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1. 現状把握



 教室を後にした俺は、誰にも見つからないまま学校も抜け、そのまま近くの公園へ向かった。


 これで人生二度目の無断欠席か。このまま常習犯にならなければいいが……


 公園内にあるベンチに腰をかけ、ぼんやりと考え込む。

 ちなみに初回は昨日。ただ、昨日は大人しく授業を受けていた。

 何にせよ、先生に迷惑をかけてしまっているのは間違いない。事が済んだら謝ろう。まあ、受け入れて貰えるかは分からないが。


「さて、まずは現状把握が先か……」


 気持ちを入れ替え、俺は誰にも聞こえない声量で呟く。

 正直、さくっと原因究明したいものだが、手がかりどころか今この身に起こってる現象がなんなのかさえ皆目検討もつかない。

 体の不調は医者に聞けばいいと言うが、今回は恐らく意味をなさないだろう。

 他人から見て自分が見えない、聞こえないなどという病気が常識的に考えて存在しえるだろうか?

 俺はそうは思わない。そもそも見てもらえるかどうかさえ怪しい。

 だからこその現状把握。

 俺は制服のポケットからスマートフォンを取り出すとメモ帳アプリを開く。

 一応、今現在判明してることを簡単にまとめると。


 他人から視認されない。

 声を発しても気づかれない。


 この二点のみ。

 前者が大本で、後者がそれに連なるもの。

 ただ、これらについてもあくまで"基本的"にらしく、何かしらの条件が揃えば認識されると俺は踏んでいる。

 それは何故かというと、俺の家族には認識されているからだ。

 どういうわけか父さん、母さん、妹の三人は今のところ影響を受けていない。普通に会話も出来る。だからこそ昨日の無断欠席に対しては当然お叱りを受けた。何故か母さんより妹の方が怒っていたがどうしてだろうか?

 まあ、それはいいとして。もしかしたら身内には影響が及ばないのもしれない。

 とはいえそんな曖昧な条件があるのだろうか?

 仮に血縁、血が関係しているとしたら父または母のどちらは俺と同じ症状を、過去または現在も患ってるということになる。しかしそんな話を聞いた覚えも、そんな現象に見舞われている場面を見た覚えもない。だから身内がキーになってる可能性は低い気がする。


 どちらにせよ情報が少なすぎるな。


 もし発覚してすぐに検証なりを積み重ねていたら今よりは幾分マシな情報が得られていただろう。けれどそれも後の祭りだ。これから挽回していけばいい。


「あとは……」


 深く考えるまでもなく思い浮かぶのは、三日前。ちょうどゴールデンウィーク最終日。自分の体が何かおかしいと思った日のことだった。

 その日は最後の休日だからと思い切って国民的人気アニメの映画を見ようと映画館に行ったのだが、チケットカウンターで並んでいた際に、割り込みのような形で俺の体にぶつかって来る人がいたのだ。

 行儀の悪い人もいるもんだと思っていたのだが、直後、ぶつかって来た人が――


「う、うわぁぁあああ!!き、気づかなくてごめんなさい!」


 と謝ってきたのだ。

 その時俺は不思議に思いながら大丈夫だ、と言ってその場を収めた。

 その後、チケットカウンターでチケットを購入するのだが、当然、窓口の従業員に俺の姿は視認されずチケットは購入出来なかった。

 当時の俺は訳が分からないまま映画館内をうろうろと彷徨っていたのだが、従業員がチケットを切っている入場口まで近づいても注意されるどころかそのまま通れてしまい、そこでようやく自分の姿が他人には見えていないのだと気づいたのだ。

 今になって思えばもっと慌てふためいてもおかしくはない現象。だが、当時の俺はラッキー程度に考え、そのまま上映館内に入り目当てのアニメ映画を平然と見て帰っていったのだった。


 でも、それだけだ。映画館に行く途中で何かあった覚えはない。とすれば……


 現象が発覚した三日前より以前、GW中に何かがあったと考えるべきか。

 とはいっても特別何かしたような記憶はない。

 今年のGWは七日間あったが、そのうち外出したのは五日間程。殆どが近くのコンビニや本屋に行ったりしただけ。

 それ以外で遠出したのは確か、最終日と妹に付き合わされた時、そして、中学の頃の友人と遊んだ時ぐらいか。


 そういえば、あいつらでも今の俺は視認できないのか?


 素朴な疑問。中学三年間を一緒につるんで来た仲だ。一ヶ月程一緒に過ごしたクラスメートと違って俺のことを視認出来るかもしれない。

 しかしそれは逆を言うと付き合いの年月は関係ないという証明にもなってしまう。


 ……試しに会ってみるか。


 そう思うや否や、俺はスマホのホーム画面からSNSアプリを起動させる。そして、お目当ての相手のチャット画面表示させると、『学校が終わり次第会えないか?』という趣旨の文章を送信する。あとは待つだけだ。


「……学校が終わるまで何して過ごすかなぁ」


 俺はベンチに持たれかかるとそう呟いた。

 公園の時計の針はちょうど十時を指していた。


思い通りの文章を書くのって中々難しいですね。

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