<王国編> 4. モデスト・クベロ(1)
−− クソみたいな任務だ
「すまん。表向きは国王よりのたっての依頼としてきているため、軍としても部隊を出すしかなくなってな」
恩義ある軍団長からの依頼でなければ……クベロは断っていただろう。
「その上、軍へ大きく援助していただいているマシアス商会からの依頼もあっての。この辺を良い塩梅でコントロールできるのは、私は、お前の部隊が最適だと思ってな」
「いえ、お気遣いありがとうございます。モンデスト・クベロ、リリアナ・ヒメノ殿下と合流し救世主殿をお迎えすべく、フェロル村に向かいます!」
それでもクベロは余計な一言を加えてしまう。
−− 治安を脅かす貴族の暗殺でも命令とあれば俺は実行する。だが……
「王女様に嫌がらせをして、任務を放棄させろっていうのは、軍の仕事なんですかね」
クベロの「クソみたいな任務」はこうして始まった。
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「クベロ隊長! 軍団長からの呼び出しって、とうとう方面本部へご栄転ですか?」
クベロが宿舎に戻ると、副官のサンスが声をかけてきた。
「いや、任務だ。 班長以上のメンバーを私の部屋へ集めてくれ」
「わかりました!」
王族や貴族が保持している騎士団とは違い、軍の本質は国土防衛と治安維持にある。その任務は人里へ害のある魔物の討伐や、街や都市の治安維持、外国と手を結ぶような貴族の暗殺といった任務を主体とする。クベロはそのうちの1つ、聖バリオス軍団第2方面軍に所属する部隊の部隊長を務めていた。
トントン!
「失礼します」
ノックの音がし、部屋の中に副官のサンス、クベロが指揮する部隊の各班長4名、クベロの直下で事務処理などを担当する2名が入ってきた。
「急だったので、狭いところに集めてしまってすまない」
「いえ、問題ありません」
代表して班長の1人ラモンが応えた。
「本日、新しい任務の指示があった」
クベロの部下達は軍団長から直接指示を受けた任務という事で、緊張が走る。
「この後、王族の一人、リリアナ・ヒメノ殿下が我が部隊に合流する。リリアナ殿下を護衛し、王国北部の村、フェロル村へ向かう」
部下達の少し力が抜け口々に質問を始める。
「リリアナ殿下とは、お聞きした事が無いお名前ですが?」
「王位継承権では89位との事だ。年内には降臣を予定しているヒメノ家のご息女になる」
「王族のお遊びに我々が付き従うって事でしょうか?」
「そうでは無い。陛下と全神殿の連名による命令で、すべての王族が聖地に向かい、そこに現れるという救世主を待つという話だ。俺も詳しくは知らん」
「騎士団がやる仕事では?」
「リリアナ殿下のみ、特別に軍から人員を割く。それが俺たちに割り当てられたという事だ」
クベロも自分の任務に納得している訳では無いため、説明も投げやりになる。
「それともう一つ、極秘の任務がある」
「なんでしょう」
部下達が再び姿勢を正す。
「道中、リリアナ殿下を虐め抜け」
「は?」
「任務を放棄したくなるよう、虐め抜くのだ」
普段の厳しくても人情味があり、部下から愛されているはずの隊長から予想外の言葉が出たため、班長達は押し黙る。
「ひも付きですか?」
副官のサンスだけが、その意図を理解する。
「ああ、軍としては面倒な所のひも付き案件だ」
その言葉で、各班長も理解したようだ。
「王女様はおいくつなんですか?」
「17歳と聞いている」
「じゃぁ、天下のクベロ部隊が、北へ北へと向かいながら、もう帰りたいと言うまで、年若い王女様を虐めるって事ですね」
サンスが、そこまで行って頭痛がしたように頭を押さえる。
「わかりました。クベロ部隊の名にかけて、きっちり虐め抜いて、任務放棄をさせましょう!」
「すまないが、頼む」
サンスの言葉にクベロが自分の部下に頭を下げたため、部下達が慌てて、
「た、隊長、頭をあげてください」
「小娘くらい、我々が通常通り接すれば、すぐ音をあげますって」
「俺達の鎧の匂いを嗅いだだけでも逃げ出しますよ!」
口々に、クベロにフォローを入れる。
「ナバレッテの所に連絡が来ると思うので、リリアナ殿が来たら、ラモンの所へ案内をお願いします」
最後に事務担当の初老の男に、クベロが声をかけ、解散となった。
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「リリアナ・ヒメノです。王命を受け、出頭いたしました。隊長殿へお取次を願います」
リリアナがクベロ部隊の事務室へ出頭したのは、クベロが部下に命令を伝えた2時間後であった。
「ああ、聞いています。こちらへどうぞ」
「ラモン班長、リリアナ殿が到着されました」
ラモンは30代くらい、顔の彫りが深いが、黒目が小さいため、酷薄な印象を与える男だ。
「リリアナ・ヒメノです。王命により、出頭しました」
「クベロ部隊ラモン班班長 ラモンだ。クベロ隊長より指示を受けている」
「隊長のところへ出頭するよう言われておりますので、お取次願いますでしょうか」
「隊長から貴殿の事は指示を受けているので、心配しないように。班のメンバーを紹介するので、こっちへ」
「はい……ありがとうございます」
「おい、集まれ。さっき通達したリリアナ・ヒメノ殿下だ」
「リリアナ・ヒメノです。王族と言っても、端っこの方ですし、私自身、王族として育てられた訳ではありません。現在はシエロ男爵家の従士をしておりますので、皆さんも、お気軽に従士として接していただければと思います」
この時、ラモン班長の目が一瞬、リリアナに対して哀れんだような色が浮かんだのだが、リリアナはそれに気がつく事は無い。
「という事だ。せっかくの殿下のお言葉だ。ありがたく、従士として接するように心がけろ」
「「「ウォッス」」」
リリアナにとっては、仲良くして欲しい……そういうつもりでの発言であったが、この言葉を、あえて言葉どおり捉えたクベロ部隊により、本来、自分が指揮をして率いるはずの迎賓部隊で、リリアナは、末端の従士として扱われる事が決まってしまったのであった。




