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42.夜襲

「明日からだけど、朝起きたら、1回、家に帰ろうと思う」

「あー、それがいい! お風呂に入りたい! 洗濯したい!」


 俺は風呂も入ったし着替えもしたが、妻も子供達も、昨日から着た切り雀だ。

 聖地カルボノから自宅へ戻れる事を説明する。


「へー、それは便利ね」

「そこからフェロル村に戻って、村の子供達を送り届けようと思う」


「その後はどうするの?」


 浩太が心配そうに聞いてくる。


「リリィと一緒に王都へ行こうと思う」

「家でじっとしていてもいいんじゃない?」


 リリィや、せっかく乗り気になったナバレッテ達には悪いが、そういう選択もできるのは確かだ。


「いや、お金の話もあって、王都には行っておきたいんだ」


 自宅で出てきた食料などは、無料タダではなかった事、今、借金を抱えた状態である事、そして、この世界で、その借金を返すには聖地を増やすのが手っ取り早い事を説明した。


「聖地巡業をすればするほど、お金持ちになるって事ね?」

「勿論、この世界のお金を稼ぐ訳では無いんだけど、色々なものを買い物していくためには、やはりある程度は稼いでおきたい。なので、後3つくらい、聖地を巡っておきたいんだ」


「そうね、それに移動も便利になるみたいだし」

「あ、移動と言えば……」


 ひとえに、どうやってバギーや小銃を出したのか確認する。


「なるほど、言い方次第で、どうとでもなるって事か」


 それ以外にも色々と情報共有をする。


「パパ」


 話もひと段落した所でユイカが声をかけてきた。


「どうした?」

「私が出した火みたいなやつ、どうやって出すのか、知ってる?」

「いや、それは聞いていないけど……」


「そうか……」


 ちょっと残念そうだ。


「ユイカは魔法を使いたいの?」

「うん、いざと言う時、みんなを守れるなら、魔法なのかどうか判らないけど、を使えるようになっておきたい。それに、浩太と喧嘩をして間違って出しちゃっても怖いし……やり方を知っておくべきだと思うの」


 たった1日でユイカも色々考えて成長したんだな。


「わかった。今すぐは無理だけど、どうすればユイカが魔法を使えるのか、オクシヘノにでも聞いてみよう」


「僕も魔法を使いたい!」

「浩太、遊びじゃないんだよ」


 浩太の言葉に、ユイカが窘める。


「わかってる。でも、僕もチコとかみんなを守れるようになりたいんだ」


 主にチコって事なんだろうな。たまに、お父さんも守ってくれよ。


「浩太が使えるようになるのかも含めて、確認だな。もしオクシヘノが教えてくれなくても、王都に行けば魔法が使える人がいるかもしれないし」


「魔法学校、あるかな?」


 ユイカが突然楽しみを見つけたみたいにはしゃいだ。

 それは、名前を言っちゃいけない人とかとエンカウントしそうで嫌だな。


「えー、学校ー、受験とかある?」


「いや、お父さんも判らないけど……ユイカも浩太も、まだ子供だから、魔法はともかく、学校があるなら、行った方がいいな」

「そうね、ユイカも浩太も、家に戻ったら、今もらっている教科書の範囲はちゃんと勉強しなさい。もし、日本に戻れたら、2人とも後悔する事になるのよ」


「えー、それを聞いたら戻りたく無い」

「うわー」


 ひとえの言葉に、俺は衝撃を受けた。

 オクシヘノは、もう戻れないと言っていた事もあり、俺はもう戻れないと諦めていた。どこかに、あのストレスフルな仕事の毎日には戻りたく無いという思いがあったのだろう。辛い日々ではあったが、置いてきたものも沢山ある。それを全て、諦めて生きるよりも、いつでも戻れる……その準備して生きて行く方がよっぽど健全だ。


 昨日今日の疲れからなのか、色々と話をしているうちに、子供達は眠ってしまった。ひとえの温もりを感じて眠りたい気分だったが、


「お風呂に入ってないから、絶対無理」


 と言う一言であえなく撃沈。一人でベッドに入り、目を閉じた。

 俺も疲れていたんだろう、ものの数秒で夢の中に……


----------


 「パパさん、大変だ! 外が騒がしい!!」


 ミントが耳元で叫んだ。


「うわ、なんだ!」


 思わず飛びおきたが、部屋の中が真っ暗なので、慌てて、近くに置いてあった懐中電灯を点ける。


「どうしたミント」


 時計を見ると0時を回ったくらいの時間。


「パパさん、外を見て。なんだか騒ぎがしい」


 慌てて、窓を開ける。

 窓からは北門が見える。


「いもんー! 開門ー! 夜のモノが襲ってきた。中に、中に避難させてくれー!」


 門の外から大声で叫ぶ声が聞こえて来る。

 野営地が魔物に襲われた?


「ひとえ、ユイカ、浩太、起きろ!」


 振り返ると、ひとえはすでに起きていた。

 俺の声でユイカが起きるが、浩太はまだ寝ている。


「ユイカ、浩太を起こして、すぐ動けるように。ひとえ、リリィとチコを起こして、ここへ」


 指示を出すと、もう一度、外の様子を見る。

 ちょうど北門の詰所から門番が出てきた所だ。


「状況を教えてください。夜間ですので、うかつに門を開けられません!」


 門番が、外に向かって問いかける。


「早くしてくれ! 夜のモノだ! すぐそこに来ている! すでに何人かが喰われてしまった! このままでは、全滅してしまう! 早くしてくれ! こちらには王族のファビオ様がいるんだぞ! 直ちに開門を!」


 外で叫んでいるのは、先触れの騎士らしい。


「わ、わかりました! 今開けますので、急いで中へ……」


 門番が門のかんぬきを外す。


「うわ!」


 その瞬間に外側から門が押し開かれ、門番を吹き飛ばしてしまった。

 吹き飛んだ門番は、数メートル離れた場所で倒れたまま動かない。

 そして、門の外から、野営地にいた兵士が雪崩れ混んできた。

 

 ファビオ達が俺たちを夜襲してくる事を考えていたので、警戒していたのだが、どうも、入ってきた兵士達の様子を見ると、我先に広場の方へ逃げて行っている。


 これは本当に魔物か……


 そう思い、視線を門に移すし、俺は一瞬、固まってしまった。

 

 異形。


 すぐさま、俺は叫ぶ。


「おい、誰か! 門を閉めろ! 早く! 魔物が来る!」


 窓から叫ぶが、門番は気絶しているようで、ピクリとも動かず、入ってきた兵士は全員、広場中央まで逃げてしまっている。


 俺の声が聞こえたのか、声を騒ぎを聞いて外に出ていた住人が、門へ向かい、門を閉めようとしたが……門と一緒に吹き飛ばされた。


「魔物が入ってくる! 全員、避難準備!!」


 それを見て、他の住民が大声を出す。

 

 カン! カン! カン!


 間をおかずに鐘が打ち鳴らされ、瞬く間に街中の彼方此方あちらこちらで、同じように鐘が鳴り響き始めた。


 そして、その間も、俺は門の外から、まさに侵入しようとしている魔物から目をそらせずにいた。


----------


 異形。


 そう表現するのが適しているだろう。


 門柱にある松明に照らされ、闇夜に浮かぶ白い顔と大きな一つ目。鼻に当たるものは無く、大きく裂けた口を持つ巨体。顔の大きさだけで、門よりも大きく、その後ろにある体は闇の中に溶け込んでよく見えない。


 「な、なんなんだ……こいつ……」


 声が上ずる。

 

 門を壊した魔物は、ズルズルと、門の内側へ入ってくる。

 人類の生存域が侵される……門を開けるとエリア設定が解除されるのか?


「タナカ様、お待たせしました!」


 リリィがチコを伴って入ってきた。

 まだ寝ぼけていた浩太が、それを見て、シャキッとする。


「リリィ、外を見てみろ、魔物が入ってくる」


 リリィが窓に飛びつく。


「あれは……夜のモノか!」

「『夜のモノ』? 魔物だよな?」


「いえ、魔物とは少し違います。数年から数十年に1度の夜、突然現れて、暴れるだけ暴れた後、忽然と消える人喰いです!」


「倒せるのか?」


「勝手に消えるまで、じっと村や街の中で我慢する事になります。街へ侵入を許したなんて話は……」


 外を見ると、大きな顔が徐々に街の中に入ってくる。

 見ている限りは、動きはそんなに速く無いみたいだ。


 これは、最悪な状態だな。住民に犠牲が出かねない。少なくともあいつが立ち去るまで、街の機能は止まるな。


「とりあえず、私が行ってみます」

「おい、あんな気味の悪い相手、何とかなるのか?」

「何とかしてみます!」


 そう言って、リリィは階下に降りて行った。


「私も行ってくるわ。あなた子供達をお願い」

「一緒に行く!」


 ひとえの声にユイカも声を出す。


「私も、ママと同じように無敵なんでしょ。なら、一緒に行く!」


 ミントもその足元に寄り添う。


「パパさん、僕も行ってくるよ」

「僕も行く、今度こそ、チコ達を守る!」


 浩太も立ち上がった。


「わ、わかった。数値上はこの世界で最も大きい攻撃レベルよりも高い防御レベルを設定したので、多分、大丈夫だと思うけど、気をつけてな。あと、たまにお父さんとチコのことも思い出して、お父さん達が攻撃を受けないようにしてね」


 相変わらず、情けない事しか言えない。

 どこかで、この状況を改善する方法を考えないと。


「それと、攻撃する力は今まで通りだから、無理して攻撃しないように。むしろ相手の攻撃を受けた方が、勝手に向こうが傷つくから」


「はーい!」


「あと、ひとえはこれ!」


 フェロル村でもらった刀を渡す。


「それじゃ、行ってきます」


「行ってきます」

「行ってきまーす」

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