26.孫神の思惑
初評価がついて感激です。うれし〜
「それでだ。俺達家族をこの世界に連れて来た理由っていうのを、そろそろ教えてくれないか」
まぁ、さすがに何の意図もなく連れて来られた訳では無いだろう。
神託でも世界を救えという話だったしな。
「ふむ、今明かせる範囲で……という条件で少し話してやろう」
全部は開示してくれないのか。
「それはナンセンスというものだろう。この先、多くの試練を乗り越え、少しずつ明らかになる、この世界に蠢く陰謀。勇者の一家は、失われた絆を取り戻し、この世界を救えるのだろうかー! ババーン!」
小さい神様は、両手を挙げ、高らかに宣言した……ので、一回、拳で潰してみた。
「むぎゅう」
「おい、真面目にやれ。チートで家族の体力と防御力をアップしたとはいえ、こっちは家族と離されて、相当焦ってるんだ。一刻も早く助けに向かいたい」
「よっこらせ」
元の大きさに戻った。
「さっきも説明した通り、この世界は妾達孫神が、お前達、地球の人間が作ったゲームを模して作った箱庭の世界なのじゃ。この世界は、人類の生存域と魔物の生存域を明確に分け配置した」
「人類の生存域?」
「そうじゃ。これは人類が現在、住居を構えている場所に当たる。今ある村や街は、世界創生当初から、予め安全に生活できるように塀などで囲み、魔物が侵入できないように準備してあった安全地帯に、人類が住み着いた結果じゃ」
だから、フェリロ村の人口の割に大きな石塀があったのか。
魔物が強いこの世界で人類が生き残るには、これしか方法がなかったんだろうな。
「聖地も人類の生存域か?」
「いや、聖地はちょっと特殊じゃ。本来は妾達孫神がこの世界に出入りするゲートウェイとして使う予定だったんだがな。ちょっとした手違いで孫神が通過できないように設定されてしまったのじゃ。これを修正するのが、かなり面倒での。結果、妾達はこの世界に現出するのを諦め、観測に徹する事になったのじゃ」
「インターネットの世界で、通過を許可するプロトコルの設定を失敗したようなものか?」
「あー、多分そんな感じじゃ。設定変更して再起動となると世界の作り直しが必要での。さすがにそれは面倒だし、この世界がクリアされるのを待って、次の世界で……と考えた訳じゃ」
「クリア?」
「魔物の生存域にはちゃんと魔王も存在している。この魔物を倒して、この世界はクリアじゃ。その後、この世界の住人や魔物は、お前達がいた世界のどこかへ転生させる予定だった」
「ゲームじゃねーか!」
「いや、お前達の世界の宗教でも似たようなものがあるだろう。悪を倒し神に選ばれて約束の地へ……みたいな」
「みたいなって……まぁ、そんな感じの宗教もあるけどな」
「そうだ、それを参考にしたのだ」
そんなんでいいのか?
「だが、人類は塀で囲まれた世界から、好んで外へ出ようとしなかったのだよ」
「どういう事だ?」
「勿論、貿易や戦争などで他の村や街へ出ることはあったが、どうしても魔物が出る命がけの冒険となるため、積極的に魔物と戦うような事はせず、魔物が寄ってこないよう大人数で移動するか、少人数で隠れながら移動し、人類社会だけの閉じた世界での発展を、この8000年近い間、繰り返していたのだ」
まぁ、死ぬ可能性があるような移動をする人は、そうそういないだろうな。
「勿論、人類の初期状態におけるステータスを弱く設定しすぎたという事も原因かもしれないが……」
それが最大の要因じゃねーか?
「魔物がの……」
ん?
「お互いに争うようになってしまい…」
共食いか?
それはいいんじゃないか?
「結果的に、8000年の間で淘汰に淘汰を重ね、残ったのは極端にレベルの高い魔物ばかりになってしまったのじゃ」
「ハァ?」
「妾達も、さすがに最初からスライム1匹との接触が致命的になるような世界になんかしようとは考えておらん。だが、この魔物だけがレベルアップしていく過程で、各生息エリアの難易度も一緒に上がってしまっての。弱いはずの生まれたての魔物まで、初期値が高くなるようになってしまい、さらに人類は外に出れなくなるという悪循環が生まれ……結果的に、今のような人類が圧倒的に弱い世界になってしまったのじゃ」
「だけど、それだけ強くなった魔物を倒せば、すぐレベルアップする人が生まれて逆転するような目があるんじゃないか?」
「いや、それがの…」
言いにくいような雰囲気だな。
「経験値でのレベルアップをやめ、スキルを使用した回数によるレベルアップという形を取ったので……」
いやな予感が……
「強い敵をいくら倒しても経験値なんて入らんのじゃ」
人類、詰んでるじゃん。
「だいたい、経験値なんておかしいシステムだろ。強い敵を倒したら、レベルアップして、攻撃力や防御力がアップする? なんで、1匹倒したくらいで筋力や走力がアップするんじゃ? 毎日、筋トレして上腕二頭筋切れてますー! って頑張っているボディービルダーに謝れ!」
逆ギレかよ。
「じゃあ、40人掛かりでスライム倒しても役に立たないのか」
「立たん」
「じゃあ、人類が危険を冒して魔物を倒す必要性は……」
「ない!」
認めやがった。
「お主、なかなか頭が切れるのう。妾達がこの事に思い至るのには、8000年の月日が必要じゃった。塀から飛び出し、人類が羽ばたく姿を毎日ワクワクしながら待っていたんじゃがの」
遅すぎるわ!
再び、神様を拳で潰してしまった。
「本来、ゲートウェイをくぐって妾達の代表がこの世界に現出し、勇者を指名し、何らかの加護を与えて、この世界をクリアする……という予定だったのが、出来なかったのも、こうなってしまった一因かもしれん」
神様が潰れたまま、もう一つ告白をした。
間違いなく、それが最大の原因だよ。
「妾達孫神がくじ引きで順番を決め、勇者を指名する…というのが、当初の予定だったんだがな……まぁ、それが出来なくても、この世界を眺めているだけで楽しかったので、妾達は満足していたんだが……」
まだ何かあるのかよ。
「この世界の魔物が強くなりすぎてしまっての。まもなく、街や村を守っている石塀などの防御力を、魔物の攻撃力が凌駕しそうなのじゃ。そうなったら、人類は終了じゃ。そうなると魔物だけが残った世界で、さらに魔物同士が淘汰を続け……」
うわ、嫌な予感。
「いつか、聖地から、こちら側へ移動可能な程の力を身につけ、お前達の元の世界も滅ぼされるという事にの、気づいてしまったのじゃ」
神は、元の大きさに戻って、腰に手を当ててドヤ顔で宣言している。
「そうなってしまうと、確実に妾達孫神は、親に怒られる」
今度は、ブルブル震えだした。
「それだけは、それだけは避けねばならない」
いや、世界の破滅は困るが、お前らは怒られておけ。
「「「「「そこでじゃ!」」」」
突然、別の声がして神の横に4人の同じような大きさの人間がポンっと画面から出てきた。
「おわ、びっくりした」
「「「「我々は考えたのじゃ! 物理世界から神の加護を与えた人を送り込めば、この世界のクリア出来るんじゃないかって事を!」」」」
最初からいた神と声を合わせてこちらに向けて人差し指を突き出した。
こいつらがひとえや子供達が言っていた神様か?
侍のような格好をした神が話し始めた。
「確かにわしらの失敗を解消するために、お前達家族に迷惑をかける事になった。だが、この世界を救ってくれれば、お前の望みを叶えよう。この世界を残し、お前達家族が海と山のそばで憧れの田舎暮らしができるようにしよう。どうだ、ギブアンドテイクといこうじゃないか」
満面の笑みを浮かべて、両手を拡げた……ので、潰した。
「俺は、そこまで切実に田舎暮らしを望んでねーよ」
そんな事はどうでもいい、
「まぁ……いい。とりあえず、家族を救い出す。それ以外はその後だ」




