母なる惑星
「全く毎日毎日、難儀だねぇお前さんも」
診察室と思しき場所で、白衣を着た少女と見紛う小柄な女が、制服の少女と話をしている。
医師と患者の家族……といった所か。
「いえ、たった一人の弟ですから。両親は忙しくて来れないですし」
「……へぇ、家族愛……ってヤツかい?」
女医は感心したような、そんな声色でそう言う。
「それ以上……かもしれませんね」
「えっ?」
「いえ……それで、ハルは今何処に?」
「ああ、今は眠ってるよ」
「そうですか……」
「ここ最近奇行が目立っていたからねぇ」
ため息を吐いて女医はそう零した。かなりお疲れの様子だ。
「それは、どのような?」
「便器に話しかけたり、白紙のノートと会話してみたり、挙げ句の果てには食事中まで誰かと会話してる様だよ。一体彼には何が見えてるのかね?」
「そんな事が……」
制服の少女は沈んだ面持ちで今の弟の状態を聞いていた。
「お前さんとの面会中も何回かあるんじゃないか? ……そういう、不思議な行動が」
「そうですね……その、よく股間を苦しそうな表情で抑えるのが何回か」
「……交通事故の後遺症なのかしらねぇ」
「脳にも体にも異常は無いと外科の先生は仰ってたのですが」
女医は悲痛な面持ちで、彼がここに来る前の診断書に目を通していた。異常無しと書かれたそれに女医は再度ため息を吐く。
「その他になにか気になる事は無いかい?」
「異星人……と言うのをここの所聞く気がします」
「ああ、彼は今何処か遠い惑星にでも出かけているのかもしれないね」
「帰って……来ますよね?」
少女は一縷の望みはあるか女医に問う。いつもは『任せな』と言う女医だが今回だけは返答が違った。
「帰ってくるさ」
「そう……ですよね」
少女の表情に光が差す。
「ああ、異星にいようが帰ってくるさ。 だって地球にはお前さんがいる。 おかえりがある暖かい場所があるんだからさ」
季節は春。
穏やかな陽気が確かにに春の到来を告げていたーー




