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50.新たなる王族

 休憩の間、落ちたバギーの残骸から使えるものは無いかを確認する。

 燃料や食料は車に積んでいたので問題なかったが、予備の弾薬は燃えていた。まぁ、落下の衝撃で小銃もダメになっていたから、使えないのだが……そして、あれだけの衝撃にも関わらず、ひとえに預けてあった刀は無事だった。


 『夜のモノ』の喉に、ひとえが切込みを入れた時も、あっさりと刃を入れていた。この刀には何か特殊な力があるのかもしれないな……。


 30分ほどの休憩で、ひとえが回復した。ユイカは、後部座席に移動させ、出発する事にしよう。


「かなり狭くなるけど、バギーは壊れちゃったので、車にみんな乗りなさい」


 ユイカが寝ている後部座席に、浩太とチコが乗り込む。これでもかなり狭い。チコと密着する事になったので、浩太の顔がはっきりとわかるくらい真っ赤になっている。


「ひとえは助手席、リリィはどうする……天井の荷物に腰掛ける?」

「え、タ、タナカ様……掴まるところがありません!」


 冗談だよ。


「リリィ、走れるか?」

「距離的には行ける気もしますが、追いつけないと思います」


 うん、追いついたら怖い。


「私がハコ乗りするわ」


 ひとえが提案する。


「私がハコ乗りすれば、大丈夫じゃないかな」

「ハコ乗りですか?」


 具体的に見せた方が早いと、リリィを助手席に座らせ、ひとえが運転席側の窓から身を乗り出し、窓枠に腰掛けた。これ、別に運転席側じゃなくてもいいよね。そこそこ、足が邪魔だよ。日本だったら即止められるね。


「それじゃ、スピードは抑えめに……」

「飛ばしていいわよ。どうせ落ちても怪我はしないし」


 確かに。あの高さで落ちてもかすり傷一つ負っていないのであれば、振り落としてしまう事は気にしなくてもよさそうだ。


「それなら私も『ハコ乗り』した方がいいですね。全方位を確認できそうですし、これなら空から不意に攻撃を受ける事がなくなります」

「それでいこう。じゃあ、浩太、助手席に座っていいよ。これで広く使えるな」

「え、あ、うん」


 車の中は広くなるし、周囲の警戒も二人でフォローしあう事ができるので、完璧だ。疲れた場合には車を止めて休憩すればいい。


 浩太だけが残念そうな顔をしていた。女の子の温もりを感じている時って、ドキドキするんだよね。懐かしいなぁ、そういう気持ち。お父さんは、もうずいぶん遠くに来ちゃったよ。ひとえの足がガッツリと俺の身体に当たっているが、ドキドキは、もうしないもんなぁ……。


----------


「タ、タナカ……タナカ様、も、もう少し……そく……速度を……」


 オフロード対応の四輪駆動と言っても、本格的なものじゃないしな……整地されているとはいえ、舗装されていない街道は、それなりの凹凸がある。速度を上げたので、振動がかなりのものになってきた。シートベルトで体を固定していないので、かなりキツイんじゃないだろうか。


「リリィ、喋るな! 舌を噛むぞ!」

「は、は……」


 ちょっとだけ車が浮いた、


「ひぃぶっ……」


 はひぃぶ? あ、着地の衝撃で舌を噛んだな。表情が見えないけど、おとなしくなった。浩太が下から見上げて、何も言わなかったので、放っておいても大丈夫だろう。防御力が高い場合、自分の歯で舌を攻撃したらどうなるんだろう……というのが実践できてよかったな。


 運転しながら、脳内で計算してみる……


 仮に、舌の防御力を100、噛む力を1とすると……


 舌への攻撃: 

 舌の防御力(100) − 歯の攻撃力(1) = 余った防御力(99)


 歯への反撃:

 歯の防御力(100) − 余った防御力(99) = 余った防御力(1)

  

 お、結局、普通に噛んだのと同じ事で、噛まれた舌が痛いと言う結論になるのか。可哀想に……


 そのまま3時間くらい走った頃。


「前方、人らしき集団!」


 ひとえが警告を発した。


 すぐに俺の目にも街道上に人を乗せた複数の馬影が見える。かなりの大部隊のようだ。俺は車の速度を少し落とし、様子を窺いながら進む事にした。


「隊商……では無いですね……旗が見えます。どこかの騎士団みたいです」

「出来るだけ刺激しないように通過しよう」


 そのまま、街道を進む。騎士団とは進行方向が同じようだ。

 こちらのエンジン音に気がついたようか、騎士団が停止し、こちらに向かって……


「あれ、戦闘準備をしていないか?」

「そう見たいですね」


 慌ただしく部隊を展開している。


「タナカ様、1回止まりましょう。私が行ってきます」

「大丈夫か?……まぁ、怪我をする心配は無いか。すまんが、頼む」


 俺は徐行しながら近づき、騎士団の100m程手前で車を止めた。リリィが車を降り、ゆっくりと騎士団に近づいていく。パッと見て、100人近い部隊なんじゃないだろうか……


 リリィが騎士団に近づいた所で誰何されたようだ。何かやりとりがあって、しばらく待っていると……お、隊列の奥から誰か出てきた。他の兵士と比べて身長が高い。リリィと何かを話していて……話がまとまったのだろうか、リリィが戻ってきた。


「タナカ様、先方の騎士団は、王族のロラ・モラン様の迎賓部隊との事です。救世主様をお連れしているという話をしたら、是非、お目にかかりたいと……」

「大丈夫なのか? ファビオのような事になるんじゃないか?」

「私も先ほど初めてお会いしましたが、大丈夫だと思います。巷では剛の人として有名な方ですし」

「さっき出てきた背の高い人かな? 女の人だったの?」

「はい、身体は大きいですが、一目見れば女性だとわかりますよ」

「そうか……」


 リリィがそう言うなら、会ってみるか。


「ひとえはどうする?」

「ここで待つわ」


 即答された。

 確かに何かあったら、ひとえの出番になる。


「私がついていってもいい?」


 ユイカが降りてきた。上空から綱なしバンジーをした精神的なダメージから回復したのだろうか。


「うん、パパ。もう大丈夫。ずいぶん寝てたから、すっきりした」


 それじゃ、俺とリリィ、ユイカで行こう。

 俺は、リリィを先導させ、騎士団を刺激しないようにゆっくりと車を走らせ、30m程手前で止めた。


「それじゃあ、ひとえと浩太、ミントで油断しないように待っていてくれ」

「はーい」


 浩太がいい返事。


「リリィとユイカがいるから大丈夫だと思うけど、気をつけてね」

「ああ、大丈夫。何かあったら逃げてくるから」


 俺をひとえと交代し、外へ出た。


----------


 俺達は隊列の中ほどに停まっている大きな馬車の中に案内された。


 そこには、一人の甲冑を着た背の高い女性が待っていた。腰をかけるように促され、女性の前の椅子に3人で腰を下ろす。


「ロラ・モランだ」


 ロラは、巨漢に似合わない、優しい目元に柔らかい表情、小さな口、赤毛にそばかす。背の高さを除けば、編み物が似合いそうな風貌だった。確かに、一発で女性と分かるな。声もとても可愛らしい女性だったが、さすがに、この大規模な騎士団を率いる王族だ。


「タナカです。こちらが娘のユイカです」

「ユイカです」


 二人で頭を下げる。


「して、そなたらが聖地に現れた救世主様という事なのか?」

「はい。私達が救世主というのは、よく解りませんが、皆さんが聖地と呼ばれる場所から出てきたのは事実です」

「そうか……」


 そして、リリィに視線を向けると、


「リリアナ殿、おめでとう。そちが今回の任務を無事果たせた事を、心から祝福する」

「ロラ様、ありがとうございます」

「ロラ様はやめてくれ、私達は同じ王族同士だ。それに、私は、かしこまった事は苦手でな。剣を振り回す事にしか能が無い、剛の者だ」


 俺は必死に笑いをこらえる。ユイカも顔が真っ赤だ。

 大きさはともかく、可愛らしい女の子としか言えない顔付きなのに、「剛の者」と一生懸命言っている姿が、健気で笑いを誘ってくれる。


「はい、それでしたら、ロラ姉様と呼ばさせていただきます」


 ぼっと火をつけたように……という表現がぴったりなほど、リリアナの一言で、ロラの顔が真っ赤に染まった。


「そ、そうか。それなら……遠慮せず……姉と慕ってくれていい。わ、私も……リリアナ殿……いや、リリアナと呼ばせてもらおう」

「親しい人達は、リリィと呼んでくれます」

「リ、リリィ……私もそなたを妹と思って接しよう」

「はい、ありがとうございます。姉様(ねえさま)


 なんだ、この猿芝居。

 突如始まった、安っぽいやりとりに、唖然としていたら……


「す、素晴らしい! 素晴らしいわ、リリィ!」


 ユイカが騒ぎ出した。何か、ツボにハマったんだろうな。


「ロラさん、いえ、私もロラ姉様と呼んでもいいですか?」

「え、あ、ああ」


 ユイカの突然の申し出に、ロラも思わず頷いてしまう。


「これよ! 見えたわ! ロラ姉様とリリィ、グループの最初の二人はこれでいける!」


 そっち方面の話ね。


「チコがもう少し大きくなれば、チコを末っ子キャラ。ロラを長女キャラで設定して、リリィがセンター。次女ポジションかな。うーん、やっぱり後2人、欲しいわね……痛い!」


 ゲンコツで黙らせた。

いつもありがとうございます。

本編で50話を超えました。

これからも頑張ります。

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