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70.そして……

 リリィが王位継承者になり、アンコールライブ(?)も無事成功。

 その後、約2週間ぶりの自宅に俺は戻った。

 そして、この2週間のひとえと、子供達の活躍を聞いて驚いていた。


 俺とチコは屋敷の掃除しかしてなかったんだけどなぁ……


 チコはユイカと同室という事で新たに二段ベッドを出した。リリィはご実家に顔を出すとの事で、今日はいない。口ぶりからすると、またここへ戻って来る感じだったんだけど、王太女になっても、リビングに居つくつもりなのか?


 そして、改めてみんなの無事を祝い、乾杯をした。久しぶりのビールはうまかった。久しぶりのひとえの手料理を堪能した。ゆっくり風呂に入り、寝室に入った。しばらくして、風呂を済ませてきたひとえもベッドに入ってくる。以下省略。


 さて、翌日、俺たちは再び女王と話す機会を持った。


「そうなの……サラ村が……」

「はい」


 リリィがサラ村が全滅したという話を女王に報告していた。

 いよいよ、この世界の崩壊が始まったという事か……


「解りました。調査と復旧作業は?」

「すでにモラン家に動いてもらっています」

「それにしてもサイクロプスがそんなに大量発生するなんて、聞いたことがないわ」

「陛下、サイクロプスだけではありません。各地で魔物がかつて無いほど大量に発生しているのを私は見てきました」


 リリィの言葉に女王は大きく溜息をつく。


「全軍を動かしましょう。特に外壁の弱い小さな村を中心に補強に入ります」

「それと、討伐部隊の派遣を急がなければなりません」

「そうね……軍だけでは足りないかしら。貴族達の騎士団を無理矢理にでも動かさないと……」


「陛下……姉上!」


 突然、大きな声がし、巨漢の男性が入ってきた。浩太がそれを見て、


「おじいちゃん!」

「おう、コータか!」


 これが浩太が言っていたモラン家の当主か……


「セリノ、なんですか急に……」

「リリアナ王女と救世主様がこちらにいらしていると聞いてな。こう言う事は早い方がいいと思って……」


 そう言って、リリィの前に跪き、


「すでにロラから聞いていると思うが、我がモラン家は本日を持って、降臣しリリアナ王女の騎士となる」

「セリノ、あなた……」


「あーずるい!」


 女王の後ろにあった扉から、そんな声が聞こえ、数人の男女、それに子供達が雪崩こんできた。


「モラド家当主……そして元王太子のアベルだ、お見知り置きを!」

「はい?」


 突然、挨拶され俺は戸惑う。


「私の子供と孫達です」


 女王が説明してくれた。

 彼らはリリィの前に揃って跪き、


「我らモラド家も、本日を持って降臣、リリアナ王女の騎士となると、ここに宣言する!」

「ちょ、ちょっと……ええー?」


 突然の事に俺は動揺するが、意外にもリリィはにっこり笑い、


「我が臣民のため、存分に働いてもらう事を期待しゅるっ」


 最後に噛んだ。ビシッっと威厳良く決めようとして、最後に失敗した。じっと見られたリリィの顔が真っ赤に染まり、目には少し涙が浮かんでいる。そして、


「あー、やっぱり慣れない! 堅苦しいの、やめていいですか? 陛下?」

「ええ、好きにしなさい」

「おお、リリアナ殿下は話せるな! これで俺たちも堅苦しい王族稼業から足を洗えるぞ! 」


 臣下になると言うのに、妙に元王太子はテンションが高いな。

 そんな事を考えつつ、真っ赤になって涙を浮かべているリリィの姿に俺は少し安心した。突然、リリィが立派になってしまうのも、何か寂しいしな。


「じゃぁ、皆さんはリリィの親衛隊って事でぇ……」


 ユイカが出てきた。手にはどこから取り出したのか大量のサイリウム。


「はい! これを持って、踊りの練習をしましょう!」

「ユイカ!」


 ひとえの怒鳴り声が響いた。


----------


「学校ですか?」

「そう、学校」


 ひとえがチコに説明をしている。


「女王陛下が救世主枠って事で貴族向けの学校に入学する事を許可してくれたの」


 俺とひとえは、子供達のこの世界での将来を考え、女王に学校に入れないかお願いをしていたのだ。まぁ、女王に紹介してもらえれば、少し学費が安くなるのかな……という思いもあったのだが、すんなりと無料(タダ)で入れるよう手配してくれた。無料(タダ)という言葉で、孫神にこの世界に連れて来られた事を考えると、嫌な予感もしたのだが、この国の貨幣を稼ぐ手段を持っていない俺たちは、その言葉に甘える事にした。そして、どさくさに紛れて、その枠にチコも押し込んでしまったのだ。


「で、でも……私はただの下働きですし?」

「下働き?」

「はい?」

「あれ、ひとえ、うちにそんな人、いたっけ?」

「いいえ、あなた。そんな人、家にはいないわよ」

「そ、そんな……」

「家にいるのはチコって可愛らしい私たちの娘だったわよね」

「ああそうだ。最近、お義父さんと呼んでくれるようになったので、俺は喜んでいたんだけど……」


「お義父さん……」


 チコの目から涙が溢れてきた。


 敵を欺くためとは言え、2週間近く俺はチコを娘として扱ってきた。情が移らない訳が無い。それに、チコはひとえと浩太を命懸け庇ってくれた恩もある。両親が既にいないのであれば、家で引き取っても問題無いだろう……という事で、フェロル村のルカスの家にも了解は取っておいた。


「チコ、お義父さんだけじゃなくて、私の事も呼んで欲しいんだけどぉ……」

「はい……お、お義母さん」

「チコ」


 そう言ってひとえがチコを抱きしめた。


「やったー、妹が出来たー! 欲しかったんだー、妹! 最高ー! いもうと(・・・・)!」


 ユイカは飛び上がって喜んだ。


「チコが僕の妹……」


 浩太は少し複雑そうだ。まぁ、大丈夫だよ浩太。血は繋がっていないんだから、まだチャンスはある。むしろ、ある種の業界では、最高のシチュエーションらしいぞ。だけど……


「あら、浩太。チコはあなたのお姉さんよ? 昨日、ルカスさんに誕生日とか確認してきたので、間違い無いわ」

「えー」


「コータ、仲良くしてね」

「え、あ、あ、うん」


 チコの言葉に浩太は真っ赤な顔を下を向いてしまった。この調子だと、すぐに尻に敷かれそうだな。


----------


 どこまでも続く青い海、優しく奏でられる波の音……


 岩場から豪快に竿を投げる……ヒット!


「やった、お父さん、大物っぽいよ、頑張って!」

「ああ、見てろ。今日こそ、釣った魚で……うおりゃぁ!」


 リールを力一杯巻き上げ、釣った魚を引き寄せると、最後は浩太がタモを伸ばし捕獲する。40cmくらいあるかな。そこそこ大物だ。ようやく、食べられる魚を釣り上げられた。


「やったねー。お父さん、すごいや!」

「よっしゃ、帰るか」


 白い砂浜の海辺を歩き、その後、長い階段を上ると、海辺の崖の上に建っている我が家がある。


「おーい、獲れたぞー」


 家の前でバーベーキューの準備をしていた家族に声をかける。


「パパー、おかえりー」

「お義父さん、お疲れ様です」


 ユイカが飛びついてきた。

 チコも俺を迎えてくれる。


「あなた、やっと釣れたのね」


 優しい笑顔で、続けて妻がゆっくりと歩いてきた。

 魚を渡し、軽くキスをする。


「料理してくるね」


 クーラボックスの中から冷えた缶ビールを出す。


 プシュ!


 缶を開け、キンキンに冷えたビールを飲み干す。


 あのストレスに満ちた日本にいた頃には、まさか、こんな生活が待ってなんて考えられなかったな。まさに自然に囲まれ、大切な家族と過ごすスローライフ。


 なんて充実した毎日なのだろう。

 いろいろあったが、俺は幸せだ……


----------


 久しぶりにパソコンを起動し、マゴガミンワールドへアクセスすると、5人の孫神達が一斉に飛び出してきた。


「こらー! なんでアクセスして来ないんじゃ!」

「大変ですぅ」

「ヤバいっすよ」

「ご無沙汰しておりました」

「お前、忘れてただろ」


 口々に俺に向かって叫び出した。


「いや、ああ、ごめんなさい。……本当に忘れてた」


 俺は孫神達に謝る。


「それはもうよい。それよりも悪い知らせじゃ! どうやら魔王が復活したみたじゃ!」


 なんだと……


「しかもどうやら魔王は……お前らの世界からの転移者のようでの……妾達以外の神が、救世主として誰もそっちに送っていなかった理由を調べていたのじゃが……」


 嫌な予感しかしねーよ。


「妾達仲良し5人組以外の孫神87人が結託して、魔王をそっちの世界へ送り込んだのじゃ!」


 なんだとー!! ……って、でも、それはどういう事だ?


 その答えを孫神達から聞く前に。ミントが、トコトコと歩いてきて、こう呟いた。


「これはあれだね。俺たちの戦いは始まったばかりだ! ……ってナレーションが入る場面だね」


====== > 王位継承編 完


この話を持って、本作は一旦完結とさせていただきます。


未回収な設定など多々ありますが、この先のタナカ家の冒険については、もし機会があれば、いつか書きたいなと、思っております。


GW明けくらいから次作をアップする予定です(今度はSFラブストーリーになります)もし、よろしければ、そちらも楽しんでいただけると幸いです。※2017/4/22追記 その続編が第2回お仕事小説コンで楽ノベ文庫賞を取ってしまいました。近いうちに電子書籍化される予定です!



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

読了記念にご感想やご評価をいただければ、モニタの前で小躍りいたします。


末筆ながら読者の皆様の今後のご活躍、ご健康をお祈りしながら、筆を……ではなく、叩くキーボードの手を置きたいと思います。

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