64.決意
===== Yuika =====
初ライブは成功だったと思う。
みんなもノリノリだったし。リリィも最初は恥ずかしがっていたけど、段々、リズムにも乗り、声も出るようになってきた。最後はポーズまで決めていた。やっぱりリリィには才能があるわ。
そして、これが私が初めてプロデュースした街頭ライブ。うん、満足。この調子でガンガンいこう。
「で、どうしてリリィは布団から出てこないの?」
「は、恥ずかしすぎる! 昨日、調子に乗ってあんな事を……もう、お嫁に行けない……」
「何言ってるの! あなたは、みんなの嫁なの!」
「そ、そうなのか?」
「そうよ! だから大丈夫。婚期を逃してもファンがいるんだから。あなたはファンに嫁ぐのよ!」
「それじゃ、意味がなーい!」
私は大きく溜息をつく。全くリリィにも困ったものだ。
「大丈夫よ。あなたには才能がある。それをみんなに見せるの。この国の人達の希望になるの」
「グスッ……それは王になるという事なのか?」
「違うわ。王なんていう肩書きの話じゃないの。あなたの存在が、アイドルとしてのあなたそのものが、希望なのよ」
「わ、私にできる……かな」
「出来るわ! 私が全力でサポートする」
「ユイカ!」
「リリィ」
リリィが抱きついてくる。ちょろいわね。
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私たちは泊めてもらったサラ村の村長にお礼を言い、聖地の詳しい場所を聞く。
「少しややこしい場所なので……案内を出しましょう! ちょっと待っていてください」
そう言って村長は外に出て、しばらくすると一組の親子を連れてきた。
「狩人をやっているカルリトと、その息子のカルリトスです」
父親の方がカルリト。言葉は出さずにペコリと頭を下げる。無口な人なのかな?
「カルリトスだよ。よろしく」
息子のカルリトスの方は生意気な風貌だが、ちゃんと挨拶をしてくれた。
「お二人は大丈夫ですか? 外には魔物も……」
「問題ないでしょう。親子揃っていつも狩りに出ていますし」
「はぁ……」
リリィは心配しているけど、いつも出ているんなら大丈夫じゃない?
「出発するぞ」
初めてカルリトが声を出した。うーん、渋い声。趣味じゃないけど。
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「へー、ユイカって俺と同い年なんだ。小ちゃいから年下かと思ったよ」
失礼ね。確かに平均身長を大きく下回ってますけど!
「カルリ、失礼だぞ」
「はーい」
カルリトスはカルリって呼ばれているんだ。
「カルリ、女の子の扱い方、下手ね」
悔しいから私も一言、言っておいた。カルリは一瞬真っ赤な顔をして、そのままブスッとしてしまった。怒ったかな……
「すみません。同い年の女性が村にはいないもので……」
カルリトが優しい目をしながら頭を下げた。最初の印象から怖い人なのかなって思ったけど、優しいお父さんなのかな……少し、パパの事を思い出しちゃった。
しばらく歩くと山の中に入っていった。道はちゃんとしているんだけど、分岐が多い。看板が出ているから迷わないだろうけど……なんで、こんなに分かれ道が多いのかな……。
「この辺りに昔の街があって、他の街から攻め込まれないように道を沢山作ったのです。今はもう動いていませんが、罠もかなり仕掛けられていたみたいですよ」
「へー」
歴史的な遺物ってやつね。苦手だけど……
カルリトは歩きながら色々教えてくれた。カルリトスはそんなお父さんが自慢みたいで、「うちの父さん、すげーだろう!」って自慢していた。ユイカのパパも……すごいはず。コンピュータの仕事をしていたんだけど、私はパパがどういう風に仕事をしているかはよく分からない。家ではいつもゴロゴロしているんだけどね。
「リリアナ様、ユイカ様、何か来ます!」
突然、カルリトが叫んだ。リリィはすぐに身構え、私はぼけっと立っていた。
ザザッ!
「ガー!」
草木が大きく揺れる音がしたあ、大きな呻き声が聞こえ、私たちのいた場所に黒い影が高速で横切った。
「ぐふっ!」
列の先頭にいたカルリトがくぐもった声を出して吹き飛んでいく、そして私の横にいたカルリもそれに続いて吹き飛んでいく。そのまま黒い影は私にぶつかり、
ガシュ!
という音を立てて霧散した。
「サイクロプスか!」
リリィが私の前に立ち、草むらの中を見ると、昨日見た緑の一つ目ハゲ頭が出てきた。
黒い影はサイクロプスが持っていた棍棒だったみたいだ。サイクロプスの相手はリリィに任せ、私はカルリトとカルリが吹き飛んだ方を見る。二人とも多い茂った草の中に吹き飛んでいき、様子が分からない。
「カルリトスさん! カルリ!」
大声で呼ぶけど、返事も無い。やばい! やばい! 絶対大怪我している! 慌てて吹き飛んだ方に進もうとすると、私の前に新たに3体サイクロプスが出てきた。早く助けに行かなきゃならないのに! 焦りと怒りが私の身体を熱くする。
「私の……邪魔をするなー!」
あ、あの時と同じだ……私の視界が真っ赤に染まり、サイクロプス達が炎に包まれる。あっという間に黒焦げになり、サクロプスは崩れてしまった。リリィの方を見るとリリィが相手にしていたサイクロプスの頭が吹き飛んだ所だった。
「リリィ! カルリトスさんが! カルリが!」
そこで私は目眩いを感じ、何も解らなくなってしまった……
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「…イカ……イカ」
「なーに? イカはあんまり好きじゃない……」
「ユイカ! ユイカ!」
え? 目を変えるとリリィがこちらをじっと見つめている。
「よかった。気が付いてくれて……」
「ここは?」
「聖地の中だよ」
見回すと、私が寝ていたのは、フェロリ村の物とは少し違うが、木で出来た小屋の中みたいだ。
あれ……?
「リリィ! カルリトスさんとカルリは?」
リリィが黙って首を横に振る。
「そんな……」
さっきまで仲良く話していたのに……
「そうだ。二人の身体! 二人を連れて来ればチコみたいに……」
「間に合わなかった……吹き飛んだ二人の先に崖があって……私も急いで下まで降りたのだが……すでに他の魔物に……」
リリィが顔を下げる。
「村に……せめてサラの村に……二人が亡くなった事を……」
「そ、そうだな。私が行ってくる。ユイカはまだ休んでいてくれ……」
そう言って、リリィは出て行った。
私は膝を抱え……涙が止まらなかった。知り合いが魔物に殺されてしまった。ほんのちょっと前に会った人達だったけど、私は友人だと思った。仲良くなれると思った。カルリトさん、カルリトス……良い人だったのに……ひどい……
膝を抱えて泣いているうちに、私は半分眠ってしまっていたのだろう。カルリと話をしている最中に怖い事が起こって、でも大丈夫だった……そういう悪夢を何度も見た。カルリはたまに浩太になったりパパやママになったり……そのたびに目が覚め、涙を流し……かなり長い間そうしていた。
「リリィ、遅いな?」
さすがに泣き疲れた私は立ち上がり、体を伸ばした。もう何時間くらい経ったんだろうな。戻ってこないリリィの事が少し心配になった頃に、リリィが戻ってきた。
「リリィ、遅かったね。心配……リリィ! どうしたの、その血は!」
リリィの服にべったり血のようなものが付いていた。
「ユイカ……村が……村が……」
リリィが私に抱き付き泣き崩れた。
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リリィが村に二人が亡くなった事を連絡しに戻った時、村は再び魔物に襲われていたらしい。そして昨晩と違い、今度は間に合わなかった。村で暴れている魔物を全て排除し、リリィは亡くなった人達を村長の家に集め、火を付けてきた。そうしないと、また魔物が来て遺体を食料にしてしまうからだ。リリィの服に付いていたは、村人のものだった。
「こんな事、おかしい……門と塀に囲まれた村が2日連続で襲われるなんて……」
「リリィ……」
「このままでは国が……人類が滅んでしまう。何とかしないと……」
「リリィ……リリィだったら怪我をしないじゃん。リリィなら強い魔物にも対抗できる。リリィが先頭に立って、この国を護ら無いと」
リリィは顔を上げて私を見る。そして力なく笑う。
「私の夢はお嫁さんだったんだけどな……」
そして、リリィの目に力がこもる。
「やっとわかりました。タナカ様にもらったこの力は、みんなを護るためにあるんですね。護れる力を持っているなら……それを使わないで、ただじっと隠れている様な事は、このリリアナ・ヒメノには出来ない。ユイカ! サラ村は護れなかったけど……これからも全部出来るかわからないけど……私は王になる! この国を、この世界を護る王になる! だから、手伝ってくれ! 私を……プロデュースしてくれ!」
私は涙を拭って、
「馬鹿ね! あなたは私が見つけたアイドルなの! 手伝う! 違うわ! 私に付いてきなさい! あなたをこの国のトップアイドルに! いえ、世界のトップに必ずしてみせる!」
カルリトさん、カルリ、村長さん、それにサラ村のみなさん。護れなくてゴメンなさい。リリィと一緒に……これから精一杯やるから、許してください。
私とリリィは手を取り合い、光のカーテンの中へ入っていった。
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