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<王国編> 7. 暗躍する者

 ファビオがアニアを引き連れフェロル村に出立した数日後、マシアス商会を所有するマシアス伯爵は、王の典礼を取り仕切るエロイ・カニ司教の邸宅を訪問していた。


「これはマシアス伯爵閣下、突然の来訪という事で何も準備が出来ませんでしたが、どのようなご用件でしょうか?」


 エロイは、どちらかといえばマシアスと敵対する陣営の一人である。マシアスが訪ねてくるような親しい間柄では無い。


「救世主様はファビオ殿下が王都へお連れします」

「ほう……」


 そう断言するマシアスに、エロイの顔付きが変わる。


「ファビオ殿下は確か、王都内の聖地を担当されていたのでは? それが先日、騎士団を連れて出立したと噂をお聞きしていましたが……」


 エロイが独自の情報網を持っている事をほのめかす。


「そうです、救世主様をお迎えするために、ファビオ殿下は出立されました」


 これは明らかなルール違反である。王命では、救世主が現れるまで指定された聖地にて待ち続ける必要があったのだ。だが、エロイもその事については、特に指摘はしない。どこの陣営も多かれ少なかれ、同じような事を考えていたからだ。


「それで、私にどういったご用件で?」


 エロイは改めて切り出す。


「王都へ迎え入れた者が王となるよう、神託が降りています」

「そうですね。極論になりますが、誰が迎えに行ったかのではなく、救世主を連れて最初に陛下の前に立った者が次代の王と言う事ですね」

「その通り!」


 エロイの言葉に、マシアスは身を乗り出した。


「私は、ファビオ殿下が救世主を連れてくる事を、ここでお約束いたしましょう」


 ようやくマシアスは本題を切り出す。


「そこでお願いなのですが、ファビオ殿下が到着次第、中央広場に貴族や市民を集め、衆目のある中で陛下に謁見できるよう、典礼の調整をお願いしたいのです」


「陛下が口を挟めないようにする……という事ですね」

「議会工作はある程度進めていますが、陛下や他の王族、貴族をけん制するためにも、衆目のある中で……というのが大切になってくるでしょう」


 エロイは少し考え、


「わかりました。謁見については私が調整しましょう。但し、私がマシアス卿に協力するのは、ファビオ殿下が救世主を手に入れてからになります」

「もちろん、それで結構。殿下から連絡があり次第、お伝えしましょう」


----------


 マシアスは商会の力も使い、確実に議会工作を進めていた。

 だが、なかなか救世主は現れず、神託そのものに疑いが持たれ始めたある日。


「マシアス卿、それは本当なのか?」


 急遽、開催した晩餐会に協力者を集め、そこでファビオが救世主を引き連れ王都へ戻って来る事を伝えた。

 

「おめでとうございます」

「これでマシアス家は王朝の血筋という事になりますな」


 マシアスの席にワインを片手に次々と貴族達が集まる。

 そして、その場にはエロイも参加していた。


「王都への到着は何日頃になりそうですか? 中央広場での準備も必要なので……」

「2週間程度はかかると思います」

「日程を調整してもらう事は可能でしょうか?」

「そうですね……謁見の日を先に決めてしまい、それまでは我が屋敷の一つで一時的に待機してもらうというのはどうでしょうか?」


 マシアスとエロイの間で調整を行った上で、余裕を見て20日後に謁見を行うという事になった。


----------


 オーレンセから逃げ出す事になったファビオが、通信士を介してマシアス商会へ連絡してきたのは、その二日後だった。


「卑怯な罠にかかり、救世主様をリリアナに奪われました」 


 そもそも、リリアナからファビオが奪ったのだが、報告では自分に非はなく、卑劣な手段を使うリリアナが悪い……という自己弁護の塊だった。


−− どう言い繕うと、失敗したのだろう。


 マシアスはそう感じていたが、それを口には出さずに、


「まだ、チャンスはあります。可能な限り早く王都へ戻れるようお待ちしております。18日後に陛下との謁見を予定していますので、必ず、その前までにはお戻りください。救世主の方は必ずこのマシアスが何とかします」


 ここまで来て、諦める訳にはいかない。そういう思いから、マシアスはファビオに必ず帰還するよう丁重い伝える。


−− 途中から内陸に入っても……馬を乗り継いで早くて2週間、オーレンセから内陸を通ってくるリリアナ達は、10日前後か……


 マシアスは心の中で、こう計算をすると、


「少し出かけてくる」


 そう家中のものに言い残すと、護衛の騎士だけを連れ、何処ともなく立ち去っていった。


----------


「こんな時間に突然、何の用でしょう? まさか、もうファビオ殿下が到着でもしたのですか?」


 マシアスが訪ねたのは、同陣営に初期から抱き込んでいる軍団長のブランケルの邸宅だった。


「どうやら、そちらからお借りした部隊が失敗したようでして、その埋め合わせという訳ではありませんが、また、軍の力をお借りできればと……」


 ファビオの到着には間に合わない、その隙間を埋めるためにも王都に先に到着するリリアナと救世主一行を強引に拉致する必要がある。そう考えたマシアスはブランケルを利用し、強引に軍を動かす準備を始めた。この時点では、まだ10日ほどの余裕があるという計算をしていたため、焦る必要は無いはず……だった。


 その4日後。マシアスの元に、間も無くリリアナ達が到着する……という連絡が入り、マシアスは駆け出した。


「な、何です? そんなに急いで……」

「ぜー、ぜー、ぐ……軍を……軍を……急いで……」


 日頃の贅沢のせいで、大きく膨らんだ身体を持つマシアスが、リリアナ到着の報を受けて、軍団長のオフィスまで全力疾走したのだ。だが、この走りが功を奏し、リリアナ達が王都の外周壁ノベナに到着する直前に門の周囲に部隊を配置する事が出来た。それに少し遅れてマシアス伯爵家の騎士団も展開する。


「クロロ神殿って、この辺りですよね?」


 門の前で展開した部隊長に、リリアナは王命で王都まで救世主を連れてきた事を説明し、こう質問をした。


「ああ、そうです。詳しく説明しますね……あ、お前ら、もういいぞ。この方達は問題無い。詰所に戻ってリリアナ殿下が来た事を報告しておけ」


 部隊長は自分の部下にそう指示を出し、リリアナに神殿の場所を少し時間をかけて説明した。

一週間更新をお休みさせていただき、第1章から第5章まで全て改稿しました。

詳細は活動報告にて。

そして、第5章はこの話で終了です。

次話より王位継承編の最終章となります。

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