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第89話 「悪魔王国からの旅立ち」

 俺達クランバトルブローカーが向かう次の目的地は、旧ガルドルド魔法帝国の秘密が眠る失われた地……『ペルデレ』である。

 

 今迄の話だと、コーンウォール迷宮攻略以上の困難が予想される。

 その為には、まず本拠地となる街を決めて、情報収集を兼ねて支度を整えようという話になった。

 行方不明者続出という事からコーンウォールと違って、ペルデレには冒険者が身支度を整えるキャンプが存在しないらしいのだ。

 

 当然、悪魔王国との商業ルート構築も考えて……である。


 地図を見るとペルデレから真南へ10kmほど下った所にその街はあった。

 北の大国ロドニアとアールヴの国の境にある、人口2万人ほどの結構大きな街だという。

 街の名はベルカナ……

 ちなみにこれはアールヴ達が呼ぶ呼称でロドニア人はベートゥラと呼ぶらしい。

 名前はどちらも白樺という意味だそうだ。


 周囲を白樺の広大な森に囲まれているせいで、このような名前がついたのであるが、国境にあるせいで双方の国の監視と平和維持、そして最大の目的である交易の為に作られたと街との事だ。


「この街ならこの王宮から転移門で直ぐ近くに移動出来ます」


 バルバトスが胸を張るが、破壊されていない割には余り使われていないらしい。

 

 ちなみにこの街の主権は白のアールヴが持っているという。

 

 白のアールヴとは世間一般に知られているエルフと言う奴だ。

 スリムで美男美女揃い、自然を愛してストイックな生き方を貫き、とても長命な種族である。

 彼等はリョースアールヴと呼ばれる、(いにしえ)の神の元眷属なので死霊術や黒魔法をとても嫌う。

 そのような街なので、悪魔族とは取引出来る闇の商人が殆ど居ないのだ。


 ちなみに黒のアールヴと呼ばれるデックアールヴはその対極に位置する種族である。

 ストイックに生きるリョースアールヴに比べて魔法にも生活的にも大らかで奔放なのだという。

 体型もスリムなリョースアールヴ達に比べると若干肉付きは良いと言われている。


 現実的に、この街で取引窓口を置くのならデックアールヴの誰かを探すのが良いだろう。

 だが街の状況を見てからでも遅くは無い。

 または普通の人間をダミーとして1つの街を経由して交易しても良いのだから。


 俺とイザベラが謁見している間に、当面の旅の準備は全部整っていた。

 バルバトスとヴォラクが付き添ってくれた事もあってジュリアが中心になり必要なものを買い揃えてくれていたのだ。

 このところ、アルフレードルの命令で親衛隊の監視も無くなったから、全く支障はなかった。


 これなら直ぐに出発が可能である。


「じゃあ早速出発しようか」


「「「「おう!」」」」


 俺の出発の打診に対して、各自が迷い無くOKの返事をくれた。


「では……こちらです」


 バルバトスが王宮の転移の間に案内する。

 後から聞いた話だが、悪魔王国ディアボルスで転移門の使用は基本王族に限られており、それも事前に使用目的を明確にした厳しい届け出が必要だという。


 という事は勝手にこの転移門を使ったイザベラは……凄いな。


 俺がそんな目でイザベラを見ると彼女は悪戯っぽく笑ってぺろりと舌を出した。

 そんな俺達を見ながらバルバトスがきっぱりと言い放つ。


「この転移門の間の入室は、王の許可制となっていますから、さすがのベリアル殿でも勝手には入れません」


 おお、さすがだな。

 奴の腹黒さをちゃんと見抜いているよ。

 確かにあんな奴が地上に来たら何をするか分らないからな。


 バルバトスが手を(かざ)すとドアが左右にゆっくりと開いて行く。

 俺の前世で言えば、認証式の鍵になっているのであろう。

 一歩入った転移の間は広さが30畳くらいある広い部屋だ。


 部屋の中は真っ暗である。

 しかしバルバトスが指を鳴らすと彼の魔力が反応したらしく備え付けの魔導ランプらしき明かりがぽうっと点いた。


 床には複雑な図柄といくつもの難しそうな文字が書かれた大きな魔法陣がひとつ描いてある。

 仕組みは全く分らないが、この魔法陣に魔力を通して転移門を使うのであろう。


 でもさ……この前って帰る時、ここ使わないで来たよね。

 あんなに苦労して帰って来たのにさ。


 そんな俺の不満そうな顔を見たのであろう。

 イザベラがにっこりと笑って言う。


「うふふ、私が『家出』していたからね。出る時は良くても帰りは父上がロックして使えなかったんだよ」


 そのイザベラが魔法陣に俺達を(いざな)った。

 バルバトスは魔法陣の外で俺達を見守っている。

 彼は俺達に同行したい気持ちがありありと出ていたが、ベリアルの監視や提携した商会との交渉の再調整などの仕事の為、王国に残るのだ。


「ではお気を付けていってらっしゃいませ! おいっ、ヴォラク! 良いか、トール様達に一生懸命仕えるのだぞ!」


「分かってるって! こちとら約束したら命懸けても頑張るつもりだからよ。ぜってーに役に立ってみせるぜぇ!」


 何となく皆でバルバトスに手を振った。

 当然ながらバルバトスも名残惜しそうに大きく手を振り返す。


「トール様! ぜひいつかアモンも入れてこの世界を旅しましょう。約束ですよ!」


 おお!

 嬉しい事を言ってくれる!

 俺は前世では本音で話し合える親友なんて……全然、居なかったからな。

 何か……あれ? 

 涙が出て来たぜ!


「あれ? トール泣いてるの?」


 俺の顔を見て不思議そうに聞くジュリア。


「いいや、目にこころの汗をかいたのさ」


 俺は言い尽くされた台詞を言って、涙を見せないように真上を向いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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