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古き都の皇女と獣追い人  作者: 綾月 銀之助
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第一章 ー旅立ちー

[林の国]に着いてからは、ギムレットさんが店長をやっている料理店の手伝いをしながら寝泊まりしていた。

ここ[林の国]は国全体が林で囲まれており、その林自体が国の防衛壁としてなっていてまさに自然が作り出した要塞だ。

さらに、近隣の国々との貿易は盛んであったため、国が潤っていた。だから、ギムレットさんはここで店を開いたらしい。

ある日、店の客が食べ終えた食器を運んでいる最中にギムレットさんに大きな声で呼ばれた。厨房に行くと、ギムレットさんが次に出す料理を作っていた。


「ギムレットさん、なにか用ですか?」

「テナンか、料理の材料が足りなくなった。だから、市場まで買い物に行ってくれ。材料のリストはお前の横の黒板に貼ってある。」

「わかったよ!リスト....リスト...これだな。」


俺は黒板に貼ってある多くの紙の中からそれらしい食材の名前が記入されたメモ帳サイズの紙切れを一枚、黒板から引きはがした。

リストには「林の国」で作られている家庭料理に使われている食材やキャラバンで中継した国や町の郷土料理の食材が書かれていた。リストの食材の数は必要最低限しかなかった。


(このくらいの量なら俺一人でも持ち運びができるな。)


テナンは店を出ると、毎日市場を開催している広場に向かって足を進めた。住宅地で囲まれた大通りは相変わらず人がいっぱいいた。広場に向かう大通りを歩いていると、

後ろから人混みをかき分けて黒い大きな馬車がゆっくりと進んできた。その馬車からは異様な雰囲気を放っていた。どかされた人々をその馬車にむかって野次を飛ばしていた。


「おい、その薄気味悪い馬車を早くどかせよ!」

「そうだ!そうだ!早く消えろ!」


テナンはあの馬車のことについてよく知らなかった。だから、好奇心によって目が離せられなかった。すると、隣で一緒に傍観していた中年の男性が声をかけてきた。


「お~、若いの。あの馬車が珍しいかい?」

「あっ、はい。あれはいったい...」

「あれは奴隷護送車だよ。あの中にいる人たちは戦災孤児、親に売られた子供とか自分の旦那や妻に売られた奴らを運ぶための馬車さ。」

「そうなんですか...」


テナンはその馬車をずっと見ていた。よく見ると、馬車にはめ込まれた鉄格子のの窓から翡翠色の長髪を結んでいる少女を見つけた。

彼女の目の先はずっと空をむいており、どこか悲しそうな目をしていた。テナンにとってその子はとても印象的だった。


「おっ、若いの。なんか可愛い娘でもいたのか?」

「いえ、そんなのはいませんでした。すみません、俺もいきます。」

「そうか。若いの。妙な気を起こすなよー」


テナンはその男性に軽く会釈してその場から立ち去った。


(あんな子まで奴隷になっているのか.....)


テナンはギムレットさんと多くの国と村を旅してきたが、奴隷商売は噂くらいでしか聞いたことがなかった。

テナンはあの少女のこと考えながら広場に向かった。

ギムレットさんから頼まれた食材を買い終わると、店に向かって少し駆け足気味に帰っていた。

店に戻ると、厨房に行った。


「おい、テナン少し遅ぇぞ!。そこにある料理を客にだしてきな。」

「わかってるよ。」


テナンはイスにかけてあった自分のエプロンを腰に巻き付けながら、机の上にある料理を持ち客のいるカウンターに向かった。

そして、テナンはギムレットさんの指示通りに料理をを運び、せかせかと働いていたら、店の閉店時間になった。

店の片付けが終わり、ギムレットさんと帰宅しているとギムレットさんが話かけてきた。


「テナン、あとで話がある。」

「?」


テナンはなにか悪いことをしたのか?と考えていた。

家に着くと、アッシュとクレアが出迎えてくれた。


「親父!今日もお疲れ!」

「テナンさんもおつかれ...」

「おう!ありがとよ!お父ちゃん今日もがんばったよ!」

「クレア、ありがとう。」

「えへへ...」


クレアはすこし照れていた。そのあと、ギムレットさん達と楽しい夕飯を過ごした。

夕食を食べ終わり、片付けをおえると各自が入浴済ましたあとにギムレットさんに呼ばれた。

部屋に入ると、ギムレットさんは部屋のソファーに腰掛けていた。


「テナンか。まぁそこのイスにでもかけてくれ。」

「話ってなんだ?ギムレットさん」

「お前、この先どうするんだ?」


唐突な質問に、テナンは不意を突かれてしまった。確かにギムレットさんは念願の自分の店を出しているため、もうキャラバンを護衛する必要がなかった。


「俺は...村を襲ったあの怪物を追いたいんだ。あの怪物の息の根を止めるんだ。」


テナンの脳裏にあのむごい光景がよぎっていた。あちこちに散らばった同胞の死体。焦げた木々のにおい。思い出しただけで胸が痛くなった。


「そうか~。わかった。」


すると、ギムレットさん窓の近くにあるクローゼットからキャラバンをやっていた時の旅の道具一式と見たことあるようなライフル銃を取り出した。


「テナン、これをお前に渡しておく。」

「ギムレットさん...ありがとうございます...」


テナンは涙を流しながらそれら受け取った。


「俺、明日から旅立ちます。これ以上は長居したら迷惑がかかりますので...」

「そう言うと、思ってな。俺の友人に獣飼いがいてな、そいつからある物を受け取ってくれ。俺ら家族からのプレゼントだ。」

「わかりました。」


テナンは自分の部屋に戻ると、ギムレットさんにお世話になったことやこれまでの生活にわかれることに心を痛めた。

だが、自分の心に覚悟を決めて翌朝に備えて早めに就寝した。





翌朝、朝食をおえてテナンは自分の部屋に戻り部屋の中を見渡した。名残り惜しいがもうお別れなのだ。

すると、ドアをとんとん、とノックする音がした。


「テナン兄ちゃん、入っていい?」

「ああ、アッシュとクレアか...どうした?」

「あの...お兄さん、もう行っちゃうの?」

「もういくよ。俺もやることがあったからな。」

「そうなんだ...これ、私たちからお守りになればいいかなって、さっき市場で買ってきたの。」

「これは...」


テナンはクレアから少し小さめの金属類の長方形の箱を受け取った。


「テナン兄ちゃん、獣追い人だろ?だからさ、そこら辺の草や土、鉱物から弾作れるようにパレット・ツール買っといたぜ!」


パレット・ツールはその名のとおり、自然界にある天然の資源から弾薬を作れる代物だ。だが、そのコンパクトゆえに弾薬は2発が限界である。

しかし、テナンにとってこの兄妹からの贈り物は自分にいつか降りかかるであろう危機を救ってくれるだろうと思ったので、自然と涙が出て来た。


「ありがとう...俺はお前達の兄妹で本当に良かった....」

「何いってんだよ...兄ちゃんはキャラバンで旅しているときに俺達家族を獣から守ってくれただろ。これはその時のお礼だよ!」


テナンは二人を思いっきり抱きしめた。


数時間後....

出発の支度がととったのでギムレットさんに別れの挨拶をしにいった。


「ギムレットさん、今までありごとうございました。」

「おう!お前も頑張れよ!たまにはこっちにかえって来いよ!」


テナンはギムレットさんの家族に見送られながら、ギムレットさんの知り合いの獣飼いの店に向かった。

[林の国]の街並みを見るのも、とうぶんあとかもしれない。だから、テナンは第二の故郷であるこの街並みの風景を自分の記憶に焼き付けた。

毎日のように市場まで通った道やその道を挟むように建てられた家々。家の前で遊んでいる子供達がどこか懐かしく感じた。

そういう思いをめぐらせて歩いていると、目的の場所に着いていた。

周りを見渡すと、そこは[林の国]の端の所にいた。目の前には、一軒の家とその後ろには柵に囲まれた遊牧が広がっていた。

そこには、馬や移動用獣や農業用の獣ばかりいた。そして、家の方から一人の男性が歩いてきた。彼の口には少し高そうな葉巻をくわえていた。


「おめえさんが、ギムレットが言っていた。若造か...」

「はい。えっと...」

「ボートンだ。頼まれていた物はこっちだ。」


テナンは葉巻を咥えた口数の少ない男のあとついていった。そして、ある小さな小屋の前で待機するように言われると、ボートンは小屋の中に入っていった。

ボートンは小屋の中から一匹の獣の獣を連れてきた。その獣は[ガルチョウ]と呼ばれる獣だった。獣の中ではとても珍しい種だった。

[ガルチョウ]は絶滅したはずの恐竜を思わせる体格をしていて全身には柔らかそうな羽毛が生えていた。そして、何よりの特徴は大きい嘴と鞭のように長い尻尾だった。


「こいつはな、数少ない種でな。こいつを手なずけるのは苦労したよ。」

「こいつをくれるんですか?」

「そうだ。ギムレットから頼まれた物だ。大事に扱えよ。一応、名前つけてやれ。」

「わかりました。えっと...ロッサ。ロッサだな。」

「いい名前だな。よーし、ロッサ。新しい主人だ。いけ。」


ボートンはロッサの腰部分を叩いた。ロッサは歩いて、テナンに近づくと腰を下ろして乗れって言っているようだった。

テナンは鞍がついている背中に乗り、ボートンさんに別れを告げながら国の出入り口になっている門に向かってロッサを走らせた。

門のそばまで来ると、もう一度ギムレットさんの家のある方に向けて、会釈をした。

思い出深いこの街に別れを告げ、青年は村の同胞の仇をとるための旅だったのであった....



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