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61.お母さん

===== Kota =====


「それでは浩太殿、我々は別ルートで行きますか」

「はい! あと、ロラさん。浩太殿はやめて。浩太でいいよ」

「そうですか。それでは私の事もロラと読んでくれ」


 お母さんを見送ったあと、お姉ちゃん達とも分かれた。お姉ちゃんは、リリィと一回、さっき出てきた街へ戻るみたいだ。家族がバラバラになっちゃったけど、お父さんとチコを救うためなので、僕は頑張ろうと思う。


「ミントはカゴに乗って」

「はーい」


 ロラの馬は大きいので、踏み潰されないようにミントを自転車に載せ、僕は全速で自転車を漕ぐ。お父さんが体力の設定を変えてくれたので、自転車にずっと乗っていても疲れないので、楽チンだ。


「このスピードで走ったら、どのくらいで王都に着くの?」

「そうだな。この速度だったら、4日くらいで着くんじゃないか」


 よーし、ひたすら自転車を漕ごう。待っててね。チコ……あと、お父さん!


----------


「ロラ、お腹減ったね」

「コータ、お腹減ったな」


 肝心な事を忘れていた。

 僕はこの世界のお金を持っていない。

 ロラは、自分の部下にお金を預けていたので、お金を持っていない。


「コータ、ロラ! あっちに何かいる!」

「よし、行ってみよう!」


 食べられそうな生き物を探していたミントが戻ってきた。


「あれかー」


 そこには、バスよりも大きいサイズのシマシマ模様の兎がいた。


「コータ、あれはうまいぞ! シマ兎だ!」

「おいしいの!」

「ああ、シマ兎のステーキは最高だ!」

「ロラ、頑張って!」

「え、私一人だとさすがに、あの大きさは無理だぞ」

「ええー、誰が倒すの?」


 ロラと僕は顔を見合わせる……


「コータ、ロラ! 僕が行ってくる!」


 ミントがシマ兎に向かって駆け出した。


 ガブッ!


 ミントが噛みついた。

 シマ兎は反応しない。


「どうだ! こいつめ!」


 もごもごとミントが叫んでいるが、シマ兎は全く動かない。しばらくしてミントが口を離した。


「どうだ! そろそろ参ったか!」


 シマ兎にその声が届いたのかは知らないけど、後ろを向いてピョンピョン……じゃないな、ドスンドスン跳ね、行ってしまった。


----------


「お腹すいたね、ロラ」

「ああ、すいたな……コータ」

「僕もペコペコ」


 僕とロラとミントは前へ進みながら、ブツブツ言っていた。これじゃ、王都に着く前にお腹が空きすぎて死んでしまいそう。それでも一日中自転車を漕ぎ続け、僕たちは小さな街に着いた。


「どうしよう、食事をするにも泊まるにも、ご飯が無い!」

「コータ、僕が喋るので、横で立っていてね」

「え、何をするの?」

「いいから、絶対、喋っちゃダメだよ!」


 そう言ってミントは街の真ん中にある広場で、


「さぁさぁ、よってらっしゃい、みてらっしゃい。天才腹話術師のコータが皆様に奇跡の腹話術をお見せするよ」


 と、突然大声をあげた。僕は隣でじっと黙っていると、広場にいた子供が寄ってきた。


「わーすごい! 本当に犬が喋っているみたい!」

「ほーら、僕がしゃべっているみたいだろ! 計算だってできるんだよ! 1+1は?」


 ミントはそう言って、答えの所だけ「ワン」って吠えた。


 そのうち、広場にはどんどん大人が集まってきて、それを見たロラが持っていた兜でお金を集め始めた。こうして僕らは、その日のご飯代と宿代を手に入れたんだ。


「大道芸の集金係りなど……王族の仕事では絶対に無い……くっ」


 って、ロラは言っていたけどね。


----------


 その後に寄った街でも同じようにお金を集め、宿代をゲットした。そして、ロラの言った通り、4日目には王都についた。自転車は門のかなり手前の方に隠して、僕はミントを抱きながら、ロラの後ろに載って門へ近づいていく。


「このまま、王宮があるセグンダまで行こうと思う」

「うん……途中で止められたりしない?」

「大丈夫だ。私の顔はそれなりに知られているので、早々、私を止める奴はいないだろう。コータも後ろで堂々としていろよ」

「わかった」


 王都の門がはっきりと見えてから、ロラはゆっくりと馬を進めていった。最初の門に黒い鎧を着た兵士がいたけど、ロラが通るとき挨拶だけして、特に何も言われなかった。


「ここから、まだ時間がかかるから……辛抱しろよ」

「大丈夫」


 ロラは体が大きいから、前が全然見えないって行ったら、ロラの体の前に僕が乗るように変えてくれた。周りの景色がはっきり見える。門をくぐるたびに、どんどん人が増え、大きい建物も増えてきた。


「次の門でセグンダを超える。王宮だぞ」


 ロラが僕にそういった瞬間、正面からきた馬車に声をかけられた。


「ロラ殿下!」


 チッ。


 ロラの舌打ちが聞こえた。


「ロラ殿下の勇姿が、セグンダの門から見えてましたのよ」

「私が大きいと言いたいのだろう」

「そんなことはありませんわ。ロラ殿下が戻られたとあって、急いで準備をしてきましたの。本当にいつ見ても凛々しいお姿……」

「どうせ私は女らしくない」

「女性らしさなんて、ロラ殿下には不要ですわ! そのお姿こそが、まるで……」

「もうやめてくれ」


 馬車の中には、お姉ちゃんと同い年くらいの赤毛の女の子がいた。その子は一生懸命、ロラを褒めているんだけど、ロラはとっても居心地が悪そうだ。


「あ、す、すみません……私ったら、いつもロラ殿下の……あら、その男の子は?」


 ようやく、ロラの前に座っている僕の事にも気がついたみたいだ。


「なぜ、あなたはロラ様に抱えられていますの? 私ですら、そんな羨ましい事をしてもらったが無いのに……」

「え、ああ、僕は……」

「ロラ殿下、その子は何ですの!」


 突然、女の子の表情が豹変した。目もつり上がって怖い……僕の事を無視したし、ちょっと悪戯してやれって思って、


「お母さん、この人誰?」


 って言ってみた。


「お、おか……」


 ロラの顔が真っ赤になって、何だか動きがおかしくなった。そして、


「おかーさん! ママ! 母親! キー!」


 馬車の中の女の子もおかしくなって、


「戻りますわよ! こんなこと、していられないわ!」


 そう言って、元来た道の方へ戻って行ってしまった。ちょっとヤバかったかな。ねぇ、ロラさん? あれ?


「ロラ? ロラ?」

「え、は、はゅい、なんでちゅか、私の坊や……」

「え?」

「え?」


 ぐるぐる回っていたロラの目が戻ってきた。


「ん、んん」


 少し咳き込んで……。


「コータ、次からはせめて、お姉さんと言ってくれ」

「はーい」


 ロラの反応も面白いので、またやってみよう。

熊本で被災された方、心よりお見舞い申し上げます。

次話は月曜更新です。

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