第一章 ー出会いー
「林の国」を出て、二日.... ークルド地方 山岳部ー
朝日が出て間もない時間帯の森林は静かだった。見渡す限り、辺り一面はかすかに霧がたちこもっていた。
その中を二足歩行の獣に乗った旅人の姿が霧の中から現れた。彼は雨風をしのぐように施されたフード付きのポンチョのような服装をしており、
頭部に旅人用のゴーグルをつけていた。背中のリュックに彼の旅を助けるための道具の数々が入っている。リュックの横にはライフル銃が担いでいた。
彼が進んでいる道は主に行商人や旅人などが使っているため、道自体はきれいに舗装されている。
だが、すぐ横を見るとそこは野生の物以外を寄せ付けないような樹海が広がっていた。まるでそこは別の世界だった。
木々の間からかすかな太陽の光がもれていた。まさに自然の世界が作り出した神秘的な風景があった。
その光景を壊すかのような音が森林の中に響き渡った。それは銃声だった。
「発砲音?近いな...また撃った...いくぞ!ロッサ!」
青年は発砲音のする方に乗っている獣はうなり声を上げながら走った。
発砲音がした所はロッサを走らせて数分の所だった。高台から下を見下ろすと崖の中腹辺りに作られた小道で一台の馬車が獣の群れに追われているのが見えた。
馬車の屋根では獣達から馬車を守るために応戦している人たちがいた。人数は五人くらいといった所だ。
青年は襲われてる馬車の助けに向かった。青年の乗っている獣は軽快に跳躍しながら、高台を下った。
馬車から5メートルくらい後方に着地すると、馬車を追っている獣の後を追いかけた。
馬車を追っている獣は[クルドキバナガザル]と呼ばれる種の獣である。彼らはここら辺一帯の地域では危険視されている獣であった。
体型は比較的小ぶりだが、口部分から長く突き出している牙はとても危険である。さらに、獲物を襲うときは集団で襲うのがとても厄介である。
青年は肩に担いでいるライフル銃を構えた。狙いを定めるが場所が場所なのでうまく定まらない。だが、人の命がかかっている。
青年はライフル銃の引き金をひいた。発砲音とともに銃口から火花と弾が発射された。
弾の軌道は一番後ろの猿の脚部に着弾した。猿は悲鳴を上げながら倒れ込んだ。この隙に青年の乗った獣は風を切って前進した。
そして、馬車の後方部にたどり着いた。屋根の部分を見上げると、先ほどまで応戦している人たちの姿が無かった。
どうやら、凶暴な猿たちにでも奇襲攻撃にあったのだろう。青年達はさらに加速した。先頭部に到着した。馬車の馬を操縦している者がいた。
「この馬車の責任者は誰だー!話がしたい!」
「責任者はさっき猿共の連れ去れたよ!あんたはだれだ?」
「俺は獣追い人のテナンだー!」
「獣追い人なのか!なら、この状況から俺と積み荷を守ってくれ!」
「承知した!」
テナンはロッサとともに後方の猿の群れ最高尾まで下がった。
猿たちは相変わらず我を忘れて、森に来た邪魔者を排除しようとしていた。
テナンはまたライフル銃を構え、発砲した。発射された弾は目標の獲物を仕留めた。猿は転がりなが倒れ込んだ。
次の弾を装填し、発砲。次々と目標を打ち抜いていく。馬車を追っていた先頭の猿達は後ろから仲間を殺戮している狩人に気がついた。
この群れのボス的存在の猿が仲間に新たなる敵が来たと言わんばかりの雄叫びを上げた。それを聞いた猿たちはテナンに襲いかかった。
一匹の猿がテナンの横まで来ると、飛びかかってきた。テナンは自分の拳を堅く握り、襲いかかってきた猿の頭を思いっきり殴りつけた。
猿は空中からいきなり地面に叩きつけられて、近くにあった岩に体をぶつけた。口から泡を吹き出して気絶した。
テナンはこの状況からキリがないと思い、前進して馬車のすぐ横につけるようにロッサに指示を出した。
そして、自分が落ちないように手を伸ばしてロッサにつけてあった荷物から獣除け用の煙玉を取り出した。
それを後方のボス猿がいるところに投げた。目標地点に着弾すると同時に煙玉は破裂しながら、周囲に緑色のガスが立ちこめた。
猿達は苦しい声を上げながら逃げていった。
テナンは猿達がいなくなった道を進んで停止した馬車に近づいた。馬車のあちこち猿達に攻撃された傷跡が残されていた。
近づいて車体を見てみると、先ほどとは少し雰囲気が違った。攻撃された部分は塗装が剥がれ落ち、あの「林の国」で見た奴隷護送車と同じ色がしていた。
まさかと思いテナンはロッサから降りて、さっき声をかけた男がいる運転席にいった。
男はうずくまるように座っていた。
「おい、あんた。」
テナンが肩に手をかけた瞬間、男はズルリと流れ落ちるように運転席から道端に落ちた。男はのどを切られて死んでいた。
どうやら、奇襲攻撃にあったのだろう。男から必要な情報は聞けなかった。
だが、運転席の座席にはこの馬車の鍵らしきものが落ちていた。それを拾うと、後方部の馬車の入り口に向かった。木製の扉を開けた。
馬車の中に入ると、中にいる人達はテナンのこと警戒していた。その奥にいた見覚えのある顔がいた。
それは[林の国]でみた翡翠色の髪をした少女がいた。
「警戒しないでください!俺は皆さんに危害を加えるつもりはありません。俺は旅の獣追い人です。
この馬車を引いていた人達は先程襲撃していた獣達によって殺されました。そして、獣達は去りましたので危険はありません。」
テナンは奴隷達に危険が無いこと示した。すると、一人の腰の曲がったやせこけた老人がお礼言いに来た。
「おお、ありがたや。ありがたや。旅の方ありがとうございます。」
「いえいえ、俺はやるべきことやったことです。あなた方はもう自由です。これはあなた方がつけてある手錠の鍵です。」
その言葉を聞いて、奴隷達は喜びの声を上げながら手錠を外して空高く投げた。
太陽の光を浴びながら、陽気に歌を歌いながら村に向かった。
テナンは馬車の中を見渡すと、先程の少女が目の前に落ちてる鍵を手探りで探していた。
「あんた、目が見えないのか...」
少女は黙ったまま手探りで探している。テナンは彼女の近くにある鍵を拾い上げた。
「ほら、手を貸しな。今は外してやる。」
「ありがと....」
「あんた、名前は?」
「私は、サティア...あのお願いがあるのですが、私を獣達から守ってくれませんか?
あの獣達はまた私を殺しに来ます。」
「どういうことだよ!あんたが殺される!?」
「はい!お願いします!」
「分かったけど...」
テナンはサティアの言っていることが分からないまま彼女の頼み事を渋々了承した。
サティアの手を取り、ロッサを呼び乗せようとした時撃退したはずのあの獰猛な猿達の咆吼が山の方から聞こえた。
テナンは急いでサティアをロッサに乗せると自分もすぐに騎乗した。
ロッサは崖を沿うように作られた山道を風を切るように走った。テナンはサティアが落ちないようにしっかりと支えた。
後ろからは雪崩が来るように猿の群れが追いかけてきた。ロッサはさらに加速した。
テナンは必死にこの状況から抜け出す方法を考えていた。周りをキョロキョロして何か使えそうな物を探した。
すると、ここから200mくらい先に吊り橋のようなものがあった。テナンはそれを見つけると、脇に納めていた20㎝ほどの小刀を取り出した。
テナンは自分達が渡りきった後に吊り橋を支えているロープを切ろうと準備した。そして、吊り橋に到着した。
テナンはロッサから降りると、手綱を持ちサティアが乗っているロッサを先導した。
橋はロッサが歩く度にギシギシと音起てて上下にかすかに揺れた。下を見ると、辺り一面に森林が広がっていた。
ロッサ達が渡り終えるとテナンは橋をつるしているロープの所に行った。猿の群れは吊り橋付近まで来ていた。
テナンは先程の小刀でロープを切断した。吊り橋を渡っていた猿達は橋と共に下にある森林に落ちていった。
テナンは向こう側の崖を見た。そこにはこちらをにらみつけているあのボス猿がいた。
テナンは脇に抱えたライフル銃を構えた。いつでも撃てる状態に身を低くした。
「サティア、あのボス猿こっちを見たままなんだが....」
「たぶん、こちらの様子をうかがっているのでしょう。」
「そうか。」
テナンとボス猿の静寂なにらみ合いが始まった。お互いに一歩も引かない激しいにらみ合いだ。
ボス猿はウロウロし始めた。こいつは場数を踏んでいるやつだ。とボス猿は警戒の手を緩めなかった。
にらみ合いから10分経過...
ようやく、ウロウロしていたボス猿が後ろに待機させていた仲間の元に帰っていった。
テナンは構えていたライフル銃を下ろして立ち上がった。そして、サティアがいるロッサの所に向かった。
両者の背には戦士としての誇りがあった。種族は違えどその誇りは互いに共有しあうものだ。
テナンはサティアをロッサに乗せると自分も騎乗し、猿の群れの方を見た。
ボス猿は仲間からボス猿として威厳を見せつけさせるよう大きく咆吼をしたのであった。
テナンはロッサっを走らせた。道なりに進んでいくと、また森の中に入った。
森の中のをある程度進むと、小さな小川を見つけた。そこで、休憩することにした。
「いい加減に目的を話したらどうなんだ?」
「目的ですか?」
「そうだ。とぼけるんじゃないぞ。俺だって暇じゃない。」
「分かりました。私の本当の目的は旧文明の都をさがすことです。」
「旧文明の都って...本当にそんなもの探すのかよ?」
「はい。」
旧文明はテナンが生まれるよりずっと昔に滅んだと言われている。滅んだ原因には多くの噂があり、旧人類が神の力を手に入れたとか
神が怒って天変地異をおこしたとか旧人類に飼育されていた獣達が反乱したとか色々ある。だが、多くの人達はどっかの酔っ払いが作り出した妄想だと言われている。
「俺をそんなわけの分からんものにつきあわせようとしたのか...?」
テナンは少し呆れてしまった。この娘のために自分の時間を割くのはもったいないと思った。
「サティア、すまんが他を当たってくれ。俺はやることがある。この先にある村まで送る。」
「テナンさん、あなたが目的はなんですか?」
サティアが聞いてきたので自分の過去であるあのこと話した。
すると、サティアがあること言った。
「その獣なら知っていますよ。」
「えっ!?」