たまにいるよね、魂のステージが2段階くらい違う人
「ああああ!!!????」
「なんだ? どうした? 更年期か? 老いとは怖いな」
俺は突然横で奇声を出し始めた女、同級生の百井桃華に問う。全く傍迷惑なメスだ。スマホなんぞを見てなにが楽しいのやら。
「私まだ十代だよハルくん! ところで更年期ってなに?」
「お前の手に持ってる機械はなんだ? 文鎮か? 」
「これはスマホだよ? 文鎮じゃないよ?」
「お前本当に言葉通じてるのか?」
「ハルくんこそ、外国語を話すのはやめて欲しいな」
目の前のウスラトンカチはあろうことか俺に責任をなすりつけてきた。比喩すら通じない癖に。
「ところ」
「ところでハルくん、この学校は部活強制だよ? なんか入った方がいいよ?」
「帰宅部でいいだろ」
「えっ、帰宅部に入るの……?」
桃華は急に顔を青ざめてガタガタ震えだした。俺はこの光景を見て、特になにも思わなかった。
「なんだ? 急に震えだして、着信中か?」
すると桃華はスマホを確認してこちらを向き笑う。
「メールも電話も来てないけど?」
「あ、もういいです」
「そうなのか」
「ところで帰宅部って存在するのか?」
「あるよ、第6帰宅部まであるよ」
なんだ第6帰宅部って、帰宅部って部活未所属が使う言い訳だけの幻の部活じゃないのか。俺が転入したこの学校は生徒教師を含め色々ネジが吹っ飛んでいる。
「一番安全なのが第7帰宅部で、1番危険なのが第3帰宅部だよ」
「おいちょっと待て、お前今、帰宅部は第6までしかないって言わなかったか?」
「うん、5番目に出来た帰宅部の名前が第7帰宅部って言うんだよ」
「え?」
「帰宅部は6つだよ?」
「すまん、通訳を連れてきてくれ」
俺は頭が痛くなってきた。正直通訳よりも頭痛薬の方が欲しい。目の前の天然記念物を見ながら切にそう願った。
「まぁ、それはい」
「お前! 帰宅部に入りたいのか!?!!」
「うわー、誰ですかアンタ」
突然会話に割り込んできた男を心底嫌そうな目で見た後、とりあえず問いを投げかけてあげた。かなり面倒くさい。帰って欲しい。って言うかなんか臭い。顔はそこそこイケメンなのに洗っていない雑巾の臭いがする。
「俺は第2帰宅部、部長の黒乃孝明だ」
「黒のたこ焼き? クッソ不味そう」
「く ろ の た か あ き だ!」
「たこ焼きさんは何しにしたの?」
「だから、たか……まぁいい、なに、帰宅部志望の生徒がいると聞いて勧誘しに来たのだ」
「実際は?」
「トイレから帰ってきたら帰宅部と言う単語が聞こえたのでとりあえず絡んでみた」
「そうか、考えとくって部長の人に言っといて、後たこ焼きはちゃんと風呂入った方がいい」
「わかった、良い返事を期待している。あと銭湯にも行く」
適当にあしらって、会話を終える。遠くで「……部長は、俺だよな……? なら部長って誰だ? なんだアイツ……意味わかんねぇ……」と聞こえてきた。
「んじゃ、ハルくん。また明日〜」
「また来週〜」
そう言って天然記念物と別れた。次に天然記念物が学校に来たのは一週間後だった。