バカップル降臨 1
――あなたの好きな、剣が舞い魔法が飛び交う幻想世界ですよ。
とティアと同じ笑顔の銀髪ちゃん改め、セフィちゃん。
「心躍るフレーズですね。それ」
「でしょ? ティアも仕事さぼってる。丁度いいし――て、早速イディアが門を開いてくれたわ」
と言った後にセフィちゃんがスッと横にずれると、びっくりするぐらい普通な扉がぽつんと現れる。
「思いのほか普通でびっくりしました」
「まぁイディアらしいね。こーゆのは。んじゃここは先ず、イリスから行ってみようか!」
なんて元気よくティアが言ってますが……
「なんかあるんですか?」
「――ん? なにもないよ? 普通に潜るといいさね」と返ってきます。
考えすぎですかね? と思いながらもちょっと不安を感じつつ扉を開く。
真っ黒な空間でいいんでしょうか? なんとも足を踏み入れにくい仕上がりで。
「どったの? 早く行きなよ」と急かされ、極めつけは突き飛ばされます。
「ちょ! ティ――」とセフィちゃんが驚いてたのが凄く気になりましたが、私は真っ黒な空間にすぐに飲まれて――で現在に至ります。
「なに? ぼーっとしてんのさ」
「おや?やっときましたか。ティアが来るのが遅いのでここに至るまでの事を振り返ってました」
「ほぅー随分人間じみた事してたんだねぇ」
「まあ元人間ですんで」
やっと来たティアの姿を見て盛大に安堵します。顔には出しませんがね。
このまま来ないんじゃないかと冷や冷やしましたよ? もぅ。
ティアは私の心情などお構いなしに、この如何にもな空間を物珍しいそうに見回します。
「これまた如何にもな場所だけど、すんごいお粗末な魔法陣だね。これじゃよくて中級妖異ぐらしか出ないよ?」
「そうなんです? 私にはよくわかんないんですが。……まぁなんとなく雑な感じがしますね」
ティアが床に書かれた魔法陣を足で突きながらそう言うので見て見ましたが、好し悪しなんかわからないです。だって魔法使う時に魔法陣なんか使いませんし。
ちょっとだけ足から魔力を流してみますが……反応なしですね
「ん? なにしてんの?」
「いや気になったんで。魔力流してみたんですが……御覧の通りです」
「相変わらず器用だよねぇ。イリスは――ん? なんかいるよ」と祭壇っぽい場所を指さすティア。
その方向を見ると……白い何かがあります。
具体的に言えば、手首を縛られ、上から吊るされた白い女性です。
しかも彼女の額には前髪を分けて、二本の角が生えてます。
顔はぐったりと俯いてよく見えませんが、角はわりとはっきり見えます。
「お? おお? こりゃめずらしいね! 白い鬼人だよ! 近くに行ってみようよ!」
と動物園にきた子供のような燥ぎっぷりのティアたん。
可愛い……守りたいその存在。
吊るされてる鬼っ子ちゃんの下へ足取り軽やかに向かうティアの後ろ姿を眺めつつ、私のその場所へ。
「おお! 見て見て! すんごい可愛い! てか美人だね!」
と動物園の幻覚を見そうなほど、愛くるしく、楽しそうに笑うティア。
「ティア? この旅行が終わったら動物園デートをしましょう」
「え? いきなり死亡フラグ立ててどったの?」
「なんか無性にティアと動物園に行きたいです。あと私邪神的な女神にですので、死亡フラグが立とうが関係ないのです」
そんなやり取りをしている内に鬼っ子ちゃんの下へ到着です。
「これは……酷いですね」と思わず言ってしまう。
「――足がもう使い物にならないねこれ。見てるこっちのスネがムズムズするよ」
ティアが言う通り鬼っ子ちゃんの足、特に脛の辺りが黒く変色しています。見ようによっては紫に見えなくもないですが……これは血が変色した感じですかね。
「でもこの子……生きてますよ」
「うん。でもギリギリだね。あちこち痣だらけだし。この子の魔力を見てごらん? 無理やり吸い上げられたんだろうね。底が見えちゃってるよ。もってあと数分」
これもまたティアのいう通りです。
この子の魔力はもう命の炎に薪くべる事が出来ない状態です。
「ぃ…………ら…………」と微かな声。残念ながらはっきり聞き取れたのは『ら』とだけでした。
こんな状態でも彼女は何かを望んでるのでしょうか?
それとも死の間際の夢を見て、それに答えているのでしょうか?
「イリス? 聞いてあげたら? てか聞きたいんでしょ?」とニヒヒと最後に笑うティア。
「ティアは何でも知ってるんですね?」
「そだよん? ボクは何でもわかっちゃう。でもね、君の事だけは知らない事がいっぱいで。わからない事がいっぱいあるんだ。だからそれをいーーーっぱいボクに、教えてねっ!」
「それは気合入れて教えてあげますよ」
照れ臭そうにエヘヘと笑うティア。彼女の笑顔と言動は私のキュンキュンさせます!
「さてとまぁ。お聞きしましょう。アナタの声を――」と見上げる様にして吊るされた彼女の頬に触れます。
触れて僅かに力を流して彼女奥へ奥へと進みます。
小さな火のように弱々しく燃えてる命。そこにちょっとだけ私の力をくべる。
――力が欲しかった。みんなを守る力が欲しかった。でも私の声は届かなかった。
力が欲しい。みんなの仇を討てる力が欲しい。なんでもいい。力をくれ。仇を討てる力を――ください。
あの豚どもを、神と驕った猿どもを、殺して殺して殺し尽くせる力が欲しい――……。
彼女を命が消えないようして、彼女から手を離します。
「――なるほど」
「どうだった?」
「力が欲しいそうですよ」
「そう。こういう時はいつだって力を求めるモノさ」
「そう言うものなんですかね」
と答えてから彼女を抱きしめ、手首の枷をオロチを使って外します。
そして、なるべく衝撃を与えないように地面に寝かしました。