お前は俺のこと好きかも知れないけど、俺はお前の事何とも思ってないから
「ハル、お前部活は入らないのか?」
俺が帰る準備をしていると、赤也が話しかけてきた。赤也と言うのは頻尿イケボのことである。朱雀赤也、時代が時代なら炎属性主人公として猛威を振るっていただろう。だが此処は現実、不死鳥を手から出すことはできないしコイツはただの頻尿である。
「なぁ、赤也。お前に頼みがあるんだが」
「なんだ?」
「ちょっと、『覇王紅蓮炎熱波』と感情を込めて言ってくれ」
「うん? わからんがわかった」
俺は悟られないようにボイスレコーダーの準備をする。
「よし、頼む」
「おう、えと、覇王紅蓮炎熱波ァァァァァァァ!!! あ、すまんトイレいっていいか?」
俺は即座にボイスレコーダーを切る。後半の情けないセリフをカットするためだ。
それにしても相変わらず殺したくなるようなイケボだ、俺が即興で考えたクソみたいな技名を完璧に自分の物にしている。
「あと、お前に興味がある。後で住所とかその他諸々も教えてくれ」
「わかった、わかったからちょっとトイレいってくる」
「おう」
そして待つこと数十分、頻尿赤也が帰ってきた。
「待たせたな」
「おう、んでなんだっけ? 部活? オススメはあるのか?」
「オススメは知らん。だが、お前は二つの部活に狙われるであろうことは容易に想像がつく」
「部活ってそんなバイオレンスだったか?」
「まぁまぁ、コイツらは廃部寸前でな、部活未所属のオマエは格好の餌ってワケだ」
「ほう? どんな部活なんだ?」
「教えてやろう。一つ、『オカルト研究会』コイツはまぁ読んで字の通りだ、あらゆる超常現象を調べて回ってるちょっと風変わりな奴等だ、ちなみに部員は2人、内1人は犬だ」
「それって部員1人じゃん」
「話を続けるぞ、もう一つは『性転換研究部』だ、コッチも読んで字の通りだな。ちなみに部員は3人」
「どっかで手術でも受けてこいよ」
「そんな金はないと言っていた。性部の奴等は朝起きたら美男子にとかがお望みらしい」
「部員女かよ、てかその手の超常現象はオカ研の範疇じゃないのか?」
「そんなことは知らん」
俺は、特に気にすることもないだろうと話半分で頻尿の話を適当に受けていた。どうせ入らないし。
「お前は何に入ってんの?」
「俺は部活に所属してない。委員会活動があるのでな」
「真面目だな? してその委員会とやらは?」
「便所清掃委員会」
「お前がトイレ掃除とか、死ぬまで一生終わらないだろ」
「!? 何故それを? いつも後輩が手伝ってくれて初めて終わるんだ……すまん、またトイレ行ってくる」
「おう」
俺は頻尿を待たずに帰宅をする。待ってやる義理など存在しないからだ。そして帰宅途中で頻尿からメールが届いた。
文面は頻尿のプロフィールだった。律儀でいい奴だった。しかし俺は内心狂喜乱舞だ、何せこれから悪戯をするのだから。
「ククク、莫迦な奴め」
家に着いてすぐPCを起動、先程の録音音声を少し編集してある場所に頻尿のプロフィールを添えて投稿しておいた。
「完璧だ……」
そして忘れていたころに頻尿からメールが届く、其処には狙い通りの文面が綴られていた。
『俺、声優になった』
俺は、頑張れよと励ましてやった。