はじめてののろいぢに
もし、世界最強の能力が手に入ったら。
それは男子が誰もが一度二度妄想することのある夢だと想うのだが、
俺の事情は少し違った。
「あー、呪い殺されてますね貴方」
真っ白い病室のような…しかし遠近感がハチャメチャになるほど潔白の世界。
明らかに現実ではないこの空間。
トリックアートを見せられたような気持ち悪さが延々と脳みそに張り付く。
俺はその空間にぽつんと用意された、アルミ製の安い回転椅子に座っていた。
「呪いなんてこの世にあるんですか……というかそもそも俺、死んだんですか…?」
俺が質問すると、落ち着ききっている若い医者風の男が答えてくれる。
「そうです。貴方は殺されました。普通は、異能境界上の生物による死は、特例第42条の適用が認められ、現世…この場合は地球同一時間軸での死者復活が認められるのですが、貴方の場合は申し訳ないことに、我々の力を持ってしても、元の世界で生存させてあげられることができないのです。」
「う……」と思わず声が漏れる。脳みそがフル回転しているのに、理解が追いつかない。
その困り果てた様子を見てか、医者風の男は小さく声を漏らしながら、分厚い辞典をめくり始めた。
「西暦201X年の方でしたら、この言葉で理解できるでしょうか……
”生き返られないお詫びに、異世界に転生させてあげます”」
事情のすべてが飲み込めるわけではなかったが、俺は耳障りの良いその言葉に、なんとなくうなずいた。
それをOKと取ったのだろう、
「よろしい、それでは早速始めましょう」
そう言ってその男は、羽織っていた白衣から正方形の宝石?のようなものを取り出して、ブツブツとなにかを唱える。
しゅん、という音が聞こえたかと思うと、俺の座っていた椅子が、瞬時に立ち消える。
一瞬の恐怖。
椅子から転げ落ちる。
そして床に倒れるかと思ったが、その心配はなかった。
なぜなら、
足場も、床も壁も、何もかもが消え去っていた。
俺は、落ちていく。
広がるのは、無限の青空、そして雲。
そして、空に浮かぶ男。
――それでは、ご自愛くださいね。
彼がそう、ささやく声が聞こえた気がした。