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第一章 ◆13「ウィナーズメランコリー」

<4/19 昼 シヴァルデの私室>


 俺はシヴァルデから届けられた服を着てから仮眠を取り、彼の部屋にて待機していた。

 水色のワンポイントが入った白いワイシャツに黒のベスト、青いジーパン。ミナモの水兵ルックにカラーリングが近くて少し恥ずかしい。

 けど俺は選べる立場ではない。大体ピッタリのサイズを用意してくれたシヴァルデには感謝しておいた方がいいだろう。


「シヴァルデ遅いにゃ~」


 部屋の奥にある大きな机の手前に、二つ並んだ小さな机の左にはミナモ、右には俺が座っている。

 椅子をガコガコ鳴らしつつうにゃうにゃと喚きながら蠢いている。静かに待つって事ができないのかこの猫は。


 因みにシヴァルデはもう来ている。まだ使い道がよくわかっていない『観察する力』を使って部屋中を鑑定していたところ、入口の小窓から影が差すのが見えた。こんなところで何をやってるんだ。

 この時点で『この影はシヴァルデだ』と確信を持っていた。未確定事項の一部を見た時点で確定、確信に至るのがこの能力なんだろうか。


「それはちょっと違う」


 ミナモが居るはずの横の席から若い声が聞こえた。浅黒い肌で水色のワンポイントが入った白いワイシャツと黒のベスト、青いジーパンを穿いた少年が居る。

 俺だ。今の俺と全く同じ姿の少年がそこに居た。

 ミナモが『なりきる力』を使って俺の見た目や考えている事、状態をコピーしたのだ。


「どういう事です?」

「君の形質は『観察する力』だ。『形質』が『観察する力』というのはどういう事かわかるか?」


 形質とは、生物が持つ性質や特徴のことだ。ミカンが甘酸っぱいというのはミカンの形質だし、リンゴが赤いというのもリンゴの形質だ。

 では、『形質が観察する力である』というのはどういう状態を指すのか。


「そこからは私が話そう」


 タイミングを計っていたらしいシヴァルデが、バーン! と扉を開けて突然入ってくる。お茶目だなこの爺さんは。

 扉の音にビックリしたミナモは耳と尻尾を飛び出させて変身を解いた。背中が総毛だっている。これは解けたと言った方が正しいか。正常な状態じゃないとなりきれないのかもな。

 もちろん俺はシヴァルデが外にいたことには気づいていた。……あれ?俺の情報をまるっと抜いたならミナモはなんで気づかなかったんだ?


「びびびび……びっくりしたにゃ。口から心臓飛び出したにゃ……」

「それくらいじゃ死なないだろミナモくん。さあ二時限目を始めようか」

「形質についてですね?」

「そうだな、この世界の成り立ちについてから話そうかと思っていたが、丁度いいからそっちから始めよう」


 シヴァルデはお茶を急須で入れてミナモと俺に出してきた。苦いだけだからお茶は嫌いだったんだが、シヴァルデのお茶はうまい。

 さて、と一息入れたところでシヴァルデが話を始めた。


「形質が~~~~(なになに)をする力である』というのはどういう状態かという話だったね」

「そうですね。自然と『そう』である、『そう』してしまう、『そう』なっているというのが魂の、エーテルの形質なんだと思いました」

「察しがいいな。君の場合は、観察する力があるという事が君のエーテルの形なんだ。『鹿に角があるように』『君に観察力がある』という事だ」

「しかし、観察力だけでは納得のいかない現象が起こりました。リアと初めて対峙した時なんですけど、彼女が風を操って俺を攻撃して来るとき、避ける方法や技の内容までわかりました」

「そこまでは形質『だけ』の能力の範疇だよ。実は君の力にはまだ先がある」


 そう、それはなんとなく理解している。あと少しで掴めそうな感覚はある。人が赤子の頃自然と立つように、俺も能力の使い方が自然にわかりそうだ。だがもう少し時間がかかると思う。


「どういう能力なのか教えてもらっても構いませんか?」

「知る事が君の能力の発現の枷になってはいけないからね、自分で気づいてもらう他ないんだよ。ごめんね」

「いえ、それなら大丈夫です」

「ただこれだけは言っておこう。エーテルの形質とは、器に過ぎない。『何を成す為に【そう】であるか』を考えれば、自ずと答えは導かれるだろう」


 だんだんわけがわからなくなってきた。哲学的だ。セリフの括弧の中に括弧を二つ使うな。


「心で感じろって事ですかね」

「頭も使いなさい」


 苦手分野だ。




 ミナモは寝ていた。




---




 僕は考えた。ツバサ君を覚醒させておこうと。異世界人だからか、素質はある。

 魔人の一握りですら覚醒は難しいんだけど、この子なら簡単にできそうな気がするんだ。

 イカロスの体を守護する為に、イカロスの体の中身に戦力を持たせるのは最も効率がいい方法だろうし、いい方法だと思わないか?

 僕の力にもなってくれるだろうしね。


 ただ、イカロスは僕が魔法の研究をする為の、駒の一つのつもりだった。

 城もありがたかったし守護も助かっていた。

 むしろ1000年間の交流でこれ以上ない盟友になっていた。

 しかしやはり駒というつもりではあったのだ。


 しかし今は状況が違う。

 ツバサの入ったイカロスより他の者の庇護下へ行った方が、研究は捗るだろう。

 だがイカロスをなんとかこちらに戻すことができたら、元の状態に戻る事ができる。


 そんなわけで僕は今『傍観』という立場を取っている。


 ただ、一番いいのはイカロスが戻ってくる事なので、はっきりと裏切りの態度を取ることはしない。

 何事もバランスなのだ。


 そこで、僕ならいつでも殺せるツバサ君を強化する事にした。

 覚醒したとこで高が知れてるし、それを殺すのも簡単だろうから。


 で、休息を取らせ、ツバサ君のマテリアルを一部エーテルに変換させたわけだ。

 1エーテルのままじゃ覚醒してもゴミみたいなもんだしね。


 もし覚醒しなきゃ、イカロスは見捨てて他に付こう。

 今までは目立つから魔王になることは避けてきたけど、今度は転生して魔王になってもいいな。イカロス城を貰い受けるのが一番の目標だ。


 そうしたら、現状維持かな。

 いつでもヘッドハンティングを受けられる状態を続けて、それでいてスタンスはイカロスの帰りを待つ。

 完璧だ。カードは揃ってきた。

 情に絆されて、手札の為に命を投げうるのはもうこりごりだから気を付けよう。

 準備ができたらあとは待つだけだが、ツバサ君が問題だな。2段、いや最低でも1段階は超えてほしい。


 さて、じゃあその為には―――



---



「うーん……もう食べられにゃいにゃ~」

「ベタな寝言だな……」


 ここは56階。魔法演習室。シヴァルデの自室のベランダから専用のシューターが直接繋がっている。下降専用の少人数エレベーターみたいなものだ。

 眠りこけるミナモを抱えて、シヴァルデ先生はシューターに飛び込んだ。ついておいでと言われた気がしたのでそのシューターに俺も飛び込んだ。

 物凄いスピードで落下していく感覚があり、これ着地大丈夫なのかと不安になったが、だんだんと速度は緩やかになり、着地する瞬間はそっとクッションに降ろされるかのような感覚がした。

 魔法っぽい。すごいぞ。


「このシューターは僕が居ない時に飛び込むとぐっちゃぐちゃの肉塊になって死ぬから機会があっても使わないでね」


 着地は手動らしい。今俺は無意識に命を預けていたようだ……。まぁミナモなんかなんの選択権も決定権もなく命を預けていた事になるが。

 そしてその寝言の主ミナモは、てきぱきと十字架に吊し上げられ、二重丸の印をあちこちにつけられている。


「的です」


 的らしい。


「基本的な導魔法から行きましょうか。まず、エーテルを操って、マナを対象まで伸ばします。マナを伸ばす速度は速い方が命中精度が高いです。遅いと避けられますからね」


 俺はシヴァルデから受け取ったモノクルを使って、シヴァルデとミナモを同時に見ている。

 このモノクルは、エーテル界のモノを可視化する魔具だ。

 シヴァルデは使う必要がないとの事で譲り受けた。

 完全にファッションだったようだ。魔具でコーディネートするなよな。


 白衣の袖から青白い光を放つ何かが溢れだしたので、それにピントを合わせる。

 その青白光は、とんでもない速度でミナモの左袖にある二重丸に巻きついた。


「そして、使用属性を選択します。今回は火でいきましょう」

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫です。炎よ、優しく包み込みたまえ! 火焔(フレア)!」

「わ熱っちゃーーーー!!!!!!!!????」


 ミナモが一瞬で飛び起きた。左袖に炎が巻き付いている。


「ちょやめ、シャレにならなすぎるにゃーーーー!!」

「抵抗の訓練だよ。僕のお話中に寝る子にはちょっと強めのお灸を据えてあげなきゃ」

「お灸ってレベルじゃないにゃ! 水よ、私を守るにゃ! 水壁(ウォーターウォール)!」


 しゃぼん玉のような薄い水の膜が現れた。ミナモの魔法のようだが、いささか足りなすぎるのではないか。


「こんなんじゃ消えないにゃ! なんで水が出ないの!」

「部屋はしっかり乾燥させといたからね」

「鬼畜生にゃーーーーー!!!!」


 ミナモの左袖はぼろぼろの炭になり、皮膚が泡立つ。焦げる端から新たな皮膚が現れて、見た目的にはダメージが無いように見える。


「ちょっと可哀想だからやめてあげませんか……」

「うーん、序の口もいいとこなんだけどな」


 ふっと火が消える。ミナモががっくりとうなだれる。あんなに蹴りの威力が高く、能力も一級品なミナモも一方的にダメージを受けるとここまで憔悴してしまうのか。


「見ての通り、エネルギーである炎は導魔法でマナから簡単に作り出せるけど、空気中の水蒸気を集める死魔法は、そもそも乾燥していると発動しない。基本だね」

「……」


 魔人であるミナモは確かに、耐久力は高い。寝ていたミナモも悪い。シヴァルデの立場もかなり高いだろう。

 そもそも俺は教わる側だ。茶目っ気のあるシヴァルデなりのジョークなのかもしれない。


「怒っているかい? よくしてくれたミナモにひどい事している僕に」

「……」


 よくわからない。シヴァルデは俺を怒らせたいのか?


「じゃあ次行くよ、エーテルを通して対象の肉を操る。生魔法なんだけど、これが結構痛いんだ」

「……ま」


 て、と言う前に、ミナモの右腕が、二の腕あたりでちぎれ始める。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛いにゃ!!」


 ぼろぼろの左腕で、右腕に巻き付いたマナを振りほどこうとするが、反発してしまって届かない。

 金色をした両の眼から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちる。


「そこまで……」

「なんだい?言いたい事があるならはっきり言えばいい」


 絶対に挑発されている。


「ミナモは魔人だ。これくらいタンスの角に足をぶつけたくらいに過ぎないぞ」

「痛いもんは……痛いにゃ……勘弁してくれにゃ…………」


 なんで? シヴァルデ先生が俺を? 挑発? 怒らせてどうする気だ?

 あんなに仲の良かったミナモが、痛い思いをしている。

 何度も看病してくれて、よくしてくれて、一緒に笑ったミナモが。

 出会ったばかりなのに、知り合いの居ない俺を助けてくれたミナモが。


「た……たすけ……て」


 ミナモの右腕が落ちる。

 骨が露出して血が垂れ落ちる。

 血飛沫が地面に広がっていく、その瞬間。


 俺の中でブチッと何かが切れた。


 もう知るものか。これがシヴァルデの、何かの策だとしても。

 敵だったのだ。最初から。穏健派を名乗り、様子を見ると言いつつ、実はイカロスの敵でありスパイだった。

 そうだと考えよう。

 茶の味なんて覚えていない。


 隣に居る白衣の鬼畜生に、拳を握りしめて全力で殴りつける。身長が低いからアッパー気味に顔を狙う。


「おっと。危ないじゃないか」


 何が危ないだ。ミナモをあんな目に合わせてる癖に。

 シヴァルデはとん、とん、と2ステップする間に20メートルも距離を取った。

 魔法のようだが、さっきまでの感動はどこかへ行った。


「然魔法は見た事あるよね? 君にもお仕置きが必要かな」


 何かの粒のようなものが、シヴァルデの方から飛来する。

 軽く体をひねり避けながら『よく見る』と、何かの種子のようだ。

 モノクルで見るとマナがやはり巻き付いている。その種はあっという間に発芽し、物凄い勢いで成長し俺に向かって伸びてくる。

 不自然にうねり、ありえない方向の成長をしていく。

 木か。こんな程度のもの、リアに比べたら子供だましみたいなものだ。さっきの話ぶりからして、リアの風も然魔法だったようだ。


「君も撃ってこい。見せただろう? 木には火だ」


 マナを操って火を放つ。言葉にすれば簡単だが、詠唱すればMPを消費して火が出るとか、ここはそんな簡単な世界じゃない。

 モノクルを使って自分のエーテルが纏っているマナと、漂っているマナを見る。体を動かすと、マナも渦を巻いて一緒に動く。

 指を立てて、指揮者のように振り動かす。マナが跳ね動く。指を動かしているうちに、その動きの法則性に気づいた。

 指にマナを巻きつけるイメージ。振りかぶって、対象めがけ投げるイメージ。10メートルくらいはマナのロープを飛ばす事ができた。


「ほー、興味深い。そんな方法でマナを飛ばすのは初めて見たよ」


 マナを飛ばせたところでなんなのだ。これは、今シヴァルデを殺す手段にはなり得ない。火がついたところでただそれだけだ。

 今必要なのは、形質の力に目覚めることだ。この力には先がある。自分で確信しているんだ。




 脳がぐるぐる回る。呼吸が激しくなる。意識が朦朧とする。

 この状況はなんだ? 奴は俺に何をさせたい? 俺は最早ブチギレている。

 この形質が自分に備わった理由はなんだ? これは何をする為の力だった?

 そりゃもちろん……。


 ゲームをする為だった。

 ゲームに勝つ為、研究して研究して理解して記憶して、実戦で勝つ為の力だった。

 ゲームに勝つ為には、どうすればいい? どうなればいい? 何をすれば有利になる?


 それは、知識を貯めこみ、動きを読んで、最善の行動を取る。それが勝ちに繋がる。


『その一歩手前だ』


 声が聞こえた。


 最善の行動を取るためには。


 思考を加速させる。


 時を見る。


 時が見えるなら、見えない者には絶対負けない。


 形質は、観察する力。その中身は、何をする力か。


 マナを操り、自らのエーテルの形質に注ぎ込む。

 部屋中のマナを吸い込む。纏っているマナも、全て取り込む。


 マテリアルは肉体の器。その中に入るのは生きていく為の臓器。

 エーテルは精神の器。その中に入るのは、生き抜くための力。


 空っぽの形質にマナが満たされる。ポットに水が注がれるイメージ。

 エーテルが水に熱を入れるイメージ。マナが沸騰していくイメージ。


 マナが変質していく。自分だけにしか使えぬ力に。

 |ポットのお湯(体内のエネルギー)を、|カップに注ぐ(使う)。


 視界が揺らぎ、広がる。これから進む未来を、五次元視点から俯瞰で観察している。

 これなら。


『そう、貴様の能力は』



『「勝者の(ウィナーズ) 憂鬱(メランコリー)」』



 世界が遅い。でも、そう。これが元の世界と同じ速度。

 ここから更に加速する事もできるけど、マナが足りなくなるだろうからやめておく。

 思考が速い。どんな事でも実現できそうだ。


 シヴァルデの方を見る。スローモーションでにやけ面が強張っていく。


「こ」


 地面を蹴る。駆け出す。地面がへこむ。たった一歩で10メートル近く跳んだ。右足の骨が軋む。ミキッという音が鳴った。


「れは」


 地面を蹴る。一気にシヴァルデの懐へ入る。音を立てて地面が抉れる。バギッという音と共に左足が関節から(ひしゃ)げた。


「僕の負」


 右手を顔面へ叩き込む。

 力を入れて、叩く。押しこむ。殴る。突く。刺す。潰す。

 ゆっくり、地面に着く。まだ押す。まだだ。潰す。もっと。穿つ。もっとだ!

 消し潰せ!


 バギバギガギバギゴキゴキゴギゴキ


「あああああああああ!!!!!!!!」


 その雄叫びは、普通に聞こえた。自分の声とは思えないくらいの、痛々しく悲痛な叫びだった。




---




 僕は、作戦は上手くいったと思った。


 誤算は三つあった。


 ネタバラシする隙もない程ブチギレてるとは思わなかった事と、

 覚醒した能力が想像を遥かに超えるほど威力を秘めていた事と、

 ツバサがミナモを本当に、本当に大切に思っていたという事。

 自分の身なんてどうでもいいと思えるくらい。


 ツバサが覚醒した瞬間、負けを悟った。部屋中のマナが一瞬で消滅したのだ。

 この部屋は密閉空間だ。ソウルストリームからマナが補充されない。部屋を乾燥させるために換気もしていないからマナが入ってくる余地はない。

 僕の形質は自我を保つ力だ。エーテルの量を莫大に持てる事から回復力と防御力は絶大にできるし、纏うマナも大きい。エーテルバリアも無意識に張れる。

 でも、僕の攻撃手段はマナ頼りだ。マナが無くては何もできない。自慢の魔具たちも、マナがないと使えない。

 エーテルを取り崩してマナを作ってもいいけど、そんな時間はないし。


 ぶっちゃけ何より対抗手段を思いつかなかった。


「これは僕の負」


 下顎が吹き飛んだ。地面に叩きつけられて物凄い音が聞こえる。脳漿をぶちまける。右眼球が潰れて飛び散る。

 叫び声が聞こえる。あーあー、原型登録もしてないのにあんな腕をぐっちゃぐちゃにしたら絶対治らないよ。

 転がった左目をエーテルに繋いで、エーテルとマテリアルを最低限繋ぎ事実上の死を回避しつつ映像が途切れないようにする。長期記憶も一旦エーテルに移す。

 こうなれば追撃がないならソウルストリームに飲み込まれる可能性はないからゆっくり蘇生ができるけど、あんまり時間かけちゃうとツバサ君が死ぬかもな……。

 飛び散ったマテリアル体はささっとまとめる程度でなんとか動こう。



---




 何が……起こったにゃ?


 ツバサが、怒った?

 エーテルが1人分しかなかった、普通の元人間が。

 いくらでも治療できる程度の傷を負った魔人の為に。

 一生かけても直らないかもしれない傷を負いながら。


 誰の為に?


 ミナモの……為にゃ?


 やばいにゃ。目がうるうるしてきたにゃ。


 ツバサは、右足と左手だけで体を引きずりながらこっちに来るみたいにゃ。そんな体と出血じゃ、死ぬにゃ。……いやにゃ。

 シヴァルデは……もう立ち上がってるにゃ。

 ダメージの修復もしないで、ミナモの錠を死魔法で解いてきた。枯渇したはずだけど対してマナを食う魔法じゃないから使えたのかにゃ……。


 やっぱりいつもの荒療治だったにゃ……ツバサの覚醒が目的だったのにゃ。

 残ってる左手で十字架を掴み、地面に降りる。炎の後遺症は全くない。


「……うーん。もうダメだよ君は。もう直らない。……死ぬ」

「……」


 え?


「つ……ツバサ?」

「ミナモ……」


 顔面ぐちゃぐちゃオバケのシヴァルデが、腕をボロボロにしただけのツバサに向かって、死ぬと宣言した。

 そんな、死ぬわけないにゃ。シヴァルデがすぐに直してくれるにゃ。


「原型登録してないのにそこまで破壊されちゃ直らないし、血が足りないよ。僕もマナがもうないし」

「……やっぱり……茶番だった……のか?」

「僕の想像力も衰えたもんだ。……そうだね、茶番ではないよ。ただ無駄死にだ」

「そんな事ないにゃ!」


 泣きじゃくりながらぐちゃぐちゃになったシヴァルデの顔面に左手でパンチを叩き込む。4メートルくらい吹き飛んでもんどりうって倒れる。

 体を引きずって近くまで来ていたツバサに駆けよる。顔色は蒼白だ。


「ミナモ」

「つ……つば……」

「短い間だったけど、楽しかった」

「ツバサぁ……」

「最期だから言うけど、好きだった……かもしれない」

「……」


 そんな


「また来世で……会えたら……いいな……」

「うぅ…………ミナモ……も……す……す―――」


 とさっ……と、ツバサは地面に倒れ伏した。

 最後に、伝えられなかった。


「や……そんなの……いやにゃぁぁああぁあああぁ!!!!」



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