63.伝説の始まり
===== Yuika =====
ママや浩太と別行動となった私はリリィと聖地探しながら王都へ向かう事にしたんだ。
目的は大きく3つ。
この国の人達がどうやって生きているのかを私とリリィが知る事。
もう一つが聖地を確保してパパが帰ってきた時に生活が困らないようにする事。聖地を一つ増やすだけで、1ヶ月で使えるお金が20万エンも増えるしね。
最後に、リリィのデビューへ向けたレッスンと地方巡業。
「ユイカ様、その地方巡業って何ですか?」
「リリィは黙って私についてきなさい! まずは地方を巡ってリリィの知名度を上げないとね。いきなりメジャーデビューで売れる程、アイドル業界は甘くないんだから」
「はぁ」
「あと、ユイカ様はもうやめて。私の事はユイカ! それが嫌ならプロデューサー!」
「ええと、ユイカと呼ばせていただきます」
「あと、敬語も禁止!」
「はい……ああ、そう呼ばせてもらう……ます……ユ、ユイカ……すみません、敬語でいいですか?」
「そっちは、難しいんだったら、いいよ。そのうち慣れてね」
「はい……」
そんな事を言いながら、私たちはアラルコンを皮切りにいくつかの村を回った。
ママったら私にお金を渡すのを忘れていた!
仕方が無いので聖地の情報を聞きつつ、宿屋でリリィは歌い、私は宿のお手伝いをして、宿の隅っこに寝かせてもらうという日々を過ごした。それなりに楽しいんだけど、リリィにはまだアイドルとしての自覚が無く、恥ずかしそうに歌うのが納得いかない。宿屋のおっちゃん達にはそれが受けたみたいだが、これは特訓が必要ね。
宿屋のお手伝いは、高校生になったらアルバイトをしてみたいと思っていたので、少し早かったけどちょうどよかった。 私も財布を持っていたんだけど、日本のお金は使えないみたい。ちょっと不便。
浩太にも渡していなかったみたいだけど、あっちにはしっかりしたロラ姉がついているから大丈夫でしょう。
「次の村の近くに聖地があるって!」
リリィが歌っている間に、私は宿屋の店主と会話をして情報を入手してきた。どうやらこの先のサラという村から半日くらい山に入った場所に聖地があるらしい。
「とりあえず、サラに行ってみましょう!」
「はい」
そして、小さな村サラに到着した……村は魔物に襲われていました!
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「リリィ!」
「はい!」
村になだれ込んでいる狼の群れを見つけ、私は声を上げた。狼の大きさはマチマチ。そして狼を率いている棍棒を持った緑色の巨人がいた。巨人はすでに村の中に入り込んでいる。
私とリリィは駆け出す。早く助けないと!
「うおりゃー!」
私はちょっと怖かったけど、狼の群れの中に突っ込んでいく。空飛ぶ怪獣に咥えられた時と比べれば何てことは無い。そして私が攻撃してもダメージは与えられないけど、狼が噛み付いてくれれば、勝手に倒れていく。
「リリィは村の中を!」
「はい!」
群れに飛び込んですぐ、数匹の狼が頭を吹き飛ばして倒れた。それを見て、狼は私を囲んだ。
「怪獣よりは怖くない! 怪獣よりは怖くない!」
じっと我慢しながら噛みついてくる狼に耐える。
ガブ!……ブシュー!
ガブ!……ブシュー!
ガブ!……ブシュー!
噛み付くそばから、狼の頭が吹き飛ぶ。地面には血が広がるが、私は全く汚れない。便利な仕組みだ。そうこうしているうちに私の周りには首の無い狼が転がっているだけになった。
「リリィ!」
もう狼がいない事を確認して私は村の中へ駆け込んでいく。
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村の門から入ると、いくつかの建物がバラバラになっている。これ、犠牲者が出てなければいいんだけど……。
「リリィ! どこ!」
「ユイカ! こっちです!」
私は声のした方へ駆けていく。
「リリィ!」
「あとはこいつだけです」
リリィの周りにも首の無い狼が、私が倒した奴よりもグロい感じで転がっている。キモ……って考えるのは後回し。リリィは、緑色の肌でハゲ頭、一つ目の顔の棍棒を持った巨人と向き合っていた。
「リリィ、大丈夫? あれ……リリィは武器を持っていなかったっけ?」
「武器はタナカ様と移動中に壊れました。でも大丈夫です。私の場合、武器は飾りです」
リリィがこちらを向いて答えた瞬間、巨人の棍棒がリリィに襲いかかる。
「リリィ!」
「どっせーぃ!」
リリィが棍棒を腕で受け止め……棍棒が爆発した。
「ぐもー!」
巨人は棍棒の残りを投げ捨てた後、低い声で雄叫びをあげリリィに殴りかかり……腕が吹き飛ぶ。
「がー!」
それでもしつこく残った腕で殴りかかり……やっぱり吹き飛ぶ。
「さぁ来い!」
リリィが挑発をすると、巨人は身体をそらし大きく頭突きを……そしてお亡くなりになりました。えーと、ちょっと説明したく無い光景だ。
「ユイカ! そっちは?」
「こっちも似たような感じ。全滅させたよ。ちょっと反則だよね。こういうの……」
まぁ、人助けが出来て良かった。
「村の人は?」
「まだ誰も見てません」
「みんな逃げちゃったのかな?」
「おーい!」
リリィとそんな事を話していたら、遠くから声がした。
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少し待っていると、バラバラと人が奥から出てきた。
「大丈夫ですか?」
「はい。こちらは大丈夫です。お二人は……大丈夫のようですね。一体どうやって……」
「えへ、それは聞かないでください」
どうやら村の人は無事だったようだ。説明を求められても困るので誤魔化しておく。
「お陰様で助かりました。門を破られる前に反対側へ避難していたので、こちらの犠牲者は出ていませんが、お二人がいなかったら、きっと追い詰められていました……」
「本当にありがとうございます」
「命の恩人です」
青ざめた顔で村人たちは口々にお礼を言ってくれた。私はそっとリリィを前面に出し、
「あ、こっちの人、リリアナ・ヒメノって言います。この人が頑張りました! そして、今度、王様になるかもしれない人です」
「王太女殿下? あれ、王太子じゃ……」
「なんかよくわからないんですけど、王都に戻ったら順番が変わってそういう事になる……みたいな?」
リリィが私の袖を引っ張り小声で……
「ユイカ、その話は秘密に……」
「これもプロモーション! 売り込める時に売り込まないと!」
リリィを無理矢理納得させた。
「なので、皆さん、リリィを応援よろしく!」
敏腕プロデューサーとしてはリリィを売り込む機会は逃さないのだ。
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「あのサイクロプス……」
一つ目の怪物はサイクロプスって言うらしい。現在、村長さんに事情を聴いている所。
「……が、突然突進してきて、門に体当たりを仕掛けたのです。門は閉じていたので大丈夫かと思っていたのですが、とうとう門ごと壊されてしまって……」
「本当ですか? 門は壊れないはずでは?」
「そうなんです。この村も歴史だけは長く、これまでにそんな事は一度もありませんでした」
「まずい……」
リリィが下を向いてブツブツ考え出す。
「リリィ、どうしたの?」
「タナカ様やユイカ達を聖地へ呼び寄せた孫神様がおっしゃっていたのだが、魔物がこれからも強くなり、やがて門や塀、それに聖地の結界すら破壊する様になると言っていた……」
「それじゃぁ」
「急がなければ、他の村でも……」
その話を聞いて村長も青ざめる。
「そんな事になったら、私の村……いや、この国、それどころか世界が滅びてしまいますぞ!」
「ああ。そうならない様に、救世主様がこの地に降臨されたのだが……」
「どうかリリアナ殿下、その力でこの国を守ってください」
「え、あ、あ、わ、私がか?」
「はい、先ほど、サイクロプスを屠ったそのお力があれば、魔物達も迂闊に襲っては来ますまい」
「そうだ! リリアナ殿下が王位に付けば!」
「そうだ! そうだ! 俺たちを守ってくれ、リリアナ姫!」
「私たちサラ村は、リリアナ様に忠誠を誓うぞ!」
「この国をまとめてくれ!」
村長の言葉に周りで見ていた村人達が口々に喚き始め……とうとうひれ伏してお願いし始めた。やれやれ、みんな大袈裟なんだから。それにここはそういうノリじゃなくてさ……
「村長さん、リリィが歌うから、聞いてくれる?」
「う、歌ですか?」
「へ? ユイカ、突然何を?」
リリィの疑問は無視して……
「そうね。場所は……ここで十分! デビューしたてのアイドルに会場を選ぶ自由なんてないわ。村長さん! ここにいるのが村人全員?」
「はい、ほぼ全員が集まっています」
「みなさん、聞いてください。これから、我らが歌姫リリアナ・ヒメノのライブを始めます!」
「はぁ」
「リリィ、さぁ歌いなさい! あなたはその声でみんなの心に勇気と希望を届けるの! あなたの! その声で! その歌で! その踊りで!」
「は、はい!」
リリィの目がぐるぐる回っているような気もするが、気にしない。
「さぁ、この地から伝説が始まるのよ! 武道館に向かって!」




