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48.サラマンカ

「大変申し訳ありません。当宿での宿泊はご遠慮願います」


 何となくその態度に心当たりがあったので、聞いてみる。


「えーと、ここってマシアス商会絡みだったりします?」

「ご宿泊される隊商の方々に、いつも、ご贔屓いただいております」

「オーレンセから出て、それ程経っていないんだけど、そんなに早く連絡ってくるもの?」

「はい? あ、ええ、それは勿論。うちも通信士を常駐させておりますので……」


 とりあえず諦めて宿を出る。


「通信士って何?」

「魔法通信士の事ですね」


 それは、通信魔法というものに特化した魔法使いの事らしい。一定規模以上の街や大手商会が雇っている事が多く、その大手商会と交易商がやりとりするために、高級宿屋にもいる事が多いとの事だった。


 風呂は諦め、門番い聞いていたもう一つの宿へ向かった。それが、俺の目の前にある、『羊殺し亭』だ。宿屋の名前については、もう何も言わん。 


「いらっしゃいませー、鮮度の良い羊のツケダレ焼きで有名な『羊殺し亭』へようこそ!」

「「「ようこそ!」」」


 扉を開けると盛大に迎えられた。扉を開けて目の前にある食堂は大賑わいだ。


 俺達を見つけた、ニットの帽子を深くかぶったエプリン姿の女性従業員が駆け寄ってきた。


「食事ですか? 宿泊ですか?……それとも、わ、た、し?」

「わ、た、し、でお願いします」


 色白の美人さんだったという事では無いが、思わずお願いしてみる。 


「ふふ、お客さん、ノリがいいですね。それで食事と宿泊、どちらにご案内すればいいでしょうか?」


 なんだ、冗談か。まぁ、そりゃそうだ。面白いノリの従業員だな。


「宿泊と食事でお願いします」

「はい、お待ちくださーい」


 と言って、奥に引っ込んでいった。


「お待たせしました。宿泊6名様、朝晩の2食付き、私付きで、全部で6万4千エンになります。」


 は? 本当に「私」が付いちゃうの?


「はい、専属のコンシェルジェとして、お部屋の前で待機させていただきます。何か御用があれば、何なりと申しつけていただく事が可能です。また、部屋へお食事をお持ちしたり、体を拭くお湯の準備なども、すべて含まれます」


「へー、そんなサービスなんだ。もしオプションを抜きにしたら、おいくらに?」

「はい、セット割引がなくなりますので、6万3千円になります」


 それはもう必須で付けろって言っているよね。


「じゃあ、『私』付きでお願いします」

「ありがとうございます。イネスともうします。すぐ準備してまいりますので、お待ちください」


 そう言って、一礼すると、もう一度奥へ戻って行った。


「それではこちらにご案内します」


 戻ってきたイネスは食堂のお姉さん風のエプロン姿から、なぜか黒い執事……というか駅員さん? みたいな服装に着替え、ニット帽はツバ付きの帽子に変えていた。


「着替えたの?」

「はい、食堂で働くスタイルと、コンシェルジェのスタイルは別のものになります」


 イネスが宿の3階に案内してくれる。通されたのは、リビングが1つに寝室が3部屋ある大きな部屋だった。寝台も板ではなく、敷布団を敷いたベッドのようになっている。


「こんな大きな部屋?」


 ひとえが不安そうに俺に囁く。その声が聞こえたのか、イネスが、


「はい。オーレンセの英雄をお迎えした栄誉をいただいたというのに、狭い部屋に押込めるなど、出来ません。部屋の広さは、当宿からの気持ちとして、御考えください」

「なんですか? オーレンセの英雄というのは?」


 思わず聞き返してしまった。


「オーレンセで救世主様が、『夜のモノ』を斬り伏せた……という話は、この国で知らないものはいないんじゃないでしょうか?」


 それってつい2日前の話じゃ……なんで、こんなに広まっているんだ? 


「今朝、オーレンセの通信士からのローカルニュースとして、全国へ配信されていますよ? 人数も、お顔もニュースの通りだったのですが……違いましたか?」


「私、変装した方がいいのかしら……」


 ひとえは、満更じゃなさそうなのは、なんでだ?


 次からは通信士がいるような大きな街ではなく、出来るだけ小さな村に泊まった方が無難かもしれない。


「それじゃ、遠慮なく泊まらせてもらいます。食事は何時からですか?」

「今すぐでも大丈夫です。今から食事をされますか? もしされるなら、リビングに人数分のお料理をお持ちします」

「ああ、それでお願いします」


 食事は、ほぼジンギスカンでした。


----------


「ジンギスカンが出ると、また引越しさせられそうで怖いね」


 ユイカが、ぽろっと言ってはいけないキーワードを……


 まぁ、美味しかったけどね。

 しかし、肉が続くと、胃がもたれる。この歳になると老化が始まるのか、少しずつガタがくる。老眼が始まった事に気がついた時は、本当にショックだったなぁ。


「私はこっちに来てから、バタバタしていて手を抜いているはずなのに、肌のハリがいいわ」

「あー、そういえば、私もカラダ全体の調子が……」


 リリィも同意する。


「体力の数値が振り切れているのが影響しているのかな?」


 俺だけこの後も加齢に伴って、老化していくんだろうか……


「ひとえ、見捨てないでね」

「考えておくわね」


「明日も、朝食を食べたら出発しよう」

「今日と同じペースで進めれば、マドリードか、タランコンあたりまで行けると思います。そこまで行けば、王都までは1日くらいの距離ですね」


「マドリード? スペインの首都だったよな?」


 世界地理は弱いので、現役中学生のユイカに聞いてみるが、


「知らない」


 ユイカも世界地理はダメか。


「そうだよ、マドリードは、スペインの首都だよ」


 現役小学生の浩太が、一番頼りになった。


「フラメンコよね」


 ひとえは違う角度から攻めてきた。


「リリィ、スペインって知っている?」

「スペインですか? いえ、聞いた事はありません」


 スペインと同じ街の名前……たまたまなのかな? 


「とりあえず、スペインの件は置いておこう。次の経由地だけど……マシアス商会の事もあるので、出来るだけ小さい街の方がいいな」

「わかりました。それではタランコンですね」

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