プロローグ
初投稿です。見切り発車に拙い文章で申し訳ないですが、どうぞよろしくお願いします。
教室に暖かな日差しが降り注ぐ。
快晴。教室から見える空は雲一つないない青空模様だった。
そんな清々しい青空とは正反対に、俺の心の内は憂鬱としていた。
「……はぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は窓際の一番後ろの席に座りながら重苦しそうな溜息を盛大にこぼす。
既に担任が教卓に立ち、軽い雑談混じりの朝のあいさつを話している。教室は静まり返り、担任の声だけが響く。そこに異音ともいえる大きな溜息が聞こえれば何事かと思う者も少なくはないはずだ。
けれど、それに反応する者はいない。前の席の生徒も、隣の席の生徒も俺の方を気に止める素振りを見せない。
無視、イジメにも見える俺の扱い。しかし、これはそんな簡単に説明がつくようものではない。理由はすぐに分かる。
「出席確認をします。えーと……」
担任の佐野希先生が教室を見回す。少し巻きが入ったセミロングヘアに童顔気味の顔。
今回初めて担任を受け持つことになったみたいで、俺の目から見ても熱意に満ち溢れ真面目に生徒と向き合ってる印象だ。
この大和高校に入学して早一ヶ月が過ぎたが、佐野先生に好意を向ける者はいても、悪く言う輩は聞いたことがない。
当然、先生はクラスメートの顔と名前をしっかりと覚えている。
なので普通なら出席確認はすんなりと終わる。何故ならば、俺を含めクラスメート全員がこの場にいるのだから。しかしーー
「えーと、渡来空大くん、渡来くんいますか?」
何故か佐野先生は生徒の名前を呼んだ。しかも俺の名前を。
「……いえ、ここにいます」
仕方なく俺は背筋を正して声を上げる。もしかしたら前の席の吉田さんに隠れてしまって気づかなかったのかもしれない。だが、これで気づくはず。しかしーー
「うーん、またお休みかしら?」
先生は考え込むように頬に手をやり、俺をいない者扱いするのだった。
………なんでそうなる
頭を抱えたくなるとはこういうものなのかと思いながら短く溜息を吐く。
そう、これが俺、渡来空大が現在抱えている悩みの種なのである。
今日こそはいけると思ったんだけどなぁ
まるで俺が見えないかのような不可思議な現象。
別に、俺がもう死んでて幽霊になったとかでは決してない。
その証拠にこうやって消しゴムを掴んだり、シャーペンを回したり物に触れることは普通に出来る。
じゃあ何故?
そんなもの俺だって知る由もない。そもそもこの現象を調べてさえいない。昔から病気でもなんでも数日経てば良くなる節があったのでこの現象が発生してもどうにでもなると思ってほっといていたぐらいだ。
じゃあ悩むことないじゃないかって?
そういうわけにはいかない。
アニメや漫画で透明人間は男のロマンだと語るが、常時透明人間だと私生活に多大な影響を及ぼす。
確かにメリットは多々あるだろうが、実際問題認識されない方のデメリットが多すぎる。
せっかく入学早々、ベストポジションともいえる席を獲得し、それなりの友人関係が築けて幸先の良い学校生活を切ったのに認識されないんじゃ意味がない。
俺は至って普通の高校生活を送り、家でアニメや漫画やゲームさえ出来ればそれでいいのだ。
彼女が欲しいとも思わなくはないが、自分の顔面偏差値が中の下であるのは理解しているので積極的に動くことはない。
ただただ平凡。普通でいいんだ。特別なんて必要ない。なのに……
「どうしてこうなった……」
机に崩れ落ちるような形で溜息を漏らす。けれど、いくら溜息を吐いても何も変わらない。
……やっぱ動かないと駄目なのか
正直あまり動きたくはない。元々、教室の隅っこにいるような人間だ。常日頃から目立つような行動は控えている。
けれど今回はその逆、俺という存在が認識されてない。
このままだと目立つどころかもしかしたら自分という存在が消えてしまうかもしれない。
いくらひっそりと過ごしたいからといってもそれは行き過ぎだ。死ぬのは最低でもあと三十年経ってからにして欲しい。
「仕方ない、やるか」
決意を胸に文字通り独り言のように呟く。
この現象が発症して三日目にして、ようやく俺は重い腰を上げるのだった。
「はい!それじゃあ授業を始めます!」
「………」
俺はその日二回目の無断欠席をするのだった。