第91話 「アールヴの美少女」
俺達クラン、バトルブローカーはこれから失われた地と呼ばれるペルデレを攻略し、ソフィアの為にガルドルド魔法帝国の秘密を得なくてはならない。
だが、それだけではなく悪魔王国から依頼されたミッションとして、ベルカナの街での商取引的なルート作りも必要だ。
色々活動するに当たって、まず宿を決めねばならないが、クランのメンバーもヴォラクもこの街は初めてで心当りが全く無い。
そこで俺達はアールヴの入場管理官ローペが教えてくれた『白鳥亭』へ行って見る事にした。
門から街中に入ると俺達の目の前に綺麗な石畳で舗装された大きい道があり、その遥か先に中央広場がある。
どうやら今迄見た街同様に、中央広場から放射線状に道が延びているようだ。
ううむ……
俺が行く街、行く街、どうして同じ様な構造なの?
これも俺の影響?
と思ったら、この街は隣国ロドニアの王都ロフスキを模して造られたらしい。
という事はロフスキにも俺の中二病的な影響が出ているのか?
ああ、もう!
何が何だか、一切が分からなくなって来た。
街の様子を見るとやはり為政者である白のアールヴことリョースアールヴ族が目立つ。
街角に警備中の革鎧を纏った美形の衛兵が結構居るのだ。
いくら恰好良くても男などはどうでも良い。
俺がチェックしたのは当然、女だけ!
こんな美女が街中に居たら雰囲気は当然華やぎ、気分も著しく高揚する。
もろ俺の大好きな中二病的光景である。
ただ基本的にアールヴ族は非常に排他的なので、いきなりナンパしてもまず振られるのがオチだという。
まあ俺には今、2人も可愛い嫁が居るからナンパなどする気は無いが。
いかん!
とりあえず『白鳥亭』に向わねば!
俺は目の前に居たアールヴ女性の衛兵に『白鳥亭』に行く道を尋ねてみた。
このような時は情報を得た者の名前を出した方が良いという場合もある。
俺達が同族の入場管理官ローペに教えて貰ったと伝えると美しい彼女は相好を崩す。
「それは、それは! その者の性格は良く知っております。彼が白鳥亭を紹介するとは貴方がたを余程気に入ったのでしょう。道順はこうです」
超絶美形アールヴさんは懇切丁寧に教えてくれた。
俺の近くに寄って教えてくれたので彼女のかぐわかしい香りをつい思いっきり嗅いでしまう。
その時であった。
俺に向かってとてつもない殺気が放たれたのである。
え!?
何だ? こ、これは!?
俺が恐る恐る殺気のした方向を見ると嫁達が凄い形相で睨んでいた。
ジュリア、イザベラ、そして何とソフィアまでがだ。
ヴォラクは嫁達の気配に怖れを為して、とっくにその場から逃げている。
そして物陰から怖ろしそうにこちらを窺っていた。
こんな時は下手に言い訳しない方が良い。
俺は意味も無くにこっと笑い、さらっと言った。
「じゃあ行こうか」
「「「…………」」」
重いな~、この沈黙!
まあ、仕方無い。
こんなんでいちいち殺されそうになっていたらきりがない。
俺は素知らぬ顔をして出発したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
暫し歩いた俺達は既に中央広場へ到達していた。
目指す『白鳥亭』は中央広場を経由して延びている他の道路の道沿いにあるという。
今度は殺気を放たれないように男のアールヴ衛兵に聞きながら、進んで行く。
あ~あ、詰まらない!
どうせなら、アールヴ美女と話したいのに……
すると何かあったのだろうか?
中央広場の一画で何か人だかりがしているのが見えたのである。
「何だろう?」
こんな場合はちらっとでも見てみたくなる野次馬根性を持つのが人間である。
『僕もあるよ、そーいう野次馬根性! 楽しいよね!』
え!?
また、こいつか!
見に行くの、やめておこう!
この方が絡むと碌な事にならんわ!
いきなり、俺の魂に話し掛けて来た邪神様、それも久々の登場。
俺は嫌な予感しかしないので踵を返そうとした。
『ま~ま~、そんな事言わないでさぁ、ちょっと見ていこうよ』
うわ!
身体の自由が利かない!
こ、こいつ!
『い~じゃん、面白いよぉ!』
俺は無理矢理身体の自由を奪われ、そのまま邪神様に連れて行かれる。
嫁達は自由の利かない俺の後ろを不思議そうについて来た。
――そして俺は恐る恐る人混みを掻き分けて覗いて見る。
「き、きゃー、だ、誰かぁ、た、す、け、て~。この人達、獣よ~、い、いいえ、まるで悪魔なのよぉ~」
何だ?
このド下手な、素人棒読み台詞は?
さりげなく見てみると声の主はアールヴの美しい少女であった。
金髪で長髪。
深みのある菫色の瞳を持つ整った憂い顔。
綺麗な緑色の革鎧を纏って、腰にはショートソードを提げていたが、剣は何故か抜いていない。
何だ、この娘……結構強いや。
俺の持った第一印象は見かけによらない彼女の強さである。
それも彼女から放出される爽やかだが、鋭い魔力波を読んでの事なのだが。
アールヴの美少女に相対するは人間族の冒険者といった出で立ちの若い男3人。
見かけは派手な色の鋲だらけの革鎧。
ごついロングソードを腰から提げているが、放つ魔力波の力は低く、所詮、こけおどし。
実力は少女よりずっと低そうだ。
でも俺は先程から何故この群集が少女を助けようとしないのか不思議でならなかった。
あのアールヴの娘。
強そうなのは分るけど、衛兵も含めて誰も助けないのかな?
俺は傍らに居る人間族のおっさんに聞いてみる。
しかしおっさんは俺の問いに対して何も答えない。
うんざりしたような顔付きで首を横に振っただけである。
ほら、やっぱり危険な予感が一杯だ。
その瞬間、何故かアールヴの美少女が俺を見た。
何の予告も前振りも無しに俺の顔をまじまじと見たのである。
そして目が合った!
やばい。
これって最初にイザベラに会った時の何か嫌な感じと一緒だ。
俺は本能的に人混みから抜けようとした。
幸いな事に『邪神様』から受けた呪縛は解かれている。
「皆、行くぞ!」
俺はジュリア達に声を掛けると踵を返して走り出す。
「こらぁ、そこの人間、ちょっと待てぇ!」
背後から独特な節回しの声が追って来た。
しかし、はい分かりましたと待つ訳が無い。
俺は少女の声を無視して、人混みからとっとと抜けたのであった。
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