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51.聖地イエーロ

「すまない。救世主様たちの会話が、理解できないのだが……」


 ユイカを叱った後、俺はロラに謝る。


「忘れてください。娘が暴走しただけですので……」

「多分、ユイカ様は、ロラ姉様もアイドルとしてデビューさせようというお考えの様です」

「アイドル? アイドルというのはなんだ?」


 話を反らせようとしたのに、リリィがぶり返してしまった。

 しかし、リリィが「ロラ姉様」と呼ぶごとに、口許が緩むのはなんなんだろうな。


「やっぱり、ロラ姉様もアイドルに興味ある! そうだよね! 絶対、そうだよね! 私も見る目あるなー。絶対、ロラ姉様はアイドル向きだと思うんだ。何色の担当にしようか? 長女だから赤? でも、背が高いからセンターは無理だしな……青はリリィにしちゃったから……うーん、どうしよう。ロラ姉様はどうしたい? 痛い!」


 もう一度、ユイカにゲンコツ。

 アイドルとなった瞬間に暴走するのはやめてほしい。


「アイドルというのは、どうやら可愛い衣装を着て、舞台の上で歌ったり、踊ったりするみたいです」

「か、可愛い衣装だと! ふむふむ」


 暴走したユイカを他所に、リリィとロラが話し込んでいる。しかも、ロラも食いつき君だ。この国の王族は大丈夫なのか?


「あのー、それでご挨拶も済みましたので、私達はそろそろ……」

「あ、すまない。引き止めるつもりはなかったのだ。私も聖地で待っていたところ、救世主降臨の連絡を受けて、引き上げている所だったのだ。そこに救世主様を伴ってリリィが来たというので、つい好奇心が勝って、お顔を拝見したくなってな」


「ロラ様、ご任地はこの近くだったのでしょうか?」

「ああ、私達は昨日、救世主様降臨の報を受けたのでな。今朝、聖地は出立したばかりなのだ」

 

 それはいい事を聞いた! 


「少し戻る事になりますが、聖地があるというのであれば、私達は、その聖地に立ち寄らさせていただきます」

「えー、戻るの?」


 ユイカは黙っててくれ。収入アップのチャンスだ!


「聖地には光のカーテンがあるだけで、何も無いぞ?」

「はい。私達は、光のカーテンの中に入る事が可能です」

「なんと!」


 まだ、救世主が現れていないのなら間に合う。ゲットすれば月額20万エンの増収だ。


「それなら、私も一緒に行こう、是非、その姿を見て起きたい」

「え、そ、そうですか。解りました。もしかしたら、中に入れない場合もありますので、その点はご了承ください」


 付いてきても意味が無いかもしれないと伝えたい。王族は暇なのか?


「移動ですが、先ほど私が乗ってきた自動車というもので、移動したいと思いますが……すでに満員でして、ロラ様が乗る事が……」

「それは気にする事は無い。私の騎馬もあるので、私はそれで行こう」

「馬ですと、付いてくるのは難しいと思います」

「大丈夫だ。私の愛馬は特別製でな。私を乗せても一時間くらいは全速で走らせられる。ここまでは他の馬に合わせてノンビリと移動してきたが、聖地まで40分もあれば着く事ができるぞ」


 断れなかった。


「それでは、ロラ様だけが、聖地まで戻るという事でしょうか?」

「そうだ。私一人で行く。騎士団は先に進ませよう。何、私がいなくてもこの人数だ、魔物に遅れをとる事はあるまい」


「わかりました、ロラ様一人であれば、招待させていただきます」


 まぁ、仕方が無い。この先の事を考えると、友好関係を結べそうな王族の信頼は取っておいても問題なかろう。


「おお、そうか。それならすぐ用意する。その自動車とやらで、待っていてくれ」


 そう言って、颯爽と馬車から降りてしまった。馬車の中が途端に広くなった気がする。


----------


 車に戻り、ひとえに事情を説明していると、馬に乗ったロラが近づいてきた。


「え、えーと、それは馬ですか?」

「ああ、私の騎馬だ。名をコロナと言う。良い名前だろ」

「え、ええ……」


 俺が知っている馬とは明らかに大きさが違うし、頭部にツノが2本ある。


「リリィ、この世界では、あれが一般的な馬か?」

「そうですね……馬も魔物の一種ですので、大きいものは3階建ての建物くらい……」


 馬も魔物なんだね。もういちいち気にするのを止めよう。


「それでは、ロラ様、大変申し訳ありませんが、先導をお願いします」


 車を転回し、ロラの後を追って30分ほど走り、途中で左側の小道に入った。少し道が狭くなる。さらに10分ほど走ると、これまでの潅木地帯とは違い、鬱蒼とした熱帯雨林のような植物が生い茂る森に入った。


「ここからは結界内なので、魔物は出ない」


 また上からスライムが落ちてくるんじゃないかと焦ったが、ロラの説明で、安心する。森の中を車で2分ほど走ると、大きな石造りの建物が出てきた。森に囲まれ、建物にはツタが沢山絡んでいる。街道から入ってすぐだったけど、秘境というイメージだ。


「ここが、聖地イエーロだ」


 ロラが馬を繋ぎ、建物の中に案内してくれる。


「ずいぶん大きな建物ですね」


「ああ、昔、この近くを治めていた領主が作らせたらしい。そいつは、街を囲んでいた石の塀も材料にして、これを建てようとしてな。聖地を守るこの建物が完成してすぐに、街は魔物に滅ぼされた……そういう馬鹿みたいな逸話が残っている。かなり昔の事なので、本当の事かは解らないがな」


 へー。


 中はガランとした広間になっていて、所々の隙間から光が差し込んでいたが、全体的には薄暗い。壁際にあるランタンにロラが火をつけてくれた。


「光のカーテンはどこにあります?」

「ああ、正面に木の扉があるだろう。あの奥が光のカーテンになる。早速、行ってみるか」

「ええ」


 広間の奥には3段しか無い下りの階段があり、その向こうに木の扉があった。

 俺は、木の扉を引き、その向こうにある光のカーテンを確認する。


「それでは、最初に私が入りますね。問題なければ、すぐ戻ってきます」


<< sudo chown -R gw_hierro_01 kazuto.tanaka >>

<< イエーロ用ゲートウェイ 01、オーナー変更を実行しました >>


<< sudo chgrp -R gw_hierro_01 grp_tanaka >>

<< イエーロ用ゲートウェイ 01、グループ変更を実行しました >>


<< sudo chmod -R 710 gw_hierro_01 >>

<< イエーロ用ゲートウェイ 01、権限設定変更を実行しました >>


 20万エン、ゲットしました!


 すぐに元いた場所に戻ろうとすると、


<<遷移先を選択してください 1.gw_oxígeno_01, 2.gw_carbono_01, 3.gw_hierro_01>>


 やっぱり選択肢が増えている。これも予定通り、完璧だ。3をイメージすると、先ほどの小さな階段の下に出る。


「大丈夫でした」

「やったー、トイレー」


 ユイカ、浩太、ミントが光のカーテンに飛び込む。


「よかった、お風呂に入れる」


 続いて、ひとえも中に入る。


「それではロラ様、中へご案内しましょうか?」

「本当に中へ入れるのだな。た、頼む」

「えーと、中に入るには、私と体を密着させる必要があるのですが……」

「ああ、そんな事なら気にするな。どうせこの体格だ。救世主様も、女を感じる事など無いだろう」


 体格というより、甲冑を着ているから感じようが無いんだけどね。


「それでは……あれ?」


 腰というより身長差があるので、尻のあたりを抱いて、中に入ろうとするが、妙な抵抗があって進めない。


「おかしいな」


 もう一度、前よりも腰を強く抱きしめ、光のカーテンに入る……が入れない。


「ちょっと、リリィでやってみよう」


 リリィの尻……じゃなく、腰を抱き、光のカーテンをくぐる……すんなり入れた。

 光のカーテンから、向こう側へ顔を出し、ロラを観察する。


「違いは何でしょうね……リリィはすんなり入れましたので……」


 ロラを上から下へ観察し……


「あ、もしかしたら……ロラ様、剣を置いてもう一度やってみていただく事は可能でしょうか? 」

「いや、構わない。ちょっとリリィ、手伝ってくれ」


 そう言い、背中に固定していた剣をリリィに外してもらう。


「それではもう一度、行きましょう」


 ロラと一緒に、光のカーテンへ入る……さっきより抵抗は減った気もするが、やはり中に入る事が出来ない。


「やはり帯剣していたのも要因のようですが……他に武器になるようなものはありますか? あと、甲冑を脱ぐ事は可能でしょうか?」

「わかった甲冑を脱ごう。武器もナイフが仕込んであるが、一緒に外そう」


 なんの照れもなく、リリィに手伝ってもらいながら、甲冑を脱ぐ。甲冑の下は、厚手のワンピースのような服装だった。タイツのようなものも履いていたので、これなら、そんなには恥ずかしくは無いだろう。良かった。


「それじゃあ、もう一度、行ってみましょう」


 甲冑越しでは無いロラの体温と意外な柔らかさに驚いている事が顔に出ないよう、光のカーテンの中に入った。ロラが少し、顔が赤くなっていたのは、光の具合だったのだろうか……

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