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41.和解

===== Main =====


 アニアの部隊を追い払ったひとえとリリィが戻ってくる。


「あなた、宿屋の方が代表者を呼んで欲しいと言っているけど……」

「え?」


 皆の視線が俺に集まる。

 家族の代表としてはいいけど、王族のリリィやナバレッテ達の事まで代表する気は無いぞ。おい、ナバレッテさんや、なぜ、あんたまで俺を見る。


「タナカ様、申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


 なし崩しに代表者にされてしまった。俺、ナバレッテ達の事、全然知らないんですが……


 雰囲気に押され、仕方なく、ひとえと一緒に階下へ降りる。

 入り口近くにあるフロントへ行くと、青筋を立てた男がカウンターの中にいた。


「お客様、大変申し訳ありませんが、お代は結構ですので、お引き取りいただけないでしょうか?」

「え? 私はこの宿に泊まっている訳では……」


「はい、分かり易く表現しますと、『弁償などしなくてもいいから、今すぐ、この宿から出て行ってくれ』……と申し上げているのです」


 そう言って頭を下げる。


 それは、解りやすいね。

 確かに、これだけの騒ぎを起こせば、そりゃ怒るよな。


「一応、事情を説明しておくと、騒いだのはファビオや軍の人達で、私は巻き込まれたというか……」

「どのような事情かは承知しておりません。また、宿代については、マシアス商会が保証する事になっておりますので、今回受けた損害についても、そちらに請求させていただきます」


 あ、この宿屋も損をする訳じゃないのか。それは良かった。


「ただし、当ホテル及び、系列のホテル、宿屋への出入りは、今後も含めてご遠慮いただきますよう、お願いします」


「系列もですか?」

「はい、申し訳ありませんが、人相書きを回させていただきます」


 それがどのくらい影響がある事なのか解らないけど……


「えーと、俺、この世界の救世主って言われているらしいのですが……」

「関係ありません」


「2階に王族がいるので、その人に取りなしてもらっても?」

「意味がありません」


 そこまで言って、フロントの男は少しため息を付き、


「皆様に今回の騒動の原因が全てあるとは申しませんが、私どものホテルは、系列店も含めてマシアス商会とは非常に懇意にさせていただいております。皆様がマシアス商会の係累であるファビオ様と敵対されている以上、この対応は止むを得ないものと、ご承知いただけます様、お願い致します」


 ああ、色々と世知辛い事情があるんだな。


「分かりました。ご迷惑をおかけし、申し訳けありません。準備が出来次第、退出させていただきます」


----------


 2階に戻り、皆に事情を説明する。


「ご迷惑をおかけしました。我々が来たばかりに大事に……」


 ナバレッテが恐縮した様に頭を下げる。


 この騒動は、リリィが生きて戻ってきたという事で、本来の任務に立ち返ろうとナバレッテがクベロ隊の生き残りを扇動して野営地から、ここへ乗り込んできたようだ。そして、武装して動き出したクベロ隊を見て、残ったアニア隊が慌てて追いかけてきた……という事らしい。 


 だとすると、追い出されたのは、間違いなく、ナバレッテ達が来た事が原因だ。

 俺は、もう少し穏便に済ませようと思っていたんだけどな。


 クベロがアニアに脅されリリィを排除しようとしていた事もナバレッテが教えてくれた。


「私が嫌われていた訳じゃないんですね」


 事情が解って、リリィは少しホッとしていた様だ。


「そのマシアス商会やファビオは、何故、リリィを排除したいのでしょうか?」

「その事情については、クベロ隊長も知らなかったみたいです。ただ、軍全体に圧力がかかっていたのは事実です」


 結局は、何故、リリィが狙われるのかって事なんだよな。

 リリィはすぐ許してしまったが、俺としては、そこまでお人好しにはなれない。


「それで、こんな事になっちゃったけど、皆さんはこの後、どうしますか?」


「はい、今までの事があったので、こういうお願いをするのは図々しいというのは承知しておりますが、リリアナ様に部隊を率いていただき、当初の予定に立ち返って、救世主様を迎えて、王都へ戻るという任務を完遂させていただきたいと思っています」


「お願いします!」

「リリィ、頼むよ」

「リリアナ様」


 クベロ隊の面々が口々にリリアナに頼み込む。


「わ、わかりました。今までの事は忘れて、是非、一緒に王都へ戻りましょう」


 リリィは、本当に、ちょろいな。


「改めて確認しますが、私たち家族は、クベロ隊長以下、何名の方と、フェロル村で不幸な事態に陥りました」


 視界の端でユイカが身体を硬くするのが見えた。

 ひとえがさりげなく近くまで行き、肩を抱き寄せる。


 ユイカ、ごめん。でも、ここははっきりさせておかないと、俺たちは安心して彼らと進む事は出来ない。


「こちらとしても、その遺恨が無いとは言えませんが、それをも水に流すと言う事でよろしいのでしょうか」


 ナバレッテを正面から見つめる。

 ナバレッテも、目をそらさずに、こちらを見つめ返す。


「我々は、任務中の事故については常々覚悟をしております。そして、剣を向けるという事がどういう事かは、私を含め、クベロ隊の全員が、クベロ隊長に叩き込まれています。ですので、村での出来事は不幸な事故・・として認識し、何ら遺恨を持つ事無く、クベロ隊最後の任務に当たる。それがクベロ隊長の遺志だろうと考えています」


 その言葉を聞き、ひとえ、ユイカ、浩太を見る。

 ひとえが、こくりと頷いた。

 俺はそれを見て、心を決める。

 いずれにせよ、味方として動いてくれる人が多いに越したことはない。


「わかりました。私どもも、私が斬られた事、リリィが殺されそうになった事については忘れましょう」


「わ、私も……」


 チコが突然、声を出した。


「私も、傷の手当てをしてもらったし、ナバレッテさんには優しくしてもらったので、大丈夫です」


 そうだね。チコも怪我をしたんだしね。

 ごめん、俺たちだけで勝手に決めちゃいけないな。


「という事で、今後ともよろしくお願いします」


 ナバレッテに頭を下げる。

 ナバレッテも、頭を下げ、さらにクベロ隊全員が後に続く。


 さて、儀式は終了。


「ところでチコはどうする? この後、俺たちは首都へ向かう事になるけど、その前に、そこにいる村の子達をフェロル村に送るので、一緒に帰る?」


 チコこそ、巻き込まれた一番の被害者だしな。


「きゅ、救世主様がそうしろ……と言うなら……」


「チコ、チコがしたいようにしていいのよ。私たちはチコのしたいようにしてあげるから」


 ひとえがチコの心を後押しした。


「は、はい奥様。下働きでも何でもしますので、できれば、このままご一緒させてください。お願いします」

「お父さん、お願いします」


 浩太も一緒に頭を下げる。


「いいよ。チコが望むんだったら一緒に行こう。リリィ、特に問題無いよね?」

「はい、村に戻った時にでも、村長とルカスの家に許可を取れば、特に問題無いと思います」


「それじゃ、この宿にも迷惑をかけたし、早々に退出しましょう」


----------


『血みどろな牛亭』に戻ってきた。


「という事でエレナ、部屋を追加でお願いしたいんだけど……」


 じろ。

 エレナが外に並んでいるクベロ隊の面々を見る。


 ファビオ達が門のすぐ外で野営しているので、クベロ隊の皆さんも宿屋に泊まるしかなくなってしまったのだ。


 最初は先ほどの宿の目の前にある広場で野営をしてもらって……とも思ったが、フロントの人が飛んできて、頼むから、どっかに行ってくれと言って、宿代をくれたので、ありがたく受け取ってしまった。


 北門側の宿という事で、門を挟んですぐ向こうにファビオ達がいるという状況だが、夜になり門も硬く閉ざされたので、とりあえず大丈夫だろう。


「その人数だと3階にある宴会用の大広間しか泊まる場所が無いけど、それでもいい? あと、寝具も無いけど……」

「それで十分です」


 ナバレッテが価格交渉をして、先ほどもらったお金で支払う。

 フェロル村の子供達も、大広間で一緒に寝泊まりしてもらう事にした。


 それとは別にナバレッテが俺たち家族用にと、4人部屋も用意してくれた。ミントを宿に入れる事にエレナが難色を示したが、それもナバレッテが説得してくれた。主にお金の力で……


「おじさん、さっきは面白かったね。おかげで、お酒の売上が伸びたよ」

「ああ、そこのテラスで、盛り上がっていたのが、向こうから見えたよ」


 30人以上いる兵士の宿泊は、それでもおいしかったのか、ニコニコしながらエレナが話しかけてきた。


「リリィと奥様、なんか凄い技を持っていたね。飛んできた矢を全部撃ち落としていたの?」

「まあな」


 距離も少しあったので、よく見えなかったのだろう。

 とりあえず、適当に答えておく。


「大広間へは食事を持っていくけど、おじさん達はどうする?」

「ああ、食堂で食べさせてもらうよ」


 また牛肉か。これで4食連続。


「なあ、エレナ。牛肉以外の料理ってあるかな?」


 ちょっと頼んでみる。


「肉がいい!」

「牛肉を楽しみにしていたんだけど……」


 それを、ひとえとユイカがすぐさま打ち消す。


「牛肉でいいです」


 妻と娘が連合したら、俺に勝ち目は無い。


 食事の後、俺が確保していた2人部屋にはリリィとチコが泊まってもらい、1日振りに家族水入らずの時間を過ごす事となった。


 昨晩の反省から4人分の布団を持って、エレナの所に。


「エレナ、布団を燻して欲しいんだけど」

「おじさん、うちの宿は、ちゃんと清潔にしてあるから、そんな事をしなくてもいいんだよ」

「え、そうなの? 昨日泊まった南門の宿は、燻さなかったから、とんでもない目にあったけど……」


「そりゃそうよ。あそこは、サービスが悪い代わりに、料金を安く設定してあるの。ちなみに広場のホテルは、高級店ね。ふかふかのベッドに高級料理が売り。うちは、サービスそこそこ、値段もそこそこ、可愛い女主人と美味しい料理が売りといった感じかな」


 自分で言っちゃってるよ。

 確かに昼食も夕食もおいしかったし、エレナも可愛いというのは否定できない。


「という事で、布団は清潔にしているので、安心してゆっくりお休みください」


 よかった……今日は熟睡できそうだ。

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