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摩天楼の立ち並ぶ、古ぼけたビルの一角。
そこには小汚い机が並んでおり、社畜が数世代前のOSが入ったPCとにらめっこしながら仕事に励んでいる。
そんな中、時折場違いな甘いOLの声が響く。
「みなさん、たまにはお茶でもどうですかぁ?」
ここは2流の出版社のオフィス。
社畜館の本社だ。
オフィスの端の給湯室では、いかにも草臥れた初老の男とまだ三十路前と思われる男がたばこをフカシながら話し合っている。
「部長、今回のコンテストの結果どうしましょうか?」
最初に口を開いたのは三十路前の男だった。
「富田君、大手サイトに書き込まれている件を気にしてかね?」
「はい、部長」
部長と呼ばれた男は、少しだけ沈黙した後に口を開いた。
「富田くん、あの件は無視したまえ」
「何故ですか部長、あの作者は、以前に不正をした件で処分された人間と同一人物と思われますが……」
部長の意外な反応に驚きを隠せない富田。
その反応を読んでいたかのように部長は続けた。
「良いかね富田君、君はこのコンテストの真意は理解しているのかね?」
唐突な部長の質問に富田の目が宙を泳ぐ。
暫く沈黙が流れた。
「真意ですか?。
しかし、通常このようなコンテストを開催する趣旨としては、地に埋もれた才能を発掘する……」
富田が全部言い終わる前、その言葉を遮るように部長は話し始めた。
その顔は肉牛を食肉処理場に出荷する時の畜産農家のような顔をしている。
「富田君、もう良い、もう良い。
そのような綺麗事を聞きたくないのだよ」
「と言われますと?」
怪訝そうな顔で富田は部長の顔をみると、
いつものポーカーフェイスだが、視線は険しい。
彼は部長の真意を掴み損ねたと感じた。
「君は優秀だが、まだ世慣れていない」
「部長、どういう意味ですか?」
「このコンテストで我々が求めているのは『鵜』だよ」
「『鵜』と言うと、鵜飼いで使うあの鳥ですか?」
「そうだよ、あの鳥だよ。
考えても見たまえ、鵜というのは水に潜って獲物を捕まえてくれるだろう」
「それは鳥の習性ですから……」
「しかし、鳥の首には縄が付いていて取った鳥は、自分では獲物を食べることが出来ないのだよ」
富田の顔がいきなり明るくなった。
部長の真意を理解出来たようだ。
「部長、判りましたよ。
つまり我々に利益をもたらし、かつ、その上がりを食べない作家を発掘すると言う意味ですね」
「うむ、そう言う事だ。
あの作者は以前処分された事がある。
つまりだ、規約違反を盾にして賞金を払わせないと言う手段も取れる訳だ、しかも才能がある」
部長はポーカーフェイスを貫いているが、生ゴミを見るような目つきで富田を見て居り、目の奥には邪悪な炎がくすぶっている。
「さすが部長です」
「所で、富田君、君は今まで良くやってくれた。
しかし、今回の件では君に失望させられたよ、この程度の自分の火消しすら出来ないのだからな」
「……」
青ざめる富田。
どうやらこの男の脛には傷があるようだ。
部長はその事に気が付いていた。
「今回のコンテストの不正を儂が知らないと思ったか?
君が次点の作家と不適切な関係が有った事と、収賄と言う事で本来ならと言うことで懲戒免職だが、今までの貢献に免じて依願退職と言うことにして置いてやろう」
富田はがっくり肩を落とすと、自分のデスクに戻ると何かを書き、部屋から出ていった。
その姿を嬉しそうに見ていた女性が居た。
「あの禿を処分してくれてありがと~部長さま♪」
突然、部長の後ろから甘い声が響いた。
彼が振り返えると、其処には、けばけばしい今風の服を着た20代、いや10代と言っても通りそうな、あどけなさの抜けきらない細身の女性が立っていた。
彼女は天使のような顔で部長に小悪魔のように微笑んでいる。
「雪乃くん、君にはかなわないな」
「ありがとうございます、あたしのアイデア良かったでしょ?
コンテストで作家発掘して、禿も処分できる一石二鳥の作戦」
部長は暖かくも優しい笑顔を雪乃に送っている。
「君の見立て通り、コンテスト一位の作家は優秀な『鵜』と成りそうだよ」
「でしょ~ あたしが目を付けたのは絶対に良い『鵜』になるんだから。
だからあたしが強く推したのよ。
それに、禿は、あたしが思ってた通り次点の作家と肉体関係あったし、しかも、あたしが見てるのも知らないで、禿は賄賂貰うんだから男ってバカよねぇ」
雪乃は冷たく微笑むと、部長にネコの様にすり寄った。
「雪乃くん、今度は何のおねだりかな?」
「お父様、今度のご褒美はグッ〇のカバンでも欲しいかなぁ……」
「そうだな、考えておこうか。
富田も魚を欲張らないなら『鵜』として使い道あるんだがな」
「魚を食べちゃう『鵜』なんてタダの害鳥よねっ」
雪乃は冷たい表情で富田のデスクを見ている。
「鵜飼の『鵜』の最後って部長は知ってますぅ?
使うだけ使われて最後は、ポイなんですよぉ」
「知ってるよ だから作家を『鵜』に例えたのだよ。
しかも鵜飼の『鵜』には首に縄が付いているだろう?」
「なるほど~ 作家も契約で縛られているから一緒よねっ」
部長の視線の先には、数年前にベストセラーだった小説の山がある。
書籍化したがすぐに使い潰されて、すぐ此処に仲間入りするであろう今回の作者を思いながら。
部長が煙草を咥えると雪乃はすぐに煙草に火をつけた。
「あたしたちは、この作者が居るからこんな暮らしが出来るんですよぉ。
けど、入れ替わりが激しいから、すぐに忘れちゃいますけどねっ」
雪乃はネコの様に部長にすり寄りながら甘い声で話し続けている。




