表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/78

69.ファビオ・コリーノ

次話、20:00頃更新予定です。

 リリィは頭を下げ、女王の言葉を待っているようだ。

 俺たち家族は、どう動いていいか解らないので、そのまま立ち尽くしていた。


「そう、間に合ったのね。歌、楽しかったわ」

「突然のご無礼、誠に申し訳ありません」

「いーえ、何の問題もありません。それより、あなた、覚悟は出来ているの?」

「はっ、我が身命を持って、この国の民を護る覚悟が出来ております」


 リリィは顔を上げ、女王をまっすぐ見つめたようだった。

 

「そう」


 女王はリリィに微笑み、少し歩み出て、群衆に呼びかける。


「我が愛すべき聖王国の民よ! ご覧の通り、たった今、神託は成った。リリアナ・ヒメノが救世主様を我が前に連れ戻った。我はこれを持って、リリアナ・ヒメノを次代の王とし、現時点を持って聖ダビド王国王太女とする事を宣言す!」


 一拍の静けさのあと、広場は大歓声に包まれる。


「万歳! リリアナ王女万歳!」

「リリアナさーん、もう1曲!」

「王女! 王女!」

「アンコール! アンコール!」

「隣の女の子も可愛い!」

「王女! 愛してる!」


 王太女の誕生を祝っているのか、ライブの続きを求めているのか、よく解らないな……


「救世主様」


 女王が俺に話しかけてきた。


「この度は、我が王族が色々ご迷惑をおかけしました。この国の王としてお詫びします」

「いえ、そんな……」


 女王が頭を下げたのでびっくりした。偉い人は早々謝らないものだと思っていたのに……


「神託ではリリアナとこの先、行動していただき、この世界を救っていただくとあるのですが……」

「はぁ、なんか孫神達から、そんなを聞いてます。具体的に何をするのか、解っていないんですけどね」

「そうですね。すぐに何をしていただくという事もありませんので、しばらくは王都にご滞在して……」


----------


「認めぬ! 認めぬぞ!」


 女王との会話の途中に、叫ぶような声が割り込んできた。

 振り返ると、ファビオが剣を片手に、こちらに向かってヨロヨロと進んできた。股間がビショビショだけどな。その後ろから、ファビオの部下達も付いてくる。


 それを見た女王の周囲にいた騎士たちが、素早く女王の周りを固めた。

 そしてその前にひとえが進み出て……さらにその前にリリィが立つ。リリィの動きを見て、女王を警護していた騎士が前に出ようとしたのを、リリィが手で抑える。


 ファビオはリリィに向けて指を指し、


「お前さえ……お前さえいなければ……」

「そうですね。ファビオ様、私もあなたがいなかったら王位に就くなんて事を考えなかったでしょう」

「何?」

「あなたに襲われた事で、私は、この国がどういう状況なのか、自分の目で確かめようと思えました。そして、私はこの目で見てきました。今、この国が、この世界が瀕している危機を知りました。あなたのおかげで、私はこの国を護る覚悟を持って、今日、ここへ来る事が出来たのです」


 リリィの言葉にファビオはどう感じたのだろうか……


「何がこの国を護るだ……俺がこの国の王となり、この国は俺に(かしず)くのだ。誰にももう出来損ないとか、コリーノ家の馬鹿当主など呼ばせるものか、俺が……俺が……」


 そう叫び、鞘から剣を取り出し、両手で持ってリリィに振り下ろす。


「リリアナ殿下!」


 女王の周囲にいた騎士が叫ぶが、間に合わない。


 ガシュ!


 リリィに剣が当たった瞬間、ファビオの剣が砕ける。

 リリィは全く動かなかった。両目も閉じず、じっとファビオを見つめている。


「くそ……おい、貸せ!」


 ファビオは、部下の一人から剣を奪い、再びリリィを切りつけるが、やはりその剣も砕け散る。


「くそ、くそ!」


 それでも諦め切れず、ファビオは何度も何度も、部下の剣を使いリリィを斬りつけるが、同じ事を繰り返すだけだった。


「ファビオ様」


 リリィのその言葉に……


「そ、そんな目で俺を見るな! なんだ、笑えるのか! 蔑むのか! コリーノ家を潰した無能な当主と俺を罵るのか! ふざけるな! 俺は誰にも馬鹿にされない! 俺は……俺は……」


 顔を伏せ、肩を震わせたファビオは、


「うわぁー!」


 涙でぐちゃぐちゃになった顔でリリィに掴みかかろうとした……その瞬間……


「御免!」


 後ろから歩み出た騎士がファビオの背中を斬りつけた。剣は肩口から入り、胸の半ばまで切り裂いている。


「あぁー」


 息が抜けるような声がファビオの口から漏れた。俺はとっさにユイカと浩太を抱き寄せ、見せないようにする。


「あぁー」


 ファビオは振り返り、


「おじ……なん……で……」


 斬りつけた騎士がファビオの身体に食い込んでいた剣を引き抜く。


 ゴブッ!


 ファビオの口から血が溢れでた。そして、そのまま前のめりに倒れ、それっきり動かなくなった。


----------


「リリアナ殿下、ご無事ですか!」


 そう言って、ファビオを斬り伏せた騎士の後ろからマシアスが出てきた。


「我が甥ながら、なんというご無礼を……でもご安心ください! 我が手のものにより逆賊ファビオは討ち取りましたぞ!」


 そして、振り返り!


「市民の皆さん! 逆賊は討ち取りました! どうかご安心を! リリアナ王女は無事です!」


 その声に群衆から再び歓声が上がる。

 

 この野郎……自分の甥を保身のために捨てやがったな……。目の前で人が斬り殺された衝撃もあったが、それ以上にマシアスに対する怒りが大きかった。俺は思わず前に出そうになったが、ユイカと浩太が俺を抑えた。まぁ、確かに俺では返り討ちに合うだけだけどさ。


「マシアス伯爵、ご苦労様です。ただ、王太女就任の場を血で汚した事については後ほど……」

「はっ、それは勿論」


 マシアスは女王の前に跪き、頭を下げる。

 その後ろでは騎士がファビオの遺体を片付けている。


 女王も何か考えがあったのだろうが、明らかに保身に走ったマシアスを糾弾する事もなく、事を終わらせたその様子に、俺は肩の力を抜き、騎士が抱えても、ピクリとも動かないファビオを見た。


 安っぽくて、いけ好かない奴だったが……お前も哀れだよな。結局、利用されただけか……


「リリアナ王女」

「はっ」

「もう1曲、お願いしてもいいかしら? みんなも待っているわ」


 女王は、優しい微笑みを始めて浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ