人生苦あれば、苦もあるさ
「アリヤトヤッシター」
コンビニ店員の機械的なお礼を背で受け止める俺、晴山晴雄は誰も居ない学校への道を優雅に登校していた。なぜ誰もいないのか、答えは単純だ。それは今の時刻が11時を回ったところだからだろう。むしろこの時間に生徒達が大量にいたらとんでもない事になっていると思われる。しかし、転校初日にこの重役出勤ならぬ重役登校とはヤバい、かなりヤバい、非常にヤバい。
「ヤバいな……、転校初日にコレはヤバい。ヤバいとは思うが。日課である朝のメロンパンは欠かせない。ああ、美味い……メロンパン、地球の宝也」
メロンパンを頬張りながら歩く事数十分、目的の転校先の学校、星祭学園に辿り着いた。
「まずは……職員室だな。多分こっちだろう」
自分の下駄箱の位置すらわからないので適当な所に靴を脱ぎ捨てその辺にあるスリッパで職員室に向かう。
「失礼しまーす。今日転校してきた晴山晴雄ですけど」
「キミ今何時だと思ってる!?!!」
「え、8時半ですよね?」
「……」
「え、8時半ですよね?」
「……」
「すいません、ごめんなさいなんでもないです。マジすんません」
二回目に同じ事を言った時のあの教師の眼、さながら宇宙人を見るような冷たい瞳だった。俺は負けた。あの眼は人を殺せる眼だ、憐れみか何かで人を凍死させられる眼だ。思わず謝ってしまった。
「……キミが晴山晴雄君か、よろしく、キミのクラス担任の土方だ」
「はじめまして、若作りですね。歳はいくつなん……いででで!!」
「お前、舐めてるのか」
「すいません、すんません、ごめんなさいあばばばばば」
あろう事か初対面である俺に向かって、目の前の若作り貧乳星人はアイアンクローを繰り出してきた、ミシミシと頭蓋が軋む音が聞こえる。
「ちょうどいい、午後からLHRだ。冒頭で転校生、お前を紹介する。なんか自己紹介考えとけ」
晴雄の頭蓋は守られた。
□ □ □
「おい、転校生がやっと来たぞ。自己紹介させるから席に着け」
扉の向こうで怪力貧乳魔神の声が聞こえる。これから行われるであろう恐怖政治に唯々脚が竦む。しかしなんなんだあの貧乳教師は。もはや合法ロリと言っても過言ではないあの容姿、俺のいるこの場所は本当に地球なのか?いや、ここはもう魔の巣窟だ、地球とはもはや別次元の位置にあるだろう。
「おい、早く入れ。今度は脳みそ潰すぞ」
「了解です!サー!」
何やら不穏な単語の羅列が聞こえたが怖いのでスルーしておこう、マジおっかねぇよあの合法ロリ。
扉を開け、教室を見渡すと皆一様にして、合法ロリ教師土方の方を向いていた。恐らくはあの教師による恐怖政治の一環だろう、このクラスの闇を早くも垣間見てしまった。
「はじめまし」
「おい、後ろから入る奴がいるか馬鹿野郎。前に来い」
「あ」
ザッと湧くクラス内、コレは多分アレだろう。俺の無意識下にある恐怖の感情が合法ロリに近づく事を良しとはしなかったのだろう。
まぁ、俺は教壇に立ち自己紹介を始める事にした。
「はじめましての人ははじめまして、そうでない人もはじめまして、俺、いや私は晴山晴雄といいます。出身は破滅暗黒魔大陸、特技は割り箸を綺麗に割る事です。好きな食べ物はメロンパン、嫌いな食べ物はスイカバー、どうかよろしくお願いします」
完璧な自己紹介をする俺、コレで俺の人となりはわかってもらえただろう。どこからどう見ても完璧すぎる事故紹介だ。
すると1人の女生徒が手を挙げている。俺はその子を指した。
「しつもーん、破滅暗黒魔大陸ってなんですか? 後ハルハルって呼んでいい?」
「ジェノサイド星にある一番大きな大陸です。そこでは海は枯れ地は裂けあらゆる生命体は絶滅したかに思われた……しかし!人類は死に絶えてはいなかったのです! すいませんもっとかっこいいのでお願いします」
俺が力説すると教室の所々からある単語が飛び交ってきた。
「世紀末かよ」
「世紀末だな」
「10万24歳か」
「それ違う世紀末」
「愛を取り戻そう」
「そうそう、そっち」
なんだか異様に盛り上がった。そして、他に質問ある人は、と促すと先程より多く手が挙がった。
「んじゃあ、そこの金髪の人」
金髪三枚目を指名するとそいつは急に腹を抑え出しこちらを睨む。
「教えてくれ……転校生、俺はあと何回用を足せば尿意が無くなる……」
イケメンボイスだった。顔は別にイケメンではない。
「全部出せばいいんじゃないかな」
「出しても出してもこの疼きは収まる事を知らないんだ……」
「出してきて、どうぞ」
「ウッ……出るっっっ!!」
かなりのイケメンボイスで出しても出してもとか言いやがるので、その辺にいたクソメス共が一斉に股を抑えはじめた。多分お湿りだろう。オマエのイケメンボイスで大洪水。
「だが、お前の言うことも最もだ。トイレいっていいか?」
「トイレをするのに他人の許可はいらないんだぜ?」
「恩にきる、お前とはうまくやっていけそうだ」
そしてトイレに向かった頻尿イケボは二度と戻ってこなかった。多分膀胱がイッてしまったのだろう。汚いので触らないことにした。
「他には?」
「じゃあ、私からもいい?」
「どうぞ」
「ずっと気になってたんだけど、ソレ隣の高校の制服だよ?」
「馬鹿な、コレはママンが用意してくれたものやで!」
俺は悔しさと恥ずかしさで窓から身を投げた。




