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un common〜非常識な奴等の日常〜  作者: うみねこ
非常識なあんちくしょう。
1/1

主人公、就活に勤しむ。【1】

突然ではあるが、俺こと佐倉学は今、人生の最底辺にいる。


  いや、世の中には俺より不幸な奴なんてごまんといるのだから、最底辺というのは言い過ぎかかもしれない。しかしながら、良くない状況であるのは間違いないと言い切れる・・・と、目の前に立つ女を見ながら思うのだ。


ウェーブのかかった金髪を、さも気怠そうな表情でかきあげてその女は言った。


「理解したかしら?ここは、私達テロリストの本部だって言ったの。さあ、就職おめでとう、佐倉学。これであなたも立派な反社会組織の一員よ。」


頭大丈夫かコイツ。冗談にしてももっとマシなネタがあるだろう。


理解の追い付かない俺の脳ミソでは、こう呟くので精一杯だった。


「何故こうなった・・・」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



話は、数週間前に遡る。


「また、ダメかああああぁぁ・・・・・はあ。」


一人そうゴチて、俺は手に持っていた紙を投げ出して寝転んだ。そこには不採用の文字。


殺風景なアパートの一室。

俺にとっては見慣れた、最も落ち着く空間。必要最低限の机に冷蔵庫、ベッドに布団などの家具。気楽で気ままな独り暮らしも、早いものでかれこれ1年になる。


心から尊敬した両親を亡くして・・・早1年。


当時、俺はまだ16だった。二泊三日の旅行に行くと言ったまま、旅客機事故で呆気なく他界した両親。事故の原因は不明らしい。


 そりゃ、最初は落ち込んださ。いや、落ち込んだなんて言葉じゃ足りないくらいには落ち込んだ。うん、精神科を勧められるほど病んでいたことは認める。


  しかしながら、母親譲りのポジティブシンキングでどうにか持ち直したものの、それでも1年の月日を要した。1年間も何をしてたのかって?まぁ・・・所謂『引きこもり』というやつだ。


 そうやって最終学歴高校中退の元引きニートが出来上がった訳だが、こんな状態では天国の父さん母さんに会わす顔がない。もし今俺が死んで会いにいこうものなら、簀巻きにされてダブルローリングソバットを食らい地上に蹴り還されるだろう。

いや、マジで。あの両親ならやりかねん。


とにもかくにも、この状況を打開するにはただひとつ。


「よし、働こう。」



 取り敢えずの目標を定めた俺は、引きこもりの面影が残るヒョロ白い手で求人情報誌を捲る。


 そうやって就活を初めて2週間。はっきり言って、嘗めていた。就活の厳しさを。


 高校中退の元引きニートを快く受け入れてくれる所なんてあるはずもなく、とはいえ働かないことには飯も食えない。


 いや、貯金がないわけではないんだ。両親の保険金と、決して少なくはない航空会社からの慰謝料。合わせるとあと十数年は不自由無く暮らせるほどの額なのだが、それは文字通り両親の命の金。出来るならば手は付けたくない。そんな自分のちっぽけなプライドだった。


 日雇いのアルバイトでどうにか日銭は稼いでいるが、俺は正社員となるべく今日も今日とて就職活動に勤しむのだった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





「・・・・・ん?何だこれ?」


某街ページをパラパラと捲っていると、あるページに目が止まった。


「株式会社un.common、何て読むんだこれ?」


自慢ではないが、頭はあまり強くない。高校中退は伊達じゃない。


「年齢、問わず・・・学歴不問・・・月収30万以上保証(一部歩合制、昇給有)・・・?」


何だこれ・・・破格すぎるだろ!?いや、むしろ怪しいわ!!ブラック臭がプンプンしやがるっ!!

 

 だがしかし、しかしだ佐倉学。

もしもこれが本当ならばかなりの好条件。もうすでに6社からの不採用通知を受け取ったが、その理由のどれもが元引きこもりの未成年であることと、高校中退だということは明らか。まさに俺のために用意されたかのような募集じゃないか!!


「なりふり構っていられる状況じゃないし、こうなりゃヤケだ。目指せ不採用二桁!ダメ元上等!!」


 半分自棄気味の俺に怖いものなどあるはずもなく、広告に書かれた番号を迷うこと無く携帯に打ち込んだ。


トゥルル・・・トゥルルル・・・


「はい、こちらアン・コモン株式会社受付担当、田崎でございます。」


二回のコールの後、電話に出たのは女性だった。


(あ、あれあんこもんって読むんだ。にしても綺麗な声だなぁ・・・)


なんて、どうでもいいことを考えながら俺は緊張で裏返りそうな声をどうにか抑えこみ、話し出した。


「お、お忙しい所申し訳ありません。私、佐倉と申します。求人情報誌を拝見しまして、是非面接をお願いしたいと思い連絡致しました。」



「求人・・・情報誌?・・・え?あ、あの、担当者に代わりますので、し、少々お待ち下さいっ!!」



(ん?なんだ?なんか慌ててんな。・・・新人さんか?)



その綺麗な声の女性の姿を思い浮かべながら、待つこと1〜2分。

今度は随分とダンディーな男性の声が聞こえてきた。


「お待たせしました。求人担当の黒田と申します。佐倉さん、でよろしいでしょうか?」


「は、はい!」


なんだこのイケボ。男の俺ですら一瞬ドキッとしたわ。


「この度はご連絡頂きまして、誠にありがとうございます。さて、求人情報誌を見て頂いたと伺いましたが、間違いありませんか?」


「はい。是非御社で働かせて頂きたいと思い、連絡致しました!!」


「いやぁ、こちらとしましても猫の手も借りたい程の人手不足でして、本当に助かります。それでは、面接を兼ねて仕事の内容やお給料の話をさせて頂きたいのですが・・・明日は予定は空いてますか?」


なんと・・・これはもう内定を貰ったようなものじゃないか・・・!


「大丈夫です!全然、全く、これっぽっちも予定はありません!あったとしても空けます!」


おっと、いかんいかん。落ち着け俺。


「ふふふっ。それでは待ち合わせの場所ですが・・・」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


その後、待ち合わせの場所や必要な書類などの説明を受けて電話を切った。


やっと。

やっとだ。

これでやっと前に進める。


(父さん母さん、この1年親不孝者で本当にごめん!ちゃんと働いて立派な社会人になるから・・・!!)



心の中でそんな誓いを立てながらも、にやける顔面を抑えるのにしばらく時間がかかってしまったことは、言うまでもない。

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