第88話 「悪魔王からのプレゼント」
美少年悪魔ヴォラクを仲間に加えた俺達は王宮に戻った。
後、必要なのは移動用の手段である。
駄目もとでも、何かお願いしておいた方が良いとイザベラに言われたので、バルバトス経由で悪魔王アルフレードルに申し入れをしてみた。
待つ事2時間、早速アルフレードルから謁見の許可が下りたので、例によって俺とイザベラは王宮の大広間に向かう。
アルフレードルはいつものように玉座に座っていたが、俺とイザベラが顔を見せると立ち上がって相好を崩した。
自ら認めた紹介状の力を借りたとはいえ、名だたる商会と提携の話を纏めて来た事がとても嬉しいらしい。
どうやらイザベラの姉であるレイラとも話したようだ。
今回の俺達の意図はアルフレードルへ完全に伝わっている上に、娘婿である俺が悪魔王国の為に働く事が何よりも嬉しいのだろう。
「余はお前達に期待しておる!」
アルフレードルの言葉を聞いた宰相のベリアルが不機嫌そうに眉を顰める。
あ~あ、これではRPGで良く居る悪大臣と同じパターンだ。
「願いを叶えるぞ。お前達には王家に伝わる古の神々の秘宝を授けよう」
「古の神々の秘宝?」
「陛下! し、暫し、お待ちください!」
アルフレードルが『秘宝』を授けようとした時に横槍が入った。
例によって宰相ベリアルである。
「大切な王家の宝をいかに王女様とはいえ、軽々しく国外に出しても良いものでしょうか?」
ベリアルは良く言えば諫言をしたのだが、この場合はいかにも間が悪かった。
俺達が王国の――いやこの世界の全悪魔の為に働く事を知っているアルフレードルは不愉快そうに唇を噛むと、この小賢しい宰相を叱責したのだ。
「馬鹿者! トール達は王国の、いや世界の悪魔達の為に働いてくれるのを説明された筈だ。このような時に活用してこそ宝の真の意味があるのだ。何故それが分からぬか?」
「は、ははっ!」
項垂れて引き下がるベリアルであったが、相変わらずその目は俺達への憎悪に満ちていた。
「ふむ……では話を続けようか。これは古に滅んだ北の大神の秘宝を再現したものだ。準備の物をこれへ!」
アルフレードルが侍従長のアガレスに合図を送ると、既に用意が出来ていたらしく悪魔内務省の職員らしい若い悪魔が大きな宝箱を運んで来た。
むう――こういうセレモニーも嫌いじゃあないけど。
肝心の『秘宝』ってどんなんだろう?
宝箱が静かに置かれるとアルフレードルが厳かに言い放つ。
「トール・ユーキよ、そなたに我が王国の秘宝である『鷹の羽衣』を与えよう。大いに活用するが良い」
鷹の羽衣?
おおお、そ、それって着用すれば鷹に変身して大空を自由に飛べるって奴?
そりゃ、凄い!
「トールの妻であるイザベラよ! そなたと女性の眷属達には白鳥の羽衣を授ける、これで夫をしっかりと助けるが良い! 頼むぞ!」
白鳥の羽衣も同様の性能を持つ。
着用すれば白鳥になって……以下同文。
「加えて王国から地上への移動については、王国内の転移門の使用を自由に使う事を認める。ちなみにこの王宮の転移の間から直接各地の転移門に向かう事が出来るぞ」
おおお、それも凄い!
あっという間に目的地に向かう事が出来るだろう。
「加えて王国国内の移動用としては馬車を1台、授ける。頑丈な馬と共にな」
はい、これも地味に嬉しいです!
アルフレードルから授かるものはこれで終わりらしい。
俺とイザベラは顔を見合わせると改めて跪いた。
イザベラが顔を下げたまま声を張り上げる。
「父上! いえ、陛下! 恐れ多くもこのようなご支援を賜り、トールの妻としてこの上ない喜びを感じております。誠にありがとうございます」
「ははははは! 何の! お前達には最大の助けをすると心に決めておる。このような事はきっかけに過ぎぬわ」
いつもの厳しさはどこへやら、ここに居る怖ろしい悪魔は娘が可愛い1人の好々爺である。
そして……
「トール! お前は神の使徒でありながら剛直な悪魔達にこれほど好かれるとはな。ははははは!」
アモンやバルバトスの事を言っているのか?
俺だって彼等は好きだ。
「余もだんだんとお前が可愛くなって来たわ。魂を喰らいたいほどにな」
この親爺もか!
でも魂を喰いたい!?
俺は思わず両手を合わせた。
「それはご勘弁願います!」
「ははははは! 冗談……じゃ! ははははは!」
全然冗談には聞えなかった……
目が笑っていないから……
王宮の大広間にはアルフレードルの高笑いがいつまでも響いていたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王宮での謁見の後、俺達はあてがわれた部屋で今後の打合せを行っている。
テーブルの上にはオロバスから譲って貰った地上の精密な地図が広げられていた。
アルフレードルから貰った美しい羽衣をジュリアとソフィアに渡すと2人とも女の子らしくとても喜んだ。
そもそも白鳥の羽衣とは古に滅んだ大神が配下の美しい戦乙女達に与えたといわれる魔道具である。
試しに3人の美少女が羽衣を着た時の神々しさといったら半端無い。
神の遣いである戦乙女達がいきなり降臨したという美しさなのだ。
イザベラは悪魔の娘だから表現としてはおかしいかもしれないが、俺はそう感じてしまったのだから仕方が無い。
「すげーや、姐さん達! 滅茶苦茶、綺麗だな! こりゃ兄貴は男冥利に尽きるよな!」
べらんめえ調の美少年悪魔ヴォラクもすっかり俺達に馴染んでいる。
俺の事を兄貴、嫁達を姉御と呼ぶ不思議な奴だ。
傍らに居るバルバトスは渋い顔だが、律儀で真っ直ぐなヴォラクは俺達バトルブローカーのムードメーカーになりつつある。
いずれブネやラウムに負けない立派な商会を持たしてやるのが目標だ。
それは彼の為だけではなく、信用の出来る商会の設立が俺達の利益にも繋がるからである。
「コホン! では次の皆様の目的地ですが……」
バルバトスが言い掛けるのを抑えて俺は念を押す。
謁見の時に見せたベリアルの表情が気になったからだ。
「アルフレードル陛下の強さは重々承知で言っておく。ベリアルの動きには充分注意しろよ」
バルバトスが眉を顰めて俺に返した。
「奴が歯向かうとでも……」
「俺の知っている諺を言おうか……備えあれば憂いなし……だ」
「……分かりました。他の方ならいざ知らず貴方様の仰る事ですから注意しましょう」
バルバトスは自分の上司である侍従長のアガレス、そしてアモンにも協力して貰うという。
今、悪魔王国ディアボルスが乱れては、悪魔世界の経済振興への道が遠くなる。
俺は真剣な表情のバルバトスに再度注意するように念を押したのであった。
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