覚。

 ダークちゃんのひんやりした手を背中に感じ、正面からぽかぽかした暖かかさ、ダークちゃんが言葉を発する度に火傷しそうなほど熱い息が私の首筋を撫でてくる。愛撫されてると勘違いしそう。


「及第点どころか――はなまる合格点だよ。君はボクの凍てつく心臓を動かした。最初に死に直面した時の君を感じた時、トクンって脈打ったんだ。……神様の癖にもしかしたらって奇跡を期待しちゃったよ。それぐらい強く脈打ったんだ」


 熱いのは息だけじゃなく、首筋にすり寄ってくる彼女からも伝わってくる。


「一応、ボクは神様だからね。あの時の結果は知っていたんだ。ちなみに結果はね。君だけ助かる、あるいは両方死んでたんだよ。でも君はボクを覆した。死ぬはずだった女の子を生存させた。あの時君が神に縋って女の子を助けたらこうはしなかった。君は神に願わず、自分の僅かな生存を捨てるんじゃなく、女の子に全て与えた。あの世界が用意していた掛け金を全部使って……そして、君は女の子の生存を勝ち取った。ボクとあの世界からっ! 痺れたね! 奇跡っていう世界が用意した君の掛け金を他人に全部あげた。しかも世界にも神にも願わず縋りもしないで(了承得ず)に、だ。笑ったね! 度し難い裏切り者がいるって。だから君は、今こうして――ボクの腕の中にいる」


 私の首筋から熱が遠ざかる。

 それから彼女の笑顔が視界を埋める。

 三日月を横にしたように吊り上がった薄紅色の唇。

 何もかもを嘲て見てるように歪めた目。

 血の様に赤黒く狂気を期待を瞬かせる緋色の虹彩。

 縦に切り裂かれ、恐怖が這い上がって来そうな瞳孔。


 彼女から伝わる――


 極悪で兇悪で無情で無慈悲で残酷で無道で残忍で非道でむごたらしく陰惨で無残で凶悪で暴虐で無惨で苛虐で酷悪で惨忍で惨く苛酷で残虐で猛悪な酷い愛が。


 だから思う……最初に君を感じた時から想ってる。

 それ以上に愛らしくて愛しくて美しく可憐で綺麗そして、


 ――……可愛い、と。


 だから、私は君に言う。


「ダークちゃん。キスしてもいいですか?」


 これを聞いた彼女は大きく目も口もを広げてポカンとする。

 その顔があんまりにも、あどけなく幼くて、つい笑いそうになる。


 ややあって、彼女は再び私の好きな笑顔になると、


「君は本当に、ほんんんっとにっ――度し難いね。……いいよ。ぶちゅっと豪快にきなっ!」




 ――この後私はぶちゅっと豪快にむちゃくちゃベロチューをした!

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