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第87話 「商人志願」

 商品を全て取り扱う事が出来る! ブネが豪語していた事を俺達が伝えると、ラウムはせせら笑った。


「何でも? 相変わらず節操の無い野郎だぜ! 余り奴を信用しない方が良いですよ」


 吐き捨てるように言うラウムだが、信用に値するかどうかではブネとどっこいどっこいだろう。

 はっきり言って怪し過ぎる。

 俺達からすれば、ブネとラウムを競わせて、上手くやるのは勿論だが、双方の得意分野を把握しておきたい。


「そこまで言うのなら、お前の得意分野を教えてくれよ」


「俺のですか? 俺は元々宝石商なので宝石、貴金属の類の扱いにかけてブネには絶対に負けませんよ」


 宝石には基本的価値と共に時価があるとラウムは強調する。

 その機会を逃さず、大勝負に出るのが商人の度胸だと言うのだ。


 大勝負ねぇ……

 やはりラウムは成り上がりだけあって投機的な性格である。

 ブネの安全過ぎる経営方針とは真逆だ。

 しかしそうやって今迄のしあがって来たのであろう。


 それにしても宝石か……

 財宝にしてもそうだが、悪魔の世界にも蒐集家というのが居るのだろうか?

 もし居れば、趣味の世界から近付いて親しくなれるかもしれない。

 悪魔から見れば不倶戴天の敵であるスパイラルの使徒でもだ。


「宝石や装飾品の他に得意分野は?」


「金属や錬金術の素材。もしくは嗜好品ですね……それも絹織物などの高級品かな」


 高級品の織物……か。

 となるとこいつ、さっきブネが言っていた稀少品である混沌布は扱えないのかな?


「突然だが、ラウム。お前、もしかして混沌布は扱えるのか?」


「混沌布ですか? ふふふ、ぼちぼち……ですかね」


 ラウムのこの言い方はだいぶ『含み』がありそうだ。

 当然取引しているという言い方なのだろうが……

 『禁断の裏ルート』かもしれない。


「ラウム、ぼちぼちというのは……どういう事だ?」


「ははは……トールさん、ぼちぼちはね、ぼちぼちですよ……」


 分った! 王国の高官である悪魔(バルバトス)が居る前じゃあ、言えない裏ルートって事ね。


 俺は納得すると小さく頷いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 これで悪魔王アルフレードルに紹介された悪魔商会2つとは無事?『提携』出来た。

 ちなみに悪魔は契約には拘るし、裏をかかれても困るので双方とも確りと契約書で提携を取り交わしてある。

 こっちの屋号は『バトルブローカー』で良いんだよな。

 

 交渉話が終わってラウムに見送られて、俺達は表へ出る。

 だが、簡単な別れの挨拶をしたら、ラウムはさっさと商会内へ引っ込んでしまった。


 まだ俺達にわだかまりがあるようだが、彼との絆を強くする為には実際に商売で実績を作るしかない。


 それを見越したのか、すかさずバルバトスが話し掛けて来る。


「トール様、とりあえず王宮に戻りましょう。その後、失われた地……ペルデレへ向われるのですよね?」


「ああ、そうだ」


 俺が返事をしたその瞬間であった。


「あんた達、ちょっと待ったぁ!」


 俺と正対したバルバトスの背後から美しい少年のような、いわゆるボーイソプラノのような声が聞こえてきた。

 すかさず俺達を守ろうと構えるバルバトス。

 しかし俺の動きはそれ以上に速かった。

 魔剣を構えて相手と『家族』の前に立ちはだかったのである。


「おいおい! お、俺はよぉ!?」


 蓮っ葉な言葉とミスマッチな美しいボーイソプラノ。

 その主は声同様、美しい顔立ちをした少年のような悪魔であった。


 ジュリアとソフィアが「へぇ」というような顔で反応している。

 ふ~ん、2人とも『面食い』なんだねぇ。


「言っておくが、あんた達に敵意はねぇよ! それどころかお願いがあるんだよぉ!」


 叫ぶ少年悪魔の魔力波オーラを見ると、確かに殺意どころか、悪意も感じられなかった。


「俺達はクランバトルブローカーだが……そうと知っての事か?」


「ああ、お、俺はヴォラク! あんた達の事情を、とある情報屋から金貨100枚で買って知ったんでぇ!」


「何!? 金貨100枚で情報を買っただと!?」


 ヴォラクの言葉に反応して、怒りの魔力波オーラを発し剣を抜いたのはバルバトスである。

 彼は鋭く光る剣の切っ先をヴォラクに突きつけると、低い声で問い質した。


「貴様、この方達の事は極秘情報なのだぞ。売ったのはどこの情報屋だ? 吐け!」


「ひ、ひいいいいい!」


 確かにクランバトルブローカーは極秘扱いだろうが、この街に入る際にあれだけ派手に暴れたから、少なくとも俺の事は知れ渡っていると思う。

 俺は剣を納めると怒髪天を衝くバルバトスを制してヴォラクの方に向き直った。


「ヴォラクと、言ったな……」


「あ、ああ……そうでぇ」


 悪魔ヴォラク――俺の記憶にはこいつの名もある。

 双頭の竜に跨った、天使の翼をもつ少年の姿をした悪魔。

 召喚者に財宝のありかを教える能力を持っている筈だ。

 その彼が一体、何の用だ?


「俺の……話を聞いてくれるのかい?」 


「ああ……」


 俺がOKしてやると、ヴォラクは小躍りして喜んだ。


「ありがてぇ! 俺はぁヴォラク! このソドムの街でよぉ『何でも屋』みてぇな仕事をしていたのさ」


「『何でも屋』……」


「ああ、そうよぉ! その仕事で必死になってなぁ、何とか金貨300枚を溜めたんだ。金貨100枚を情報屋に、100枚で商人の鑑札を購入して残っているのは100枚のみでぇ!」


 こいつ、何を言っているんだ?

 まさか?


 俺の予想通りであった。

 ヴォラクはいきなり俺達の前で土下座したのである。


「ずっと『何でも屋』をやっても上がり目はねぇ! 俺はよぉ、ちゃんとした商人になりてぇんだ! 頼む、俺を雇ってくれぇ!」


 俺は改めて土下座するヴォラクを見た。

 彼から発する魔力波オーラは王国の事情なんか一切考えていない自分のみの事だけだ。

 しかし真っ直ぐで純粋な魔力波は却って信じられると俺は思った。

 商人には必須である上昇志向そのものだからだ。


「俺はよぉ! このソドムの街の事情も滅法詳しいし、凄く使えるぜい! 遠慮なくどんどんこき使ってくれ! 残りの財産である金貨100枚はあんた達に差し上げらぁ、まあ当座の生活費と保証金みたいなもんでぇ! これで俺は背水の陣、裸一貫で絶対にのしあがって見せるぜぇ!」


 力説するヴォラクを見てジュリアも彼を気に入ったようである。

 勿論、変な意味では無い。

 商人としての根性に見込みがあると言う事だ。


 俺とジュリアはお互い顔を見合わせて大きく頷いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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